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第108話 帝国の黒船再来

 突如、転移室に設置した魔道インターホンから喧々たる音が響いた。


 俺は通信の魔道具に少々手を施して、1階の居間で来訪者の顔が確認できるように改良しているのだ。

 玄関のドアホンのようなもので向こうの画像だけだが居間の画面に映る。


「今日は誰だ? ……陛下じゃなければいいけど」


 恐る恐る、俺は画面に近づいた。


「ああ、やっぱり陛下じゃないか……」


 しかし、神妙な顔つきの陛下の顔が気になって、俺は2階の転移室へ急いだ。


「急な用件でこちらに来た。内密な話をしたいことがあるのだが、少しいいだろうか?」

「もちろんです。こちらにどうぞ」


 後ろには宰相のコールリッジ公爵が控えている。

 俺は応接室に二人を通した。


「先日は、うちのメグを助けてくれて本当にありがとう」

「マーガレット殿下はもう大丈夫ですか?」

「ああ、君が助けてくれたことがよほど嬉しかったようだ。今は普通に過ごしているよ」


「捕らえた3人はどうなりました?」

「嘘をついていた2人は既に処分が済んだ。もう一人は、君からの申し出の通りそのまま地下牢に繋いだままだよ」


 俺はその後、ミラを連れて事情聴取の場を訪れている。

 メグの話から、バーン帝国の動きが気になっていたし、本当のことを言うのかどうかを見極める必要があったからだ。


 その結果、小屋の中にいた二人は嘘のつき放題だったが、神妙にしているリーダー格の男は終始無表情だったが、何一つ嘘をついてなかったのだ。

 その為に、近いうちに軍艦にてバーン帝国が攻めてくることが分ったし、あの時にこの男だけはメグに危害を加える気は毛頭なかった事も判った。


 何か特別な事情があるような気がしたので、処刑は待って欲しいと陛下に願い出ていたのだ。


「陛下、今日は別の話があるのではないですか? 消音の魔道具を用意しましょうか?」


 陛下の表情から帝国絡みの話と感じた俺は、消音の必要性を確認した。


「消音?」

「はい、話している声が指定された範囲外では聞こえなくなります」

「なんと! それが出来たっていうのかい?」

「昨日ちょっとやってたら出来たんです」


 風魔法を色々いじっていたら出来てしまったのだ。ちなみに、魔道具を置いた場所から直径で範囲を変えられるが、その範囲は球状だ。

 騒音キャンセルの技術を使っていて、効果は半径2mの範囲である。


(試作品だから見栄えは悪いが、ちゃんと機能すれば大丈夫だろう)


「ちょっと試してもよいですかな?」


 俺たちは、席を立ったり、離れたりして互いに効果を確認し合った。


「陛下! これは王宮魔道具院でも未だに開発が出来ていない特殊魔道具ですぞ!」

「それを1日で作ってしまうとは、やはり君を選んで正解だったね」


 何が正解なのか、言葉の意味が分からずにいると……


「実はねアル君、北のバーン帝国がとうとう攻めてきたのだよ」

「やっぱりそうでしたか」


 話を要約すると、北のバーン帝国は20隻の軍艦でブリストルに攻めて来ているとのこと。その軍艦は全体を真っ黒な鉄の装甲で覆っており、対応に苦慮しているらしい。


「君に頼んで作ってくれた魔道ビームライフルで帆を狙ったところ、帆は燃えてしまったらしい。そのため敵は航行がうまく出来ない状態となって自国へ引き返しているが、おそらく近いうちに何らかの手を打ってまた来るだろうと分析している」


 帆を燃えない材料に変えてくるだろうと。


「鉄の装甲だと厄介ですね……」

「大砲では敵の装甲に跳ね返されるし、魔道ビームライフルでも鉄の装甲は破壊できない状況なのだよ」


(電流が海に流れるんだろうな。何か良い方法がないか?)


