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第107話 王女殿下の救出

 時はさかのぼる事、2時間余り前。


 夕食の準備を済ませると、突然それは起こった。別荘の外でいきなり音がしたかと思えば、その近くの林に炎が上がりだしたのだ。


(100マタールほど離れているけれど、これは忌々《ゆゆ》しき事態ですね)


 私は殿下の身を案じて窓のカーテンを閉めて中が見えない様にすると、部屋の明かりを最小限に暗くした。

 原因を確かめなければならない。私は、その場所へ行って確認する事にした。


(確りと鍵を閉めてもらえば大丈夫)



 まだ火が燻っていた現場に近づくと、そこには一人の男が剣を持って立っていた。


「何者だ!」


 私は、剣を引き抜いた。


「名乗るようなものではない。あの家には王女様がいるのだろう?」


(っ! やはりこの男、殿下を狙っているのか?)


「そうはさせないぞ!」

「どう思ったのか知らねえが、いいぜ! かかって来な!」


 何としても殿下をお守りしなければならない。ここには私しかいないのだから……

 私は、意を決して踏み込んだ。


 男はこちらを見据えながら、剣を打ち付けてきた。その剣捌きからは、私とは力量が互角だと感じる。


 しかし、相手は男。体力がある。早々にケリをつけなければこちらが劣勢になるだろう。


 しかし、何度も技を試みるが、その度に相手は引いて受け流すのだ。

 全く決着がつかない。そして私の違和感は膨らんでいく。


(どうして? まさか……時間を稼いで?!)


「やっと気づいたようだな」

「時間稼ぎか!」


(しまった! となれば、殿下の身が!)


 私は踵を返し、別荘へと一目散に走った。




「殿下!!」

「ううっ」

「ソフィエさん、殿下は! 殿下はどうされたのですか!」


 どこを探しても殿下がいない!


「申し訳ございません! 申し訳ございません!」

「落ち着いて! 殿下は今どこに?」

「……誰かに連れ去られてしまいたした」

「!!」


 外を探したが、人影はない。


(ああ…… 私はなんて事を!)


「ソフィエさん、この別荘に領主館とを繋ぐ通信の魔道具はありますか?」

「はい! こちらです」

「すぐに、緊急信号を出してください!」

「わかりました」


 領主館ではこの別荘にマーガレット王女がいる事が分かっている。その別荘から緊急信号が出れば、急ぎ駆けつけてくるはずだ。


「私は殿下を探します。あなたはここで領主館からの救援を待ってください」


◇◆◇


「別荘からの緊急信号だ!」

「すぐに領主様へ!」


 ソフィアから発せられた緊急信号は、すぐにエイヴォン領主に伝えられる。


「緊急信号だ、急げ!」


 すぐさま領主のエイヴォン侯爵は、常時待機する騎士の中から精鋭十名で構成する救援隊を編成し出発させた。


「兄様、アルフレッドさんに連絡してはどうかしら……」


 今朝までメグ達と一緒にいたノーマウント卿は、昼過ぎにこの領主館から自宅へ帰ったばかりだ。

 このタイミングで助力を求めるのは少々(はばか)られるが、彼なら何とかしてくれるやもしれん。


「今すぐ彼の屋敷を訪ね、救援をお願いしてみよう」

「ええ、私も行きますわ」


 私たちは、設置された魔道ドアの入力装置に、ノーマウント邸の番号を入れてドアを開けた。



 同時に、ノーマウント邸では転移室からのアラーム音が屋敷内に響き渡る。


「こんな夜中に、誰だろう?」


(また陛下か?)


