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第137話 千のゴーレム

 王宮騎士団のレーダー室では、シルシェア盆地での強力な魔力反応が捉えられた。

 事前にノーマウント子爵から1000体のゴーレムが製造されているという前情報が伝わっていたので、皆が焦燥する事が無かったのは幸いだった。


 しかし、実際にそれがこの国の領地に出現する事になるとは驚きである。

 それも、子爵が予想した場所とピンポイントに一致してなのだから。


「リチャードは急ぎ、陛下に知らせてくれ」

「俺は実行部隊を招集する」


 事前の打ち合わせで、ゴーレムによる攻撃が始まった場合の討伐隊の編成は決められていた。


 先ず、王宮騎士団からは実行部隊として50名が魔術スクロール10本ずつを魔道バッグに入れて現地へ移動。

 現地に移動すると言っても、王宮の魔道転移室からシルシェア盆地の手前に設置されている魔道ドアにて転移するだけだ。


 ノーマウント子爵率いる冒険者パーティ“月盟の絆”へは、指名依頼と言う形で直接派遣を要請。


 また、魔道大剣での戦闘経験があるエルミンスターの兵士には、50名の熟練者が派遣されることが決定事項だ。


 それから間もなく、本事案をカルトール公国からの軍事侵攻と捉え、我が国はカルトール公国との戦争状態に突入したという宣言が国王から公布された。


◇◆◇


 王宮からの依頼を冒険者ギルドからの指名依頼という形で受けた俺たちは、急ぎ2階の転移室より直接現地へ向かった。

 最近は、冒険者ギルドにも魔道宅配便が普及して、ギルドからの宅配便が俺の屋敷にも直接届けられるようになっているのだ。


「1000体って言っても、ビームライフルで撃っていけばそんなに時間はかからねーんじゃねえか?」

「ビームライフルは、皆さんがいる前じゃあ使えないかな」

「なんで? バーン帝国との戦争で使ったじゃん」

「そうなんだけど、俺たちが使うのはまだ伏せるよ。その代わりに、これを使う」


 この国がビームライフルや魔道ミサイルといったとても強力な武器を持っている事は、国民や他の国にも既に知れている。

 しかし、それを開発したのが誰がまでは確定した情報が流れてはいない。


「スクロール?」

「そう、土魔法のイローションスクロールね」

「イローションって、マリーに見せてもらった風化魔法だよね?」


 要請を受けた俺たち月盟の絆のメンバーは、ほぼ同時刻に現地に来た王宮騎士団とエイヴォン騎士団の100名、エルミンスターからの魔道大剣隊50名に合流した。


「ジムは、エルミンスターの大剣隊に合流ね。エミーとミラはケガ人の治療のための後方支援、俺は騎士団に合流してスクロール隊の指導を行う」


「あたいは?」

「で、何でニーナさんがここに来てんのさ?」

「あたいもダーリンの役に立ちたいにゃ」


(パーティメンバーじゃない人が付いて来ちゃったよ)


