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第139話 地下施設

 俺たちが待機している広い保管庫にルビオンが到着するのには、それから半日とはかからなかった。


「彼がルビオン。俺の元で働いてくれている諜報員だ」


 本当の名前はベンノだが、この名前はエミーしか知らない。

 ミラは大丈夫だが、ジムは考え無しにアリアナに喋ってしまう可能性があるから俺たちの中では“ルビオン”という名前で通す事にした。


「エミーとジムは初めて会うんだよね?」


 ミラは、王宮の地下牢で会っている。


「ルビオンと申す」

「俺はジェームス」

「私はエミリー、みんなはエミーって呼んでいるわ」


「皆さんの事は全て親方様に聞いております。エミリーさん……娘のアリアナの事、宜しくお願いします」

「ええ、分かってます。アリアナは今、治癒魔法が使えるようにって頑張ってますよ」


 自分がアリアナの父親であることを、ここで他のみんなにも伝えたのは自分を信用してもらうために彼なりに考えた結果なのだ。


「私が父親であることは、アリアナには伏せておいてもらいたいのです」

「どうしてなんだ?」

「今更、娘に合わせる顔が無いし、こんな仕事をしていればいつ命を落とすか分からない。再び娘に辛い思いをさせたくないので、遠くから見守るだけと決めたのです」


「そうか、分かった。でもいつか、アリアナちゃんにはすべてを話せる日が来るといいな」

「……」


 膝をついて下を向いたまま微かに頷くルビオンは、少し嬉しそうな表情をしている様に見えた。


「さてと、先ずはこの施設の全容を把握する事から始めようか」


 ルビオンからの情報と魔道レーダーによる画像情報を融合すると、この地下施設の全容が明らかになった。


 今いるゴーレム保管庫に人はいないが、他にも部屋が沢山あって人の数は全体で150人程度だ。

 魔道レーダにて善悪判定を行わせると、殆どは緑か黄色だが赤も多数いる。


 この施設には、ゴーレムを作る人、人口魔石を作る人、人口魔石に魔力を充填する充填要員といった人たちがたくさんいるようだった。

 特に、充填要員としての魔術師が大人数施設に収容されている。俺が作った太陽光魔力充填システムとは違い、人が保有する魔力によって魔力充電をしているらしい。


「これだけの人数をこの人数で制圧するのは難しいですね」

「だろうね。騎士団を呼べば制圧できるかな?」

「100名ほどの人員で武力差を示せば大丈夫でしょう」

「では、騎士団をここに呼ぶ事にしよう」


 陛下からの依頼は、情報収集が主な任務だけれど、可能であればゴーレム施設の制圧を期待されている。


 俺は地下倉庫の片隅に、魔道ドアを設置して外に出た。


「レオノール騎士団長、私たちは今ゴーレムが保管されていたと考えられる地下倉庫まで侵入しています。反対側から潜入している私の部下に調べさせたところ、非戦闘員も含めて150人程度が施設内にいるようです」


 そして、詳しい部屋の状況や戦闘員と非戦闘員の人数などの詳しい状況を話したら、施設自体は制圧可能だとルビオンと同様の判断をしてっもらう事ができた。


「貴方の部下になったルビオンさんの事は私も知っています。彼も子爵殿の元で優秀な諜報員として活躍されているようですね」

「特別な事情によって彼は私に仕えてくれています。忠誠心は偽りではないですよ」

「ええ、分かっています。では早速現地に向かいましょうか」


 シルシェア盆地に戻って王宮騎士団長と話をした後、俺たちはエイヴォンの騎士総勢100名を連れてゴーレム保管庫まで即座に移動した。


 僅か数分間で100人もの武力の移動ができるのだ、やはり戦争のありかたは激変する事になるだろう。

 1万人の兵隊の移動でも、わずか数時間で完了させることが出来る。時間短縮だけではなく、兵糧の削減や体力の維持……いろんなメリットが尽くことはない。


「施設内の部屋の配置や人の数は、ここに表示されている通りで……」


 更に、敵の状況が詳しく把握できている事によって、こちらの人員配置ロスは最小限に抑えることもできる。


 地下施設の部屋は、このゴーレム保管庫の他に、人口魔石精錬所、充填部屋、魔石保管庫、充填要員宿舎、制御室、管理官部屋、管理官宿舎、食堂、厨房の設備。

 その他にもトイレや休憩所、医務室、シャワー室などもある。


「この赤い色で表示されているのが、ここの管理者と雇われ傭兵だと思われます」


 管理官部屋やコントロール部屋には、赤い点が多数表示されている。こちらで言うところの悪人が多く集まっている所だ。

 ここに多くの人員をくことによって、戦闘を最小限にする事が出来ないかと考え乍ら計画を立てた。



 綿密な計画のもと、俺たちと騎士団100名はカルトールのゴーレム製造地下施設の制圧任務について実行し、とても良い結果を残す事ができた。

 いきなり各部屋へと突入するという方法はとらず、ルビオンによって相手にこちらの情報をうまく与えて戦意を消失させ、白旗を揚げさせるという手が有効に機能したのだ。


「子爵殿、制圧した施設の人員は総勢155人でありました。この内、魔石への魔力供給要員とみられる魔術師の割合は118人と最も多く、その他は37名で構成されております」


 これらをの捕虜たちをどう取り扱うかについてだが、魔術師の118人は敵対心も無く善悪判定も全員緑色で大人しくしているため、充填要員宿舎の出入り口を封鎖して取り敢えずの収容施設として入ってもらう事にした。


 彼らにしてみれば、これまでよりも楽な処遇なのだという。

 自由を奪われて、魔力を充填し続ける毎日から解放されたと喜ぶ者たちもいるほどに。


「お給料がいいと聞いてきたのですが、窓も無いし、休日でも外に出してもらえない。まるで監獄のような感じですよ」

「これまで大変だったのですね。少しの間ここにいてもらいますが、数日中にはあなた達の処遇が決まります。もっと良い仕事を提供できますし、決して悪いようにはしないから安心してください」

「おお、それを聞いたら安心しました」


 魔術師以外の37人は管理者や万一の戦闘のために雇われた傭兵、技術要員や生産の作業者たちで、一人一人を詳しく調べる時間がとれなかった為、ゴーレム保管庫に閉じ込めて簡易的な捕虜収容施設として収監をさせてもらった。


 そして、善悪判定の魔道レーダーで赤色を示す指揮官や兵隊といった殺気だった連中は我々への敵意が消えなかった為に、ルビオンが別の部屋に連れて行った。

 ルビオンは、『私にお任せください』と言ったが、その連中をどの様にしたのかは聞かない事にした。


 ちなみに、収容中の捕虜たちの食事は必要なため、厨房で働いていた料理人は保管庫から出てもらい、数日間の食事の世話をしてもらう事にした。


 ゴーレム保管庫から撤去した魔道転移ドアは、この施設で2番目に広い制御室と言われる部屋に設置することとした。

 この部屋は作戦会議室の様でもあるし、学校の講堂の様でもある。施設の制御を行う部屋かと思ったが、人員の管理を行う部屋という意味の様だった。


「では、これから王宮に飛びましょうか」


 俺たち月盟の絆の4名と、レオノール騎士団長の5名は、国王への報告のために王宮へ飛んだ。


 ゴーレムの出現が王宮騎士団の魔道レーダーで確認されてから、わずか3日目でゴーレム製造拠点の地下施設の制圧という形で報告できたのである。


「次はハルスの制圧だな」


 魔道ドアがあれば、兵の移動もあっという間に終わらせることが出来る。報告を受けたグレンデール国王は、考えていた次の一手を速やかに実行に移した。

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