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第135話 ルビオンからの情報

 エミーの両親の手紙に書いてあった“グランデール王国にまで手を伸ばす”という一節が俺は気になっていた。


 20年という歳月が過ぎ去っているのに、一度もこの国に攻め込んできてはいないのは何故だろう。

 そもそも、グランデール王国に対して攻め込んでくるほどの戦力を、カルトール公国が持っているとは思えないのだ。


 その時には手を伸ばそうと考えていたが、今では気が変わってしまったか?

 しかし、その考えを改めなければならない情報がそのあとすぐに寄せられることになる。


「ま、魔道宅配便で書簡箱が送られてきたわよ……」

「あ、ありがとう……」


 顔を合わせると昨夜のことを思い出してぎこちないが、二人ともできるだけ普通に接するよう努めていた。


 書簡箱というのは、手紙を魔道宅配便で送る場合に使う箱である。

 他国での諜報活動には危険が伴う。万が一のことを考えて、魔道宅配便で書簡の状態のまま送るのではなく、箱に入れて魔道カギを掛けてから送るようにしたのだ。


「ルビオンさんから情報が来たのよね?」

「うん、そうだよ」


 俺は、書簡箱を開けるための暗証番号を入力してフタを開けた。


「……」

「何て書いてあるの?」

「えーっとね。……文面が長いけど要点をまとめて読むね」

「うん、おねがい」


『自分はエイヴォンの港から商用船に乗ってテルミナ港に入った』

『カルト―ル公国に入ると、トマスら二人組の消息をたどった』


「二人組というのは、あのバーリントン子爵の息子たちね?」

「うん、そう」


『二人組もハルスに入ったことがわかったが、その後の消息は不明』

『カルトール公国では人口魔石が作られている』


「人口魔石?」

「そう書いてある」


 人口魔石といえば、エミーたちが魔道学園の魔物討伐研修でバグベアーに襲われたときに使われたのが人口魔石だったな。


「続きがあるから進めるよ」

「うん」


『エルツ山脈の方へ続く道の途中に検問所があり、一般人は入れない』


 そして、一番重要な情報はこれだった。


『どこかの地下で、ゴーレムが量産されているらしいという情報がある』


「分かった事は以上かな」

「ゴーレムって……これを使って王国に攻め込むとか?」


(そう考えるのが普通だよね)


「そこはまだわからない。次はその部分を詳しく調査してもらうように指示するよ」

「もしそうだとしたら?」

「ゴーレムは俺たちからしたら大した強さじゃないけど、問題は場所と数だな」


 迷宮のゴーレムは迷宮が生成する天然ものだが、人工のゴーレムとなるともっと違うゴーレムなのかもしれない。


 メタルゴーレムやストーンゴーレムは魔道大剣で対応できることがわかっているけど、果たしてこの国に保有する数で足りるかどうか。


(何か他の手も考えておくべきだな)


 ゴーレムであれば、土魔法のイローションという魔法をうまく使えばもろくして崩せないだろうか。

 学園で読んだ魔術全書の中に、確かいろんな物を風化させる魔法で物体を脆くする事ができると書いてあった。


「エミー、土魔法のイローションでゴーレムを倒せないかな?」

「どうだろう? やったことはないわね」


 土魔法は治癒魔法を行う為の基本魔法であって、イローションという風化魔法を積極的に覚えようとする魔術師は少ない。


 イローションという魔法は、例えば岩盤に穴をあける場合や大きな石を処分する場合などの土木工事に用いるのが通常なので地味な魔法と捉えられているのだ。


「エミーはできるの?」

「練習したことがないから分からない」

「知っている人で出来る人はいないかな?」


 魔道学園でライアナ先生から拝借したライブラリの中にも入っていない。誰かできる人に実演してもらうしかないが……


「土魔法と言えば、マリーかな? 土魔法の得意な彼女は、魔道学園を卒業して王国の建設院に就職したのよ」


 マリーと言えば、魔物討伐研修で一緒だったマリー・ホワイトだ。水魔法の制御が見事で、思わず拍手したことがあった。


「マリーは今、どこにいるかな?」

「建設院は王都にあるけど、道路や橋の建設で地方に出てることが多いかも」

「それなら、宰相殿に聞いてみよう」


 建設院の仕事については宰相殿が把握できているだろうからと確認をしたら、マリーは現在ブリストルからダカンテに抜けるトンネルの掘削工事に従事しているが、現在は実家に帰っているとの事。