 ゴーレムを倒すのはエルミンスターの魔道大剣隊の仕事だが、とにかく数が多いので魔道スクロール隊がイローション魔法で先にゴーレムの動きを止める。

 今回のスクロールは風化魔法をスクロールにしているので、ストーンゴーレムは関節が崩れるし、メタルゴーレムは関節部が錆びて動きが止まるのだ。

 動けなくなったゴーレムは、大剣隊がスッパスッパと叩き切って先へ進んでゆくという単純な戦法である。


「じゃあ、それぞれの持ち場に行こうか」


 俺たちが転移した場所は、シルシェア盆地から約10km程離れた場所で獣人族の村へ抜ける道の途中だ。

 シルシェア盆地に出現したゴーレムは、そのまま森を抜けて港町エイヴォンの方向へゆっくり移動している。


「この魔道レーダーでは、現在ゴーレムの群れの先端がシルシェアの西5キタールを進んでいます。我々はこのまま北へ向かえばこのあたりで遭遇知るでしょう」


 俺はレオノール団長に魔簡易道レーダーの画面を見せながら説明した。この場所から北へ向かえばゴーレムの群れに最接近する事になるのだ。


「これは分かりやすいな。敵の動きが手に取るように判るじゃないか」

「全てのゴーレムには魔石が入ってますからね」


 転移ドアを設置した地点から北へ2時間ほど移動したら、ゴーレムの行進に遭遇した。

 ゴーレムは一直線に列を組んで行進しているようだ。


「側面から一気に行くぞ!」


 レオノール団長の指揮で俺たちスクロール隊はゴーレムへの攻撃を開始した。


 およそ20m間隔で行進するゴーレムは俺たちが近づいても気にすることなく前へ進んでいたが、スクロールでのイローション攻撃を受けると反撃しようとしてきた。

 おそらく、そうプログラムされているのだろう。


「任せてくれ!」


 しかし、スクロールの魔法によって表面が崩れ落ちたストーンゴーレムは動きが止まり、魔道大剣隊の格好の餌食となった。


「魔石はどうしますか?」


 切り裂いたゴーレムの胴体からは、10個ほどの魔石が顔を覗かせている。通常の魔物のゴーレムは1個の魔石しか持っていないのにだ。

 これからも、これらは人によって作られたゴーレムだということが分かる。


「その場に置いておくと、問題がありそうだから回収しましょう。後方支援の者に集めさせます」


 大剣隊が魔石をどうするか聞いてきたので、俺は回収をエミーたちにお願いした。

 ゴーレムの数が多いから、ヒールのスクロールも騎士団にある程度持たせてあるが、今のところ全く使用していない。

 勿論、エミーたちにヒールの依頼は無く彼女たちは手持無沙汰なのだ。


「ニーナ、お前にも仕事を与える。こいつらの魔石を残さずこれに回収してくれ」


 魔道トートバッグの中から同じトートバッグを取り出してニーナに渡す。


「分かったにゃ! 頑張るにゃ!」


 トートバッグを受け取ったニーナは嬉しそうだ。


 ゴーレムが進んできた道を逆行しながらゴーレムたちを屠っていくと、ストーンゴーレムはいつしかメタルゴーレムに姿を変えた。

 メタルゴーレムへのイローション魔法は関節が錆びる。キイキイという音が耳に衝くが、動きが鈍くなったところを難なく大剣隊が切り結ぶ。


 更に逆行していくと、俺たちはシルシェア盆地に到達した。


「あそこから出て来ていますね」

「おそらく、カルトール公国の地下施設に繋がっているのだろうな」


 これまでは何もなかったところに、大きな穴がいている。

 先頭のゴーレムは、この穴を開けて外に出てくるようにプログラムされていたのだろう。


 俺たちは、シルシェア盆地で穴から出てくるゴーレムを次々に迎え撃った。辺りにはゴーレムの残骸が山積みとなって行く。


「団長! リトルトータスの色が変化しています!」

「マズいな……」


 たまたまゴーレムの山の近くにいたリトルトータスの甲羅の色が少し変化しているのだ。

 まだ回収できていない魔石でこのあたりの魔力密度が高くなっているのだろう。このままではリトルトータスが魔物化する恐れがある。


「ニーナ! リトルトータスの近くの魔石の回収を急いで!」

「分かったにゃ!」

「エミーたちもお願い」

「分かった」「うん」


 これがあちこちで魔物化し、セージトータスが大発生したらそれこそ大変だ。


「ゴーレムは出て来なくなりましたね」

「スクロールの残りもあと僅かです」


 スクロールの数は、予備を含めて1100個を用意した。事前に仕入れた情報から、ゴーレムの数は1000体だと踏んでいたからだ。

 もし情報が間違っていて、数がもっと多かった時は魔道ビームライフルの出番だと決めていた。


「我々月盟の絆は、これより冒険者としての任務を開始します」


 俺たち月盟の絆は、国王からの指名依頼という形でゴーレム施設の調査等を依頼されている。

 冒険者ではないニーナさんは、可哀そうだが国王命令だからとなだめて屋敷へと帰ってもらった。


(今度ちゃんとお礼を言っとかないとな)


「くれぐれも気を付けてください。エルミンスターの大剣隊は任務完了で帰っていただきますが、我々騎士の100名は、暫くリトルトータスや他の魔物への影響を調査し、ここで子爵殿の連絡をお待ちします」


「わかりました、宜しくお願いします」


 レオノール騎士団長の言葉遣いが、俺に対して敬語になったのが妙にこそばゆい。


「さてと、これから洞窟の探索を開始するぞー!」

「「「おー!」」」


 シルシェア盆地の東側、崩落した斜面には洞窟の入り口の様にぽっかりと穴が開いている。

 これから入る穴を前にして、俺は迷宮の探索と同様に内部探索の開始を宣言した。

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