第138話 エルツ山脈の地下へ
斜面に出来た穴は、まるで鍾乳洞の入り口の様であり、高さはおよそ5m、幅は3m程度あって、そして中はとても暗かった。
「ライト!」
魔道ロッド機能を追加した魔道ガンを持って、俺はライトの呪文を唱えた。
魔道ガンが懐中電灯の様に遠くを照らすのには少し違和感があるが、これが意外と使いやすい。
「ほぼ真っ直ぐに掘ってあるわね」
「蝙蝠が出そうな雰囲気だな」
「いるかもね」
リトルトータスでもゴーレムの魔石に短時間当たっただけで魔物化しそうだった。
このトンネルの様な穴の中は、魔石から放出された残留魔素の濃度がかなり高いと考えた方がいいだろう。
「みんな武器は持ってるか?」
「俺は大剣を持ってるぜ」
「私は魔道ロッドだよ」
「魔道ビーム」
三人三様、性格が出ている。
「じゃあ、このまま進むよ」
簡易型魔道レーダーを持った俺が先頭、エミーとミラに続き、しんがりをジムに任せる。
今回持ってきた魔道レーダーは、出力と受信感度を上げる事によって土や岩盤の中でも直径100m程の範囲ならば探索することが出来るようになった。
暫く進むと、赤い反応が出現してくる。
「100マタール先に魔物発見」
「大きいの?」
「いや、反応が小さいから小型の魔物だと思う」
暫く先へ進んでから目の前に現れた魔物は、洞窟の迷宮などで時折見かけるエンヨクという蝙蝠型の魔物だ。
蝙蝠とは言っても羽を広げると1mほどもある大きな蝙蝠で、巷では“人食い蝙蝠”とも言われている狂暴な類の魔物だ。
羽は1mもあるが、胴体は20cm程度なので小型に分類されている。
(普通の蝙蝠が魔素の影響で巨大化したんだろうな?)
「ショットガンモードで仕留めてからバッグに入れよう」
迷宮では、仕留めた魔物が迷宮の循環活動によって徐々に吸収されていくが、この通路では死んだ魔物は吸収されずそのうち腐ってしまう。
ゴーレムが地下で生産されているという情報はルビオンからの情報だが、その地下施設がどこにあって、どの様な規模の施設なのかの詳細までは分かっていない。
しかし、ゴーレムが出てきた穴を遡れば施設にたどり着くのは必然だろう。
入り口からどのくらい離れている所に地下の施設があるか、そして規模や人員の数などの詳細を調査し、可能であれば騎士団と共に制圧することまでを俺たちは任務として受けているのだが少々疲れてきた。
「今日はここいらで休もうか?」
「ああ、まだまだ先かも知れねえもんな」
殆ど休まずに、かれこれ5時間ほどは歩きっぱなしだ。30km位は歩いただろうか?
「魔道ドアで家に帰る?」
「……うーん、先がどうなっているか分からないし、カルトール側の人間にドアが見つかるとマズいから、ここでキャンプしよう」
俺たちは少し狭いが、この洞窟の中で1泊する事にした。
「見張りが必要だけど、どうするかな?」
「あたしとジム、エミーとアル」
「俺たちから見張りやっていいぞ」
「分かった、じゃあそうしよう」
ジムたちが先に見張りをやっていいというので、俺とエミーは食事を終えた後に1つのテントに入った。
これまで4人で野営する場合は男女に分かれていたのだが、今日はミラが積極的に見張りの割り振りを提案してきた。
テントは2人用のテント1つでいいと皆が言うから当然こうなる。
「同じテントで寝るのって、考えてみたら始めてよね」
「あ、ああ」
ミラとジムは結婚した間柄だからそれでいいのだけれど、俺たちはまだ結婚していないし、エミーと同じテントで一緒に寝るというのは初めてで何だか恥ずかしい。
二人とも横になれずに、どうしようかと無言で見つめ合っていたら、入り口が突然開いた。
「え? な、何? ミラ」
「……消音の魔道具が必要」
「ちょっ……」
「そんなこと……」
多分、ミラはエッチをするなら消音の魔道具を使えよと言っているのだろうが、俺たちはそんな事する訳が……。
「ふっ」
ミラはニヤリとサムズアップしてからテントのチャックを閉めた。
(いやいや、こんなところでそれはまずいでしょ)
「し、消音の魔道具使って……わ、私はいいよ」
エミーさんが、積極的でござる!
