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第110話 ミサイルの試射

「では、これより魔道ミサイルの発射実験を始めます」


 皆さんの前で、俺は実験の開始を宣言した。


「まず、リチャードさんには敵軍艦の装甲に見立てた鉄板を狙って20秒間魔道ビームを照射してもらいます」


 これによって、ビームが当たった部分の装甲に熱を発生させる。


「その後に、この発射装置ランチャーに仕込んだ魔道ミサイルを私が発射させます。試作機は1台しか有りませんのでよく見ておいてください」


 発射装置ランチャーとミサイルは魔道ドアを通れるが、標的になっている鉄板は1m四方の鉄板16枚をガレットさんの工房から直接運び込んでここで組み立てたものだ。

 1m四方のサイズでも30mmの厚さになるとかなりの重量であるため、魔道具で運び込まなければ不可能だった。


「陛下と宰相殿、騎士団長殿はこのスコープで標的の状況をご確認ください」


 標的は1km先にあるので肉眼ではよく見えない。魔道ビームライフルに取り付けた。スコープと同じものを3人に渡して標的の被弾状況を確認してもらう。


「あんな遠くのものが、こんなに近くに見えますな! これはこれで特殊魔道具に数えられるような品物ですな」

「確かにそうだが、ここは魔道ミサイルとやらに集中するべきではないか?」

「はは、失礼しました」


(望遠鏡ってこの国には無かったっけ? レオノールさんは知ってたよねぇスコープの事)


「では早速ですが、実験を開始したいと思います。危ないので私は皆さんから少しだけ離れます」


 俺は発射装置ランチャーを担いだまま10mほど移動し、周りに誰もいない事を確認する。


「ではリチャードさんお願いします」

「承知!」


 独特のレーザービームの発射音と共に、青白い光の帯が真っ直ぐに標的まで延びていった。

 鉄板に当たったビームは鉄板に吸収されて消滅する。見た目では温度が上がっているのかどうかわからないが、俺だけは遠赤外線の放射をMR装置によって視認できている。

 おっと、もうすぐ20秒経つかな。


「20秒経過しました、照射を止めます!」

「では、続けて魔道ミサイルを発射します! 発射ーっ!」


 俺の後方にバックファイヤを噴出して、ミサイルが発射装置ランチャーから撃ち出される。

 発射されてすぐに「ゴォーー」という音をたてて速度を上げていくミサイルは、わずか数秒の後に鉄板の真ん中に命中するとともに轟音をあげた。


「素晴らしい!!」

「真ん中に命中ですな!」

「あの厚い鉄板にあんなに大きな穴が……」


 国王陛下たちは、それぞれに驚きと感嘆の声を上げてている。


「このようにミサイルは、魔道ビームライフルを当てた部分を目指して自分で制御しながら飛んでいくので、このランチャーを持つ人は目標を狙わなくても大丈夫です。その代わり、魔道ビームライフルで軍艦を狙う人は出来るだけ水面近くを狙ってもらう必要があります。うまく狙えれば海水が内部に入り込んで船は沈没します」