「彼女はホルム地方を治めるホワイト男爵の娘さんで、ブリストル辺境伯家ご子息との婚約が決まっておりました。先の海戦で辺境伯が亡くなられ、エドワード殿が辺境伯の家督を継がれた訳ですが、陛下より結婚話を進めたほうが良いとのお達しを出されたのです」


 二人とも魔道討伐研修で共に4班だったけれど、そんな仲だとは全く気付かなかった。


「今日あたりは多分、ブリストル辺境伯の屋敷を訪問されておると思いますぞ」


 急に思い当たったマリーがエドとそういう事になっているなんて。


「ノーマウント子爵殿が辺境伯の背中を押してくださると良いのですがね」

「……と言いますと?」

「辺境伯家は父上が他界されて間もないからでしょうな……ご本人の意思がなかなか決まらない様なのです」


 ホワイト家からは両親が付いて来ているが、男爵という立場上強くは出られないという事情があり、かつ、辺境伯側にはこの縁談を推し進めてきた父親がもういない。


 エド君はそんな色恋の話をグイグイと進める甲斐性はないように思うのだ。確かに、恋のキューピットが必要な気がする。


「そういう事ならば、本人の気持ちだけでも聞いてみましょうか」

「そうして頂ければ、こちらとしても有難いですな」


◇◆◇


 俺はその足でブリストルまで飛んだ。

 飛んだと言ってもドアを通っただけだけれど……


「エド、急に訪ねて大丈夫だった?」

「まあ、大丈夫だ。実は今日、ホルムの代官を務めるホワイト家のご家族が来ているんだけど……」

「ああ、知ってる」

「え、知ってるのか?」


 宰相閣下から事情を聞いている事を正直に白状する。


「そうだったんだ」

「それで、ホワイト家の皆さんは今どこに?」

「港でハルナの見学中だよ」


 乗船は無理だが、堤防などから見学して「凄い」って盛んに言っているらしい。


「彼女との結婚に踏み切れないんだって?」

「ああ、そうなんだ」

「どうして? マリーが好きじゃないのかい?」

「いや、決してそういう訳では無いんだ。ただ……」

「ただ……?」


 何か、煮え切らない返事だ。


「僕で本当にいいのかなって思ったりするんだよ」

「何を弱気になってんだよ」


「父上が亡くなって、僕は本当に辺境伯の役目を果たせてるか自信が無いんだ」

「完璧にやる必要なんてないんだよ。エドがやれることを今はやれればいいさ」

「そうかな」

「彼女だって助けてくれると思うぞ」


「俺もエミーに結婚を申し込もうと思ってるよ」

「そうなんだ」


「俺も一人では分からないことが沢山ある。そんな時にはエミーに相談するんだよ。そうするとね、案外早く糸口をつかめるんだ。だから、エドも……そうしてみなよ」

「そうだね、僕も前を向かないとね」



 エドも俺から後押しされて心が決まったのだろう。ホワイト家の3人が帰ってくると俺が立ち合う中、マリーに結婚を申し込んだ。


(ひとまずは、これで良かったかな)


 その後、俺はマリーにお願いして、土魔法であるイローションの魔法陣を録画して屋敷へ戻った。



「ダーリン、昨日はしっかりと種付けができたみたいだにゃ?」

「おまっ、こんなところで何言って……もしかして何か聞こえた?」

「うんにゃ、ダーリンの種の臭いがエミーさんからもしているにゃ」

「それ、夕食の時に言うべきことじゃないでしょ!」

「そうだよ」


 この間から夕食は3人で食べている。俺と、エミーと、そしてニーナだ。


(厨房には聞こえてないよな?)


「でも、私たちまだ子供は作らないわよ?」

「にゃにゃ! にゃんだって?! でも、種付けしたら子供ができるにゃ!」

「私、避妊の魔法が出来るから」

「がーーーん!」


 治癒魔法は細胞の活性化による細胞分裂を促すもの。だから治癒魔法を習得すると、細胞分裂を阻害することだって可能になるのだ。

 ミラたちも、まだ子供は作らないと言っているが、ミラもまた避妊魔法習得者だ。


「そうすると、ダーリンがあたいの部屋に夜這いに来るのはまだまだ先にゃ?」

「夜這いなんてしないよ」

「ダーリーン……、あたいは早く……ダーリンの子供が欲しいにゃ……」


 ニーナが悲しそうな顔して下を向いた。

 エミーは困った顔して俺を見た。

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