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第118話 進水式

「君には毎度のことながら驚かされるが、今回の2つの魔道具も国家にとってとても重要な魔道具に該当することは言うまでもない。よってこれらの魔道具は王宮魔道具院の管轄とさせてもらう」


(さすがに、そうでしょうね)


「これに携わったノーマウント男爵及びミラベルには、開発報酬を渡すことによって所有権を王宮魔道具院に譲渡して欲しい。報酬の額として、善悪判定器は2人にそれぞれ300ガリル、ウソ発見器については2人にそれぞれ400ガリルとすることに相成った。それでよろしいか?」


 俺は予め宰相閣下に、ミラと俺の報酬の額は同額にして欲しいと頼んでおいた。

 俺の要求が通った形だが、ミラにしてみれば突然のことで驚いたのだろう、さすがに挙動不審人物になっている。


「どどどど、どうしよう」

「ミラ、有難く貰っておこうよ」

「でも」

「大丈夫、それだけの価値があることをしたって事だから」


 白金貨7枚のお金が一気に入ってビビったのだろうけれど、だんだん慣れてマヒしてゆくから今の気持ちを大事にしなければならないぞ、ミラ。


「おおせの通りにいたします」

「ミラベルはどうか?」

「うん、わかった」


 『うん』じゃないだろう、『うん』じゃ、相手は宰相で公爵閣下なんだぞ……

 さすがの宰相殿も頬が少しだけヒク付いたが、怒ってはいない様だから、まあいいか。


「それで宰相殿、そろそろ魔道戦艦が完成間近となりました」

「ええ、聞いておりますよ。現在は内装が進んでいるとの報告を受けていますぞ」


「それで、艦長の選任はもうお済みなんですか?」

「それはですなノーマウント卿、陛下は貴殿しか適任はいないと仰っておられるのです」


(マジですか! いや、半ば予想はしていましたけどね)


 言われるままに艦長を引き受けた場合、ずるずると艦長を続けさせられる未来しか見えない。

 まだまだ他の事をやりたいから、ここは食い下がって折衷案に持っていこう。


「いやいや、私など一介の魔道具師でしかありません。もっと適任者がいらっしゃると思います」

「この国として初めての大型船ですから、制御するにはそれだけの知識が必要です。ここは、魔道戦艦の設計者である貴殿しか出来ないものと存じますぞ。他にそれだけの知識を有する者がどこに居りましょうか」


 設計したのは、当時九州の海軍工廠と言う場所で技師をしていた月見里拓郎のご先祖さんだ。

 その為に詳細な設計図がMR装置の中に記録されていた訳である。


「では、こうしませんか? 数カ月の間は私が艦長として努めますが、その間エドワード辺境伯に副館長を務めてもらい、その後私からエド君に艦長を引き継ぐってことでどうでしょう」

「良い案ですな。陛下に提案してみましょうぞ」


 もしかして、宰相閣下もそう考えていた? 潔く引き下がったって事はそういう事だったのか?



