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 あれからテスト週間が始まるので、初めてのお宅訪問はテスト明けとなった。

 まさかのクラスメイトだった事実に両親はとても驚いていた。

 亜梨子があまり緊張しないでいられる人なんだと勝手に解釈した父は、週に何回来ても構わないと豪語し、亜梨子の怒りを買ったのだった。

 

「ねぇ。ここの答えってこれであってるかなぁ??」


「ここはこれだよね!?」


 お馴染みの桃葉と郁美が亜梨子の机に集まり問題用紙を指さしていた。

 今の授業で全てのテストが終わった為、ほとんどの生徒は開放感に万歳だが、1部生徒は今でも必死に答案用紙を思い出し問題用紙をガン見している。

 それは郁美も含まれていて。


 郁美の入っている部活はバレーボールで、補習があると練習には出れないのだ。

 郁美は準レギュラーで控え選手である。

 いつでもレギュラーと取って変わってやると熱く燃えている郁美にとって、練習時間が削れるのは死活問題らしい。


「えーっと、そこは……」

 

 郁美が机にバーン遠いて泣きそうに聞いてきた為、桃葉と一緒に顔を寄せあって問題用紙を見る。

 隣には答えが書いていて、それを見た亜梨子と桃葉は顔を見合せた。


「……郁美ちゃん、ここは」


「あちゃー、まちがっちゃってるねぇ」


「や、柳くん!?」


 にゅっと亜梨子の後ろに立ったミラージュが手を伸ばして指を指す。


「ほら、ここがね……」


 そう説明するミラージュは微かに触れてないくらいの距離に立って話し出すので、まるで亜梨子を囲い込むように立っているのだ。


「ち……」


「近いぞ変態め」


「わぁ!!万里!?」


 亜梨子が近いから離れなさい!と言おうとした瞬間、ミラージュの襟首を掴み強く引っ張られた。

 たたらを踏みながら後ろに下がったミラージュが万里を見ると、冷えっ冷えに冷えきった眼差しがミラージュを見据えている。


「……お前、まじで金剛にかまいすぎ」


「いやいや!今は郁美の回答の説明をしてただけでしょ?」


「わざわざ金剛の背後に回って?」


「……正面の方が教えやすいかなって」


「目が泳いでんぞ」

 

 そんな2人に桃葉は楽しそうに笑い、郁美はテストでそれどころではない。

 そして亜梨子はと言うと


「…………亜梨子ちゃん?なにしてんの?」


「東家万里様に感謝の祈りを捧げています」


 万里に向かって両手を合わせて軽く頭を下げている亜梨子にミラージュはガクッと頭を下げ、万里は面白そうに亜梨子を見下ろしていた。


「じゃあさ、その感謝を受け取るからあんたの髪触らせてよ」


「…………髪?」


 パっと顔を上げ万里を見ると、ミラージュは慌てて間に入ってきた。


「ちょっ……」


「俺ん家美容院で、昔から髪いじるの得意」


「……美容院」


「あー、いいなぁ、桃も可愛くして欲しいー」


「おー、いいぞ」


 目が細くぶっきらぼうで、そして口が悪い万里を怖がる女子が多い中、桃葉は持ち前のホワホワとした雰囲気で話しかけ、万里は簡単にそれを了承。

 桃葉は亜梨子に向かってウィンクすると、少し考え込んでから万里を見た。


「東家万里様、どうぞよろしくお願い致します」


「まるで神様に言うような仰々しさ!」





 


「…………あいつ、ほんっと目障りだなぁ」


「なんであんなやつ構うんだろ」


「まさか、本当にミラはあの人が好きなわけ?」


「まさか!ありえないでしょ!似合わないよ!!」


「……だよね」


 亜梨子の机に集まるミラージュや万里は女子に人気である。

 ホワホワとした可愛らしい桃葉も彼氏が居るとはいえ人気は高く、郁美も髪が伸びだし美人度が増してきたと男子の中では度々話題になっている。

 そんな人達が集まる亜梨子に最近様々な視線が集まるようになってきた。

 嫉妬は勿論だが、興味があるようだ。

 黙っていたら神秘的で綺麗な少女なのだが、その雰囲気や特徴的な話し方、そしてミラージュと話す時に出るキツイ物言いに近付くのを遠慮する人が多い。


「……ん、上出来」

 

「あ、桃かわいー」


「わぁ、これいいなぁ……」


「似合ってます、桃葉」


「お、桃葉可愛いじゃん」


 両サイドを綺麗に三つ編みにしてクルッと丸めて止めたあと、フワフワの髪を更にフワフワにして今までよりも少しだけ長さが短くなった桃葉はクルリと回ってみせた。

 それに全員でパチパチと手を叩き褒めると、桃葉は頬を赤らめて喜んだ。


「……郁美?どうした?」


 そんな桃葉を羨ましそうに見ていた郁美に気付いたミラージュが聞くと、郁美はハッ!とミラージュを見る。


「……いやぁ、私ガッツリ直毛だから桃のフワフワの髪って理想的で。あの髪になってみたい人生だったわ」


「……出来るぞ」


「え!?」


「ちょっと触るぞ」

 

 それを聞いた万里が櫛を持ったまま郁美の髪を触ると、ピキン!と音がなりそうなほど体を固めた。


「……コテが必要だが、出来るぞ。また今度になるけどいいか?」


「お、お願いします……」


 急に近くなった万里に緊張して固まったまま足元をじっと見ていると、ミラージュも隣に来て髪型談義を始めた。


「……ねぇ亜梨子ちゃん、郁美ちゃん固まってるの可愛い」


「見事に固まってますね」


 そっと桃葉が亜梨子に言うのを問題用紙をしまいながら話す。

 桃葉はあまり恋愛系の話をしない郁美がミラージュと万里に挟まれ緊張してる姿が新鮮で可愛いらしい。


「も……桃ぉ」


「あ、郁美ちゃん」


 解放されたらしい郁美はパタパタと桃葉の傍に来て泣きそうになっていると、万里は亜梨子を見て言った。


「今度早瀬の髪いじるから、金剛のもその時やるな」


「わかりました」


 自分より郁美の髪型を楽しみになっている亜梨子は無意識に口端が上がり小さく微笑んだ。

 それに万里は、お……と声を上げ、ミラージュは え、万里相手に亜梨子が笑った……と絶句している。

 あまり表情を動かす事のない亜梨子が少しだが微笑んだ事に目を丸くしたのだ。


「…………私は笑わない生き物とでも思われているのですか」


「あ、男子向け通常モード亜梨子ちゃん」


 ジトリと光の灯らない瞳で2人を見ると、桃葉はそんな亜梨子を見て明るく笑って言った。





 

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