 1回ではうまく行かない可能性がある。

 2発、3発と打ち込んで初めて内部まで海水が入り込む様な穴が開けられるのではないかと思うのだ。


「なるほどね、そうなるとかなり多数の量産が必要という事だね」

「50から60発といったところでしょうか」

「よし、分かった。魔道ミサイルと魔道ランチャーをA級武器と認定し、国王の許可で60発の量産を指示する。アルフレッド君、任せてもいいかな?」

「承知しました」


 実験もうまく行ったし、国王の許可も取りつけた。


「報酬は後でいいかな?」

「材料代と人件費さえいただければそれでいいです」

「フフ、君は本当に欲がないねぇ」



 量産に向けて現地でガレットさんと細かい打ち合わせをする。

 ミサイルの外筐は先端と推進部がミスリル。その他はアルミニウムとマグネシウムの合金だ。

 軽量化とコストを意識しており、材料の入手は従兄弟のガルッグさんにもお願いして60発分の材料を製造してもらう事にした。


 ガレットさんは合金のインゴットを圧延し筐体へと仕上げていく担当を受け持ってもらう。金属の板状化はガレットさんの得意分野だ。


 しかしこの二人、魔道転移ドアを毎日のように行き来しては、いまだに酒のやり取りを行っているらしい。聞かなかったことにしているが……。


 魔道ミサイルの外観は地球のミサイルと変わらないが、内部構造はまったく異なっている。

 内部は魔石と魔道回路、それに火魔法・風魔法・水魔法のそれぞれの魔法陣が幾重にも重なって出来ている。まるで巻物が空中を飛んでいる様なものである。


◇◆◇


「そうすると、魔法陣は何で描くのですか?」

「魔術スクロールの様に、酸を混ぜたルメリウム溶液は使用しない。着弾すると必ず爆発して魔法陣もろとも全部燃えちゃうから」


 今回の魔道ミサイルは、結構複雑な魔法陣を手書きで書かなければならないから、宰相閣下にお願いしてまた2名の助っ人をお願いした。王宮魔道具院のエレンディルさんとノーラさんだ。


「ここに見本があるので、これと同じものを60発分描いていきます。印刷だと版を作るのに時間がかかるので、今回は申し訳ないですが手書きです」

「私たちはその方が嬉しいです。目に見えると勉強になります」

「1つの魔道具に、火と水とそれに風の魔法をそれぞれ同時に機能させるなんて、と、とってもすごい事でつ」


(そうなんでつか? って、ノーラさんまた噛み癖が復活してるじゃないか)


「ノーラったら、またノーマウント邸に行けるってぴょんぴょん跳ねて喜んだんですよ」

「エレンさん、それ言ったららめ!」

「ハイハイ」


 何だか彼女たち二人は、ここに来て仕事するのがとても幸せそうなのだが、それでいいのだろうか?

 もっと友達と遊んだり、恋人と過ごすなどしなくていいのだろうか?

 俺が言うべき事じゃないが。


「できた」

「あら、ミラってば早いわねぇ。私はまだ3分の1も残ってるのに」

「意味が解らないから写すだけ」

「どれどれ。うーん、ここと、ここと、そしてここと、ここ。けっこう間違ってるね」

「分かった修正する」


 今回のミサイルは結構複雑な魔法陣を描かなければならないので、間違いも多少出てくるだろうと思った。

 そのために、MR装置には原本との比較機能を持たせてチェックを行っている。エミーとミラも複写の作業に参加してくれているのだが、ミラは早い代わりにミスも多い。


 魔道具院の2名は魔法陣が読めるからその凄さに驚いていて、作業が思ったより進んでいない。


「ああー、凄いです」

「ここ、火魔法を一気に拡大させるところですよね!」

「こんな風にすればいいんだ……」


 えーっと、君たち……勉強するのは後にしてもらいたいんだが。



 魔道具師の二人は、最初こそ時間がかかったものの魔法陣を全部理解した後は、見本を見なくてもほぼ描けるようになっていた。

 結果的にミラのスピードよりも速く描け、しかもミスが無い。やはり魔道具師としてはかなり優秀だ。



 そうしているうちにガレットさんからの筐体加工品が少しずつ入り始めた。

 組立については俺が細心の注意を払って行う。

 当たったけど爆発しませんでしたとなってはマズいので、こればかりは優秀な二人の魔道具師にも任せられない。


「見るだけだったらいいからね」

「「はい!」」


 組付けの部分も興味津々で見に来る。少しでも新しい技術を身に付けたいのだろう。


 そしてその2日後の夕方には、魔道ミサイルとその噴射装置の肩置きランチャーが60セット完成した。


 ホールに60発のミサイルを並べてみると、さながら裏社会の武器商人にでもなったような気分になる。

 早速明日の朝には陛下に確認してもらおう。エドが待っているだろうから。

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