「そこで相談なのだが、敵の軍艦の装甲を何とか打ち破る方法が無いものか考えてもらえないだろうか」


「今それを考えていたところなんですが、相手の装甲の厚さはどのくらいですか?」

「それが良く分からないんだ。こちらの大砲の玉が当たっても少しだけ凹む程度で全く歯が立たない」


 大砲の玉で少しだけ凹むか……炭素鋼あたりは普通に作れるとしても、ニッケルを含んだ鋼鉄ではないとするならば……。

 俺は、MR装置のAI機能に推測させてみた。


「凹みの深さや当たった角度でかなり変わってきますが、装甲の厚さはだいたい20~25ミタールというところでしょうかね」

「そこまで、分かるとは……」


 25mmの厚さといえば、軍艦としてはかなり薄い装甲ではあるけれど、火薬の無いこの世界では結構厄介な代物しろものだ。


(うーん、考えた中ではこの方法が一番いいかもな)


「敵軍艦の装甲を破壊するための、特殊兵器を考え付きました。」

「おおっ!」

「もう考え付いたのかい? 君の頭はどうなってるのか全く分からないよ」


(はい、私にも分かりません)


「具体的には、この様なもので……」


 イメージを持ってもらうために、誘導ミサイルの絵を描いて説明する。

 魔道ドアで運ぶことを考えると、ランチャーは携帯式かな。



◇◆◇


 アルフレッド君が捕らえてくれた賊の一人が白状したとおりに、とうとうバーン帝国の船が攻めて来た。

 今回は敵の軍艦が鉄の装甲に変わっており、早い段階で打開策を見つけなければ苦境に立たされるだろう。


「コールリッジ宰相、私はアルフレッド君の所に行って良い方法がないか相談しようと思う」

「陛下、私もそれが良いと考えておりました」


 いきなりで申し訳なかったが私たちははノーマウント邸を訪ねた。


 帝国からの侵攻の話をしようかと思った矢先、彼が「消音の魔道具は必要ですか?」と聞いてきた。

 密談をする時に声が外に漏れないようにする魔道具は、王宮魔道具院に何年も前から開発を依頼しているが、未だに出来ていないような難しい魔道具だ。それを、


 昨日ちょっとやってたら出来た?

 それがもし本当だとすれば……いや、わずか1日で出来てしなうなど、あり得るだろうか?


(いや、彼だったら……もしかすると)


 バッグから取り出した魔道具は試作品の様で、ちゃんとしたケースには入っていなかった。

 私たちは彼の応接間で繰り返し試した結果、見た目とは裏腹に、消音性能が完全な状態で出来ていたから驚きだ。


 王宮魔道具院でも開発が出来なかった特殊魔道具だと、あの冷静沈着な宰相が、興奮して声を荒げている。

 しかし、今日はそれどころではなかった。


 頭を切り替えて、私は本題のバーン帝国からの侵攻と敵の軍艦の事について話をした。

 すると、彼はこちらの大砲の玉の直径などを聞いてきた。何か考えているようだったが、両手の指の動きが気になる。


「……装甲の厚さはだいたい20~25ミタールというところでしょうかね」


 どのような方法でその答えを導き出したのか、おそらく私たちの頭脳では理解できないだろう。聞くだけ野暮というものだ。

 今度は斜め上を向いて顎に手を当てて考えている。今度は指が動いていない。


 彼は、1分も経たない間に考えたついた新しい兵器の構想を話してくれた。

 私たちが呆気にとられていると、その詳細を図に描いて説明までしてくれたのだ。


 全てを理解することはできなかったが、それには高度な魔道具技術が必要になることくらいは私にも分かる。

 1日ほど待ったうえで再度訪問するつもりだったが、わずか数十秒で新しい兵器の詳細構造を思いつくなど、彼の頭の中はいったいどうなっているのだ。


 私たちがある程度内容を理解した時には、彼は「試作まで1週間時間をくださいと」と言ってのけた。このような高度な新兵器を僅か1週間で開発をするというのだ。全く破天荒な頭脳の持ち主だ。



 「彼は絶対に手放せないな……」


 魔道ドアから王宮に戻った時、私は宰相にそう漏らした。


「この国の安寧のために、彼は比類なき逸材です。何としてでもこの国に深く根を下ろしてくれるように、我々はよくよく考えねばなりませんな」

「ああ……、そうだな」

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