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第128話 ペンダント

 もしも刺客の言った事が本当ならば、エミリーはアルセリア王国の生き残りという事になる。

 領主館から戻り夕食の席につくと、俺はエミーのペンダントの事を考えていた。


「ねえ、エミー。少しは落ち着いたかい?」

「だいぶ落ち着いたわ、でも心の中に何かモヤモヤするものも残ってる」

「そうだよね、エミーが持ってるペンダントはいつも首から下げてるの?」

「うん、そうだよ。私もね、このペンダントが開けばモヤモヤが解けるかもって思ってるの」


 やはり、エミーもそう考えていたようだ。


「ちょっと調べてみようか。魔力探査の魔道具で何かが判らないかやってみたいんだ」

「うん、いいよ。アルに任せる」

「わかった。ありがとう」


 俺は、魔力探査の魔道具である魔道レーダーの魔法陣を少し改造途中だ。

 ステータスを調べる時と同じように、魔術師の適性を調べる魔法陣を組み込もうとしているのだ。

 魔力を吸収する波長が、どの帯域にあるかによって色分けするプログラムを作っていると。


「ねえ、前からずっと聞きたかったんだけど、その指のウニウニは何をしているの?」

「ああ、これはね……魔法陣のプログラム、いや、魔法陣の術式を書き替える為に俺が見えているキーボードじゃなくて……鍵盤? を指で押してるんだ」


 ここにこんな形の鍵盤があるんだよって言っても、エミーには見えないから楽器の鍵盤をイメージしている事だろう。


「うーん、良く分かんない。でも凄い事をやってるんだって事はわかる」

「俺が見えているキーボードってやつが、エミーには見えてないからしょうがないか」

「私もいつかそれが見えるようになったら嬉しいな」


 このMR装置をエミーに装着したらどうなるか考えた事はあったけれど、俺の様に生態認証の誤動作があると怖い。

 もし、電子回路がこの世界でも組めるようになれば……いやいや、今はそんなこと考えるのはそう。


「いつか出来るように頑張ってみるよ」

「うん、でも……アルが頑張りすぎるのは嫌。出来る時でいいよ」

「わかった」


 改造した魔法陣を魔道レーダーの中に組み込んだので、早速動かしてみる事にする。


「そんでもって、改造が終わったからこれ、起動してみるよ」


 俺は改造した魔道レーダーを起動した。すると、レーダーの中心が黄緑色に光った。


「黄緑? ……って事は、土魔法? ……もしかして、治癒魔法か!」

「治癒魔法?」

「そう、エミーが治癒魔法を発動する時の魔法陣の色と同じだよね?」

「うん、確かに同じ色だよ!」


 魔法を発動する時の魔法陣は、魔法の属性によって色が変わる。

 治癒魔法の魔法陣の色は、黄緑色なのだ。


「って事はさ、エミー……ペンダントに治癒魔法をかけてみて!」

「えっ、これに?」

「治癒魔法って、別に人じゃなくても、物にでもかけられるんでしょ?」

「やったことないけど、多分できると思う」

「短縮じゃなくて、普通に詠唱できる?」

「勿論よ。じゃあ、やってみるね」


 エミーは、ペンダントをテーブルの上に置いて、治癒魔法を発動させた。


「力と癒しの源よ、わが手に宿りて負傷者の傷を癒したまえ ヒール!」


 すると、エミーの手から発現した黄緑色の魔法陣が、瞬く間に小さく凝縮されてペンダントに吸収されていった。


「うわっ!」


 そして、「カチッ」と音がしたかと思えば、これまで何をしても開かなかったエミーのペンダントの合わせ目が少しだけ開いていた。


「開いた!」

「開いたね!」


 エミーはそのペンダントを手に持つと、恐る恐る左右に開いていった……


「……これが、私の両親?」


 ペンダントの中には、若い男女の姿絵が入っていた。


「その様だね……この裏の内容、読んでもいい?」

「うん……読んでくれる? 私、涙で文字が読めなくなっちゃった」


 そして姿絵の裏には小さな文字で文章が書いてある。


「ああ分かったよ、『愛しい娘エミリーよ、このペンダントを開けることが出来たならエスカのほこらに行きなさい。アルセリア国王と王妃、君の両親より』……」