結局、俺は欲望に負けてしまった。外に音が聞こえないならばと気が緩んだのだ。
◇◆◇
「交代!」
「おふっ」
「交代の時間。服を着て」
ミラがテントのチャックを開けて交代を知らせてきた。
「あらやだ、そのまま寝てしまったわ!」
「ごめんミラ、ちょっと待ってて!」
「うん」
見張りの交代時間になってミラが起こしに来たのは良いのだが、俺たちは生まれたままの姿で抱き合って寝てしまっていたのだ。
「ミラに見られちゃったけど、ちょっと恥ずかしいわね」
「うん、でも多分ミラは気にしてない感じだった」
俺たちは急いで服を着て外へ出た。
ジムが『じゃあ、交代な』と言ってすました顔してテントに入っていった。
ミラは『私たちも頑張る』と言って入っていった。
(頑張るのか?)
見張りに就いて暫くすると、エミーが消音の魔道具について耳打ちして聞いてきた。
「これって、外の音は中に聞こえるのよね」
「そうだね、外の音は聞こえるな」
見張り中にどうして消音の魔道具の性能を聞いてくるのかと思ったが、内側の音を雑音として相殺し、外へ伝わる音波を遮断する技術だから外からの音は普通に中に通すのだという事を俺も小声で答えてあげた。
一般的な消音の魔道具の性能は、外にも中にも音を通さないという物かもしれない。
そうする為には、両側に同じ機能を設ければいいんじゃないか?
でも、内側にいる者からすれば外の音は聞こえた方がいいかも?
そんなことを色々考えていたら、エミーが俺の腕の裾をしきりに引っ張っている。
どうしたのかとエミーの視線の先を見ると、テントが一定のリズムで動いていた。
「……」
「……テントって動くのな」
「……私たちの時も?」
「だろうな」
テントの中でいたしてはダメだ。
次の日の朝、何事も無かったかのように顔を合わせて朝食をとれるのも、幼馴染の誼みだからできる事だと思う。
「推測だけれど、今日の移動で地下施設まで届くと思う。だから、ルビオンに連絡をとって応援に来られないか聞いてみようと思う」
彼は、カルトール側から地下施設への潜入を試みている。
もし地下に潜入が出来ていた場合でも、魔道宅配便であれば連絡が取れる筈だ。
「カルトール側に潜入しているんだよな、彼は本当に信用できるのか?」
「帝国の陥落時に無用な殺傷をしなかったことを恩義に思っていてね。俺に忠誠を誓ってくれたんだよ」
「彼は嘘、ついてない」
ミラには、王宮騎士団の地下牢に同行してもらい、メグを監禁した犯人に対して嘘を言っているかどうか判断してもらった事もある。
「ミラがそう言うんだったら大丈夫だな」
今や、ジムにとってミラは100%信頼のおけるパートナーだ。
俺はルビオンと連絡を取ってみた。
案の定、彼はカルトール側の工作員に成りすましてこの地下の入り口に潜入を果たしていた。所謂、二重スパイというやつだ。
「無事に潜入出来ているようだ。彼は途中のゲートを閉めながら進んできている」
途中にはゲートが設けてあって衛兵が数人いるが、内側からゲートを閉めている。衛兵をどうしたかなんて書いてはいないが、多分そういう事なのだろう。
俺たちはそのまま進み、ちょうど50km程来たところで地下施設の全体像が魔道レーダーによって明確になってきた。
この通路はゴーレムを保管していたと思われる施設の半分を占める広い空間に通じている。
この保管庫以外には沢山の部屋が有って、人と思われる反応もかなりある。20年以上の年月をかけて作られた、さながら地下の要塞といった感じだろうか。
「ルビオンとはここで合流する事にしよう」
およそ100m四方の広い倉庫には、天井が落ちないようにいくつもの大きな柱が立っている。
人の反応がないこの広い保管庫の片隅で、俺たちは反対側から来るだろう仲間を暫く待つ事にした。




