第120話 装備の計画変更
「これはなんという事だ!」
スクリーンに映し出された造船所の光景は、まさに地獄絵図そのものだった。
造船所の中で働く者たちは、まるで奴隷のような扱いを受けているのが判る。現場を管理監督する責任者らしい人間も鞭を打ちながら巡回しているのだ。
中には倒れている人もいるし、生きているのかどうかも判らない。
善悪選別機能を重ねてみると、殆どの人たちが黄色の反応を示し、倒れている人たちの中には何も表示されない人もいる。恐らく事切れているのだろう。
「赤く反応しているのが現場監督のような鞭を持った人たちなので、この中で働く人たちはかなり虐げられていますね」
「おそらくは、奴隷たちであろう」
「帝国には奴隷制度があるのですか?」
「あるのだ。奴隷に落とされた者たちは、このような形で重労働に課せられていると聞いたことがある」
帝国に反発する者たちは、発見され次第奴隷に落とされる。一度奴隷に落とされれば、鉱山などでの採掘現場で重労働に課せられるらしい。
造船所という普通の肉体労働の現場であっても、休む時間を与えられなかったり、十分な食料をもらえなかったりしているのではないだろうか。
「とんでもない国ですね」
「ああ。指導者が道を踏み外せば、この様な事が起こるのだな」
世襲による独裁政権であれば、一度路から逸れてしまえばなかなか正しい方向へと軌道を戻せないという話はよく耳にする。
戻すことが難しくなってしまうのだと陛下はポツリとこぼした。
「しかし……これは問題だな」
「そうですね」
暫く周囲の状況を確認して回ったところ、俺たちは自分の目を疑う事になる。
「あれが搭載されれば、こちらも大きな被害を被る可能性がある」
「はい、早急に対策を考えます」
ダカンテ港の近くで生産されているであろうそれは、補修が終わった軍艦にまさにこれから積み込まれようと並べてあるのだ。
「しかし、どうやって解析したのだろうか?」
「解析できない様に、万全を期したつもりなのですが……」
「この国にも、秀でた者がいるという事だろう。そなたの責任ではない」
積み込まれようとしていた物は、俺が作った魔道ミサイルに瓜二つだ。先の海戦の時に不発となったミサイルが敵に持ち去られた可能性がある。
これまでの事を悔やむより、先のことを考えるのが重要だと陛下は言う。
ミサイルの生産が敵国でも可能になったという事は、こちらの軍艦も非常に厳しい状況になる。迎撃システムを急ぎ構築する必要がある。
「急いで戻り、迎撃システムを構築したいと思います」
「その、迎撃システムとはどのような物だね?」
「簡単に言うと、飛んできたミサイルをこちらの攻撃で撃ち落とすシステムです」
俺は地球で用いられている超電磁砲を使った対ミサイル迎撃システムを思い浮かべながら、こちらでも可能な方法を導き出していた。
「そんなことができるのかい?」
「可能です。こちらは魔道ビームを使います。飛んでくるミサイルよりもはるかに速いスピードの魔道ビームを当てて空中で爆破するように作ります」
「なるほど」
改装作業のために急いでドッグに戻すと、武器の改造に取り掛かった。
まず、主砲4基8門の魔道ビームを高出力の魔道ビームに変更する。これには、エネルギー源としてヒュドラの魔石を専用に加工して用いる。
そして、副砲8門はミサイルランチャーとして機能させた。
更に、高角砲6基12門には迎撃用の魔道レーダーを仕込むことにする。
「やっぱり、超魔道回路が必要かな……」
ヒュドラの魔石から供給される魔力を主砲4基に分配させるとなると、かなり長い魔道回路が必要になる。
実験を繰り返すたびに、ルメリウムの回路では発熱によって回路が焼き切れてしまう問題が発生した。
冷却魔法で冷やしても追い付かないのだ。
対策として考えたのが、魔石から砲台までの距離を極力短くすること。それには砲台1基ごとに魔石が必要なため、あと3回ルナ迷宮のヒュドラを倒す必要があった。
また、魔道回路も改良を行った。
アイアンリッジのガルッグ親方に相談しながら、地球の常温超電導素材の知識を応用して常温超魔道の材料を研究したところ、ミスリル鉱石と少量の銅、それにルメリウムを加える事によって、冷却魔法を使わなくても発熱が殆どない常温超魔道回路が完成したのだ。
特大魔石と超魔道回路から供給される膨大な魔力を使って繰り出される魔道レーザーは、厚さ20cmの装甲版もドロドロに溶かしてしまう。到達距離も5kmと格段に増強できた。
また、常温超魔道回路は発熱機関の改良にも役に立った。
これまで20ノットしかスピードが出なかった魔道タービンは、この改造で速力30.5ノットまで増強する事ができたのである。
◇◆◇
「この2週間、とにかく大変だったね」
「ああ、でも何とか完成できた。エドが色々協力してくれたおかげだよ」
「あの時は僕もびっくりしたよ。一気に冒険者ランクがBランクになっちゃったんだから」
戦艦ハルナの砲台の武器をすべて完了させた後に、母港になったブリストル港に艦を停留させると艦長室の魔道転移ドアからノーマウント邸にエドが訪ねて来た。
エド君がBランクになってびっくりしたという話は、そうなのである……経験値獲得部屋を使ったからだ。
「国王陛下をダンジョンコア部屋に連れて行った時に思ったんだよ。国王はここに隠れたままで俺たちがヒュドラを倒しちゃったらどうなるだろう……って。パーティー登録をしたうえでね」
さすがに国王でそれを試すわけにはいかなかった。そこで、エド君に話を持ち掛けたところ、是非とも試したいって言ってくれたのだ。
結果は思った通り。ヒュドラの経験値がしっかりとエド君に分配された。
「EランクからBランクに3ランクの飛び級を果たしたのは、俺に続いてエドが二人目だよ」
「アル君もそうだったんだ」
「俺は3年以上ギルドカードの更新をしてなかっただけなんだけどね」
「それでも凄いじゃないか。優秀な人でもBランクになるまでには7~8年はかかるって聞いてるよ」
リアナさんみたいにパワーレベリングをすれば、もっと早いのだろうが……。
しかし、ルナの冒険者ギルドで俺たちはこっ酷く怒られてしまったのだ。ヴァルターさんに。
この裏技を使えば、冒険者になりたてのFランク者でも、一気にBランクにすることが出来る。これが一般に知れれば大変な事になるというのだ。『絶対に誰にも言ってはならんぞ!』と何度も何度も念を押されてしまった。
「僅か1週間でFランクをBランクにできるなんて、滅茶苦茶だよね」
この場合、冒険者ランクはBランクでも、技術や知識はFランクのままと考えた方がいい。『体術とランクのバランスがとれていないと、とても危険な事になる』と、ヴァルターさんに念を押されているのだ。
「僕の場合は特殊だったから、体力や防御力が少し上がった程度に考えとくよ」
「俺たちも同じようなもんだけどね」
「アル君は毎日鍛錬してるじゃないか」
「役に立ってたら嬉しんだけどな」
それから、ヒュドラは1匹目を倒してから次に出現するまで2日かかった。そして次の出現までにはその倍の4日間かかった。
おそらく、今度出現するのは8日目とかになるのだろう。コアの明るさがだいぶ暗くなっていたから保有する魔力量がだいぶ減ったのだと思われる。
スタンピードが起こりそうな時は、この方法でコアの魔力が異常に増大する事を防ぐことによって、スタンピードも防げるのではないかと考えている。
この事は、後でギルド長にも勿体ぶって提案してみよう。怒られっぱなしでは嫌だから。




