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第134話 エミーとの艶事

 俺は宝石店に行って懐中時計を買ってきた。


 この世界で、懐中時計はかなりの貴重品だ。

 精密な歯車を作る必要があるので高価なものになってしまうが、貴族向けに作られたものが王都では宝石などの貴重品と一緒に売ってある。


「どうしても確かめたいんだよね」


 俺は作った魔道具の置時計が、トートバッグの中で止まっていなかった事に衝撃を受けた。

 ジムは「時計だからじゃね?」と安直に言うが、そんな訳ないと思うのだ。

 この時計が中で止まるのだったら、魔道具だから止まらなかったという事になる。


「この時計は魔道具ではないからね」


 俺はゼンマイ式の懐中時計と作った置時計とをトートバッグの中に突っ込んだ。そして待つこと30分。


 時計の針は、入れた時と同じ位置で止まっていた。

 しかし! 俺が作った魔道具の時計は時間が進んでいたのだ。


「これで分かったよ! 亜空間の中でも魔力は動き続ける事ができるんだ!」

「それって凄いの?」

「大発見だよ!」


 魔力の流れは、亜空間の中でも止まることが無いと証明されたのだ!


「召喚魔法は亜空間の中を引っ張る」

「えっ? そうだったの?」

「うん」


 ああ、確かに……そう考えれば不思議ではないのか……

 ミラに言わせれば召喚魔法というのは、魔力によって亜空間を介して精霊獣を引っ張っているというのだ。


「大発見という訳ではないかもしれない……」

「まあ、元気出せよアル」


 しかしそうすると、魔法陣を亜空間に突っ込んでも動かせるのかという疑問が生じる。俺の肩をパンパン叩くジムにはちょっとムカッとするが。



 その後、俺は誰もいない執務室でいろんなことを試していった。

 その結果わかった事は……


・亜空間の中で魔力は動くことができる

・魔道回路や魔法陣にも魔力が流れる

・物理的に動いている物は動きが止まる

・生物の動きは停止する


 そんなところだ。おそらく分子や原子レベルでの動きも止まっているので温度も変わらないし、電気も流れないのだろう。

 生物の動きが停止するというのは死んでしまう訳ではない。あくまでも停止するだけで生きているのだ。

 しかし、魔力だけはなぜか流れ、動く。


(魔力って不思議だな!)


 これまで、大きな魔法陣になるような複雑な動きをする物、形が小さすぎて魔法陣が組み込めない物は魔道具として作ることが出来なかった。


 それが、組み込む場所や体積を考えなくてもいい事になる。入らない魔法陣を亜空間に押し込めばよい筈だからだ。

 早速、俺は先日作った置時計の魔法陣を少し組み替えて腕時計を作ってみた。



「ジム、これを腕に付けてみて?」

「契約の魔道具か?」

「違うよ、腕時計だよ」

「腕につける時計か!」


 契約の魔道具も腕時計に似ているが、こちらはもっと幅が広くて手枷やサポーターのような見栄えだ。

 おそらく魔法陣が収納できなかったのだろう。


「小さくて軽いな」

「これにも契約の魔道具と同じ機能を入れられるかもしれない」

「マジか」


 うちの使用人や情報収集に当たってもらっているルビオンにもこれを付けてもらえれば動きやすいと喜ぶだろうな。



 さっそく宰相殿に話をして、契約の魔道具の改良に結び付けられる技術である事を話しした。

 その結果、王宮魔道具院の中は上や下への大騒ぎになってしまったのは言うまでもない。


 腕時計に関しては、は契約の魔道具という特殊機能を内蔵しなければ一般魔道具として売り出してもいいという判断になったので、商業ギルドに発明権の申請をして図面を一般公開した。