「どなたですか?」

「アルフレッド卿、フレデリックだ。こんな夜分にすまない」

「エイヴォン領主様!」

「緊急にお願いしたいことがあるのだ」

「緊急ですか? 分かりました、すぐに開けます」


 俺は2階までの階段を2段ずつ駆け上がり、目の前にある転移室のドアを開けた。

 状況から廊下で話せるようなことではないと悟った俺は、急ぎ応接室まで案内した。


「王妃様まで……いったいどうしたのですか?」

「実はな……」


 エイヴォン領主様から、ここに来た経緯が語られる。


「選りすぐりの騎士を十名、すぐに走らせているのだが、それでも気がかりなため君を訪ねたという訳だ」


「アルフレッドさん、どうかメグたちをお助け下さい」

「わかりました。出来る限りの事を致します。メグは誘拐された可能性もありますか?」


「護衛のラシダさんも一緒だが、その可能性もあり得ると思っているのだ」

「……うん」


 俺は少し考えて、ニーナさんを連れていく事にした。


「グラハムさん、ニーナをここに連れて来てくれませんか」

「承知しました」


 心配そうにして居間で待機しているエミーたちも、応接室へ来てもらった。


「ご主人様、何かにゃ?」


 ニーナには屋敷ではダーリンと呼ばないように言いつけてある。


「ニーナは、メグの匂いは覚えているかい?」

「もちろん、わかるにゃ」

「よかった。今から俺と一緒に来てくれないか」


 ニーナは俺が別荘にいる時、獣人の森から俺の匂いを嗅ぎつけて走って来た。


「メグが誰かにさらわれた可能性もある」

「だと、早く行ったほうがいいにゃ」

「私も行くわ!」

「俺も!」

「行く」


 みんな行く気満々だけど、ちょっと問題ありだ。


「エミーとミラは馬に乗れないし、ジムは明日の準備があるから連れていけない。大丈夫だ、俺とニーナに任せてくれ」

「でも……」

「あたいは走れば馬より速いにゃ」

「そういう訳だ」


 彼女が走れば土煙つちけむりが上がるのだ。馬より速いだろう。


「じゃあ、一刻を争うかもしれないから、早速エイヴォンに向かうよ」


 俺はいつものトートバッグを肩に掛けて、転移室に向かった。


◇◆◇


「ニーナ、匂いはするか?」


 俺とニーナは、領主館で馬を1頭借りて外に出たところだ。


「こっちの方向にゃ」


 ニーナが北東の方向を指さす。

 別荘のある方向は、ここからだとほぼ東の筈だ。


(やっぱり、移動してるな)


 俺は魔法のロッド機能を追加した魔道ガンを取り出し、ライトの魔法で前を照らした。


「ニーナ、この光で大丈夫か?」

「あたいは光が無くても見えるにゃ」


 そうだった、ニーナは猫だった。


「ライトが無いと、馬が走れない。このままでいいか?」

「問題ないにゃ」

「じゃあ、急ごう!」

「あたいが先導するにゃ」


 エイヴォンの領主館を出て1時間ほど経つと、森が見えてきた。

 この森の中に、メグがいるのだろうか。


「ニーナ、この森の中にいると思うか?」

「いるにゃ。匂いがだいぶ強くなったにゃ」


 森に入る道を見つけると、そこから先には細い道が続いていた。


「オスの匂いが3種類あるにゃ」

「犯人は3人ってことか?」


 それで、ラシダさんでも太刀打ちが出来なかったのか。


「あと1キタールぐらいにゃ」

「わかった、気付かれないように馬を降りよう」

「得意にゃ」

「わかってる」


 馬は一旦、木に軽く結びつけ、そこからはライトの魔法と気配を消して先に進んだ。



「一人が外を見張ってるにゃ」

「あと2人は?」

「中にゃ」

「わかった」


 小屋からは50mほど離れた位置で一人の男がこちらを警戒していた。

 俺は、魔道ガンをその見張りに向ける。


「スタン」


 青白く細い光が、見張りの男に飛んで行く。


「うっ!!」


 男は白目を剥いて、その場に崩れ硬直した。


「ダーリン、中から盛りのついたオスの匂いがするにゃ。急いだほうがいいにゃ!」


 ニーナがそう言うのと同時に、小屋の中からはメグの悲痛な叫び声が聞こえて来た。


「くそ! メグ!」


 俺は小屋まで全力で走り、入り口の朽ちかけた扉を思いきり蹴った。

 大きな音をたてて扉が開くと、俺は中に飛び込んだ。


「なっ、何だっ!」


 1人はメグの両足を椅子の後ろから抑え込み、もう一人の男はズボンを下ろしかけていた。


「メグ! 大丈夫か?!」

「あっ、あっ、あう、アルさん?」

「誰だてめえ! 折角のいいところによお」


 二人が剣を抜いて襲い掛かって来る。俺はこみ上げる怒りを抑えて魔道ガンを構えた。


「スタン」

「っ!」

「スタン」

「おうっ!」


 二人とも、白目を剥いてその場に倒れて硬直した。


「メグ、もう大丈夫だ。恐かったね」

「ううっ、アルさーーん」


どんなに怖かっただろう。

どんなに嫌だっただろう。


 めくれたスカートを下ろしながら声を掛けると、泣き顔を俺に向けてきた。


「ちょっと待っててね」


 メグはコクンと頷いた。手枷をよく見ると、何かを挿入できる穴がある。


(鍵穴か?)


 俺は硬直した男達から鍵の様な物を探し出し、手枷の鍵を開いた。

 両手が自由になったメグは、俺の方に両手を伸ばして抱きつこうとしてくる。しかし、体は椅子に縛られたままだ。


「ニーナ、縄を解いてくれるか?」

「わかったにゃ、代わりにこいつらを縛るにゃ」


 俺はトートバッグに常備しているロープを取り出して、外の男も縛っておくようにニーナに指示をした。


「メグ、もう大丈夫だよ」

「ええ……有難うございます……アルさん」


 俺は頬に手を当てたメグをお姫様抱っこして、小屋を出た。

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