「ぐすっ……本当に……本当に、私のお父さんとお母さんなのね!」


 読み上げている時にはもう、沢山の涙を目に溜めていたが、『君の両親より』という部分で、彼女はもう感情を抑えきれなくなっていた。


 ずっと何も言わずに俺たちを見守っていたジムとミラも、彼女の肩に手を当ててくれる。ミラはエミーを受け止めて一緒に泣いているようだ。


 このペンダントを開けるカギは、このペンダントに治癒魔法をかける事。


 エミーの両親は、エミーに治癒魔法の才能がある事が分っていて、大きくなって治癒魔法が出来るようになれば、自分の力でペンダントの蓋を開けられると信じていたに違いない。


ほこらって書いてあるね」

「うん」

「これで、エスカに行って何を調べればいいかが判った」


 エスカに行って祠を探し、調べればいいのだ。


「祠を片っ端から調べればいいんだな」

「先ずは村人に聞く」

「さっそく明日から4人で行くか。エスカに」


◇◆◇


 次の日に、俺は屋敷のみんなに話をして、ルナの町へ転移した。

 屋敷に来たばかりのアリアナの事は気になったが、いちばん年の近いリサちゃんが一緒にいてくれると言ってくれた。彼女だったら大丈夫だろう。


 そして、ルナの町から馬で1日半をかけ、2日目の夕方にはエスカに到着することが出来た。


「魚の干した匂いがするわね」

「焼いたらいい匂いがしそうだな。あー、腹減ってきた」

「食べ物屋ってあるのかな?」


 人口800人の小さな村だから、食事を出してくれる所があるのかな? と思ったが、意外に小さい食堂がいくつかある。

 ちょうど一人の漁師風の男が食堂に入ろうとしていたので、今もやっているのかを聞いてみた。


「漁から戻ると、ここで一杯ひっかけるのよ」


 そう言ってその漁師は食堂に入って行く。

 食堂でお酒飲むのかな?


「俺たちも中に入ってみようか」

「そうだね」

「祠の情報が聞けるかも」


 まだ明るい時間だからなのだろう、店の中は閑散としていた。


「お前さんたちはルナの町から来たのか?」

「ルナの町の出身ですけど、今はルノザールに住んでますよ」

「そんな所から、何でこんなチンケな村へ来たんだ?」


 ルナの町から冒険者が来る事はあるが、ルノザールからここに来る人は殆どいないとその漁師は言う。


「実は、祠を探しているんです」

「祠だって?」

「ええ、この村に祠って何か所くらいありますか?」

「祠って言うと1つしかねーな。アロディーテ様をまつってる祠よ」


 この村にある祠は1か所だけだなのだという。漁の安全を祈願して海岸沿いに点在する洞窟の1つにアロディーテ神を祀った祠を設けていると言うのだ。


「夕飯食べたら早速行ってみようか」

「うん」


 探すのに苦労するかと思っていたが、意外にあっさり情報が入ってしまった。

 こんな簡単に探し当ててしまって良かったのだろうか? 折角だからみんな食堂で魚料理を食べてから行ってみる事にした。


 食堂を出ると、言われた通りに海岸沿いを南に移動した。この先に行けば祠があろうかという所まで来てみたが、残念ながら辺りが暗くなってしまった。

 暗くては見つかるものも見つからなくなってしまう。洞窟を調べるのは朝になってからにする。



 そして、次の日の朝。


「うわー、奇麗!」


 エスカの村は、東側を海に面している。

 海辺の空き地に野営した俺たち4人は、神々しく輝く朝日を並んで見ていた。


「とうとう、ここまで辿り着いたな」

「導かれている?」

「そうなのかも知れないわね」


 しかし、祠を探し当てて色々調べてみたが、手掛かりの様な物が何ひとつ見当たらない。

 ペンダントの中に隠れた秘密……エミーの両親が「行きなさい」書いていたエスカの祠は、至って普通の水神様だった。


「まてよ……もしかしてここも……」


 俺は、ペンダントを調べた時の魔道レーダーを懐の魔道バッグから取り出した。

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