 地球で腕時計といえば、ほぼ誰もが持っている必須アイテムだ。きっとこの国でも流行るのではないだろうか。


 その後、魔道腕時計は宝石店でも販売されたが、魔道具屋でも大銀貨5枚ほどで売り出された。

 魔道具屋で売り出された事が一般受けして、後に大流行する事になる。


◇◆◇


 執務室の南側の窓というのは少し西側に向いている。

 まっすぐに辿ればエイヴォンの港まで高い山は無く平野が続いている。

 そこには赤みを帯びた夕日が、今まさに沈もうとしていた。


「ねえ、エミー。カルトール帝国の事だけど……」

「うん、何だい?」


 エミーはカルトール公爵に両親が殺められたことを知ってからも、その事については心の中に留めているのか誰にも思いを明かさない。


「カルトール帝国が憎い?」

「……私、良く分かんないんだ……気持ちが整理できてないっていうか、突然すぎて理解できないっていうか」


「そうなんだね……ルビオンからカルトール公国の情報が入ったら聞きたい?」

「少しづつだけど、あの国にも興味が湧いてきたっていうか、どういう国なのか知りたくなってきたの。だから、何か分かったら私にも教えて欲しい」

「わかった。エミーにはその都度知らせるよ」


「あの子も同じなのかもしれない」

「あの子って、アリアナの事かい?」

「うん、そう。あの子は気丈な子だけど、最近になってバーン帝国で両親と一緒に暮らしていた頃が楽しかったって……決して楽な生活じゃなかっただろうに、その頃を思い出して泣くのよ……」


 エミーの目にも涙が溜まっていた。


「エミーも両親と一緒に暮らしたかったんだね」

「ううん、私の場合はそうでもないんだけど、彼女を見てると両親から別れて暮らすことを少しずつ受け入れて来てるのかなって……」

「彼女の涙は、つらい過去から立ち上がるための1つの段階なのかもしれない」


 人の脳は過去の辛い記憶を忘れて正常化させようとする機能がある。それには楽しい記憶を上塗りすることで成されると聞いたことがある。


「私にはアルがいるから……両親から離されて、両親がいなくなっても、私にはアルがいるから……アル、私を離さないでね?」

「離すもんか……」


 俺は両手をエミーの背中に回してそっと抱き寄せた。


「アル……」

「ずっと一緒だよ」


 そう言いながら、エミーと唇を重ねると、エミーも俺の背中に手を回してきた。

 暫く俺たちは体を密着させてお互いの舌を絡め合った。


「アル、私はいいよ……」

「えっと?」

「我慢してたんでしょ? だって、ほら」


 俺の命令を聞かない部分が勝手に自己主張して、彼女のお腹に当たっていた。


「でも、お風呂入ってからね」

「お、おう」

「今夜、私の部屋に来て……待ってるから」


(エミーって、けっこう積極的だな……)


「だって、なかなかアルが誘ってくれないから」


 考えている事が分ったのだろうか。


「ごめん、エミーの気持ちが分からなくて」

「うん、いいよ。私のこと大切にしてるってことが分かるから」


 よく考えたら、夕食がまだだった。

 食事の時には何だか気恥しくて、ドキドキしてエミーと何を話したか覚えていない。


 ニーナが自分の部屋にリサちゃんを誘っている。何でだろうと思ったが、エミーにウインクしてた。


(ニーナにバレてるじゃん!)


 あいつは、発情の匂いとやらを嗅ぎ分けられるからな。

 リサちゃんもすんなりと頷いて、ニーナに枕持って行っていい? って聞いてるし。


 エミーを先に風呂に入れて、俺が後から入った。

 エミーはいつもより時間がかかったような気がするが、そこは気にしないでおこう。



 風呂から上がると、俺はエミーの部屋のドアを叩いた。


「エミー、開けていいかな?」

「いいよ」


 部屋に入ると、エミーは恥ずかしそうにしてベッドに座っていた。

 薄いワンピースのネグリジェはシースルーで中が透けて見えている。


「隣に座ってもいい?」

「うん」


 右隣に座ると、彼女の緊張が俺にも伝わってきた。


「大好きだよ」

「私も。優しくしてね……」

「ああ……」


 そっと口づけして手を握ると、彼女も強く握り返してきた。

 俺はそのまま背中に手を当てて、ゆっくりと後ろに倒す。エミーは俺の目を見てニッコリと微笑んでくれた。


 彼女のその表情によって、俺の中に渦巻く欲情に一気に火がついた。

 俺は首筋にキスをしながらエミーの上に半身を重ね、彼女の柔らかな体躯からだの曲線を手のひらで辿っていった。

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