 それから間もなく、提案した内容で陛下の承認が得られたとの連絡があった。


 ブリストルへも飛んで、エド君と話をしたり乗組員を募集したりしていると、あっという間にひと月が過ぎて、今日は戦艦ハルナの進水式だ。


 造船用ドッグがあるホルム港では、全土から貴族が集まって式典が行われた。

 式典と言っても国王陛下からのお言葉と、支綱切断の儀式があるだけだ。

 この国では支綱切断なんてやったことは無い様だったが、こういう事したら面白いよねってエド君に話したら、『是非やろうよ』と乗ってくれたのだ。


「ねえねえ、ロープを切るのは何で陛下ではなくてメグなの?」

「船の進水は1つの船の誕生なんだ。言ってみればお産だよね。だから女性ってわけ」

「ふ~ん、そういう事なのね」


 第一王女殿下のメグには小さな斧を持たせてある。戦艦に繋げてあるロープを切断する為だ。

 船台まで移動した戦艦までは、細いロープが引っ張ってある。このロープをメグが切ると台車のブレーキが解除されて船が後ろ向きに滑って行き進水することになる。

 しかし、ここまで引き上げる作業がいちばん大変だったのは誰も知らない。


「わたくし、この様な式典は初めてですのよ。うまくできるかしら」


 この世界で初めての催しだし、もちろん支綱切断もメグが初めてだ。

 エイヴォンでの拉致監禁事件の後、メグの俺に対する接し方が変わったように感じていた。

 なぜか王宮内でバッタリ顔を合わせた時も下を向いて挨拶をしたり、たまにうちに女子会に来るとしても、俺がいない時を見計らったりしていた。

 避けられているのは分かっていたが、今日こうして前と同じように会話が出来たのがとても嬉しかった。


「斧が小さいけど、ちょこんと当てれば切れるから大丈夫だよ」

「今日は皆さんが見てるから、緊張しますわね」

「入学式や卒業式であんなに堂々と挨拶した人が、それ言う?」

「あら、アルさんったら。実はわたくしとてもシャイなんですのよ?」


(女王様、実はシャイ……だったのか?)



 国王陛下から挨拶とともに戦艦ハルナの命名宣言が行われると、艦長の俺はエミーから花束を受け取った。今日は艦長服の出で立ちだから何だか恥ずかしい。


 それも終わると、やっと支綱切断だ。メグは俺が言った通りちょこんとロープに斧を当てた。

 斧の刃の部分には、若干の風魔法を施しているのは内緒だ。


 見事にロープは切断されて、魔道戦艦ハルナは海に向かってゆっくりと動き出した。

 ちなみに、シャンパン割りはこの世界に馴染まないと思ったので無い。


 艦は移動しながら少しづつ速度を上げ、水面に近づいてゆく。

 そして、200mを超える巨体が船尾から「ゴゴゴゴッ」と着水をしてゆくと、くす玉に仕込まれた沢山の色とりどりの紙テープが一斉に降りてくる。

 そよ風にたなびく無数の曲線が奇麗だ。


「おおー、これはいいな」


 そして両舷に待機した多くの魔術師が上空に向かってファイアボールを解き放つ。

 地響きを立てながら滑ってゆく台座の音にも誰もが圧倒され、周りからは拍手と喝采が上がった。


「これは見ごたえがありますな」

「まるで船が生き物の様じゃないか」

「ブリストル辺境伯の提案通りにしてよかったですな。陛下、今後の進水式はこのやり方で行いましょう」

「そうだな、迫力があってとてもいいと思うぞ!」


 この進水式のやり方は、俺ではなくエド君の提案という事にしている。


 今回戦艦の乗組員として選任されたのは、ブリストルにて前ブリストル辺境伯と共に旗艦に乗っていた乗組員が殆どだ。

 この船ならばと、今は亡き領主様のあだを是非にと志願した約500名の水兵さんが乗っている。



 船橋の上に設置する魔道レーダーは、王宮騎士団に設置したものと同じものを当初設置する予定だったが、ミラの悪人判別魔法陣の解析によって可能になった善悪判定魔道レーダーを搭載している。


 これによって、我々に敵対する勢力の規模と場所を特定できるようになった。

 魔力にだけ反応するレーダーではなく、魔力を持っていない人にも感情と同調する反射波を持っているため、人を検知できる機能を新たに追加している訳だ。


 そして、魔道転移ドアも船内特別区の転移室に搭載済みだ。


 魔道転移ドアの相手の位置は、座標によって把握される。固定された場所に設置すれば座標は動かないが、船の上だと設置場所の座標が刻々と変化することになる。

 この場合、相手先との座標のやり取りがうまく行かない可能性を心配したのだが、それは杞憂に終わった。絶対座標だけでなく、相対座標を指定することで対応できることが分かったのである。


(飛行機の中にも設置できそうだな)


 進水式はセレモニーとして行われるため、武器の搭載や内部の建具工事が行われるのはこれからだ。


 進水式の後、月盟の絆メンバーとエドワード君を乗せて、ホルム港からブリストル港までの往復約150海里のテスト航海に出た。


「で、ブリストル港まで何日かかるんだ?」

「多分1日で着くぞ」


 魔道タービンの最高出力では、20ノットしかスピードが出なかった。

 スクリューを増やそうかとも考えたが、機関の大きさが設計通りに収まらなかったのだ。

 それでも、片道75海里を最大速度の20ノットで進めば4時間足らずで到着する計算になる。


「そんなに速えーのかよ」

「風が必要ないからね」 

「1日じゃ、何も楽しめない」

「そうだな、あと2日くらいかけてもっと北の方まで行ってみようぜ」


(おいこらジム、この時期に領海侵犯はマズい……ぞ?)

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