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「…………………………亜梨子これが俺の秘密……過去、俺は時代の流れに逆らおうともせず、好きだと思いながらも亜梨子を処刑台に送ったのは俺だよ……」


「………………………………」


「…………ごめん、亜梨子……でも……でも俺は」


 俯き謝るミラージュを亜梨子は黙って見ていた。

 ミラージュの話を聞いていて、曖昧な部分が鮮明に呼び起こされたのだ。

 亜梨子はいま、ラキアの気持ちが胸に滲み出ている。


「………………それで、あなたはどうしますか?」


「……え?」


「過去の懺悔は聞きました。そのおかげで私の夢の理由もわかりました…………それで、今のあなたはどうしますか?」


「……今の俺?」


「そう、ミラではなく、柳ミラージュ、あなたはこれからどうしますか?私は言いましたよ、その答えを、前に」 


 亜梨子は真剣にミラージュを見ていた。

 その瞳は、ミラージュの答えをまっている。亜梨子が提示したその答えを。


「…………亜梨子、亜梨子好きだよ。俺ね、亜梨子を見た時ラキアだってわかった。心臓が凄く震えたのを覚えてるよ。愛しいのに罪悪感が凄くてそばに居たいのに出来ないことで憎しみが湧くくらい。」


「…………重いですね」


「それくらい、亜梨子が好きなんだ。ラキアじゃない、今の亜梨子が好きなんだよ。きっとこの先亜梨子以外を好きになれない、離せない。亜梨子…………許してくれる?」


「……………………私が憎み嫌になるならば繋ぎ止めろとは言いましたが重すぎてドン引きです」


「亜梨子ゥ!?」


 はぁ、と息を吐き出した亜梨子は、顔を赤くしている母を見る。

 過去の壮大な話ではあるが、確実に恋愛の話でもあるのだ。

 悲恋であるし、魅了という魔女の魔力に酔ったのかもしれない。

 でも確かにミラはラキアを愛し、時代の流れに負けた人だ。

 悲恋であるが、多分純愛でもあったんだろう。

 その証拠に今の亜梨子があるのだ。


「………………柳君」


「はい」


「見てください」


 そう言った亜梨子はふわりと髪が揺れた。

 そしてゆっくりと体が浮かびあがる。


「亜梨子!?……嘘でしょ」


「あ……亜梨子ちゃん」


 そして、手を開くと現れる鋏。


「覚えていますよね?魔女の力は髪に宿るのです。だからでしょうか、私は無闇に髪を切る事を避けていました。何故だか分からないけれど、いけないことだと認識していたのです。もし切ったら満月の光に一晩中晒して紙に包み処分……同じですね」


「亜梨子、魔法……使えるの?」


「魔女ですからね」


 そう言ってソファに座り直した亜梨子はふぅ……と息を吐き出した。


「とは言いましても、今の話を聞いて魔力の感覚が分かった程度ですのでラキアの時みたいに自在には扱えません」


「うん、無理はしないでね、本当に!」


「はい。それでですね……」


「まってまって!!お母さんおなかいっぱい!!」


 慌てた母が手をパタパタしながら言うと、2人はん?と首を傾げた。


「亜梨子ちゃんがいつもみてる夢がそんな壮絶だと思わなかったし、まさか魔女で魔法とか…………」


 ワナワナと震える母に、亜梨子とミラージュは心配そうに見つめる。


「お母さん……あの、私」


「雅子さん、ごめんなさい……前世とはいえ亜梨子の事……びっくりするよね」

 

「びっくりするわよぉ!すごいわね!前世からなんて運命ね!また惹かれ合うなんて素敵!!」


「「…………………………」」

 

 キャッキャと喜ぶ母を2人はポカンと見た後顔を合わせて思わず笑ってしまった。


「ねぇ、お母さんご飯準備の途中だから続きするわね!亜梨子とミラ君は…………亜梨子、部屋でゆっくりお話してきたら?前世のミラ君とラキアちゃんがやっと結ばれたんだからゆっくりお話したいでしょ?」


 にっこり笑った母に亜梨子はホッと息を吐き出した。

 思っていた以上に深刻な話を母に聞かせてしまった。

 まさか過去に魔女裁判に掛けられた本物の魔女で、それを執行する立場にミラージュがいるとは誰も思わないだろう。


 2人は2階へと向かうその後ろ姿を見送った母は笑みを消して息を吐き出した。


「…………魔女裁判……かぁ…………過去の事で亜梨子では無いけど、胸が痛くなるわぁ……」


 2人が大好きだ。

 だからこそ、前世での事を運命と言って納得させたけど、亜梨子はどう思っているのだろう。

 自分を間接的にでも殺した人。


「……私が心配してもダメね。あとは2人の結果を待ちましょ」


 そう言って料理を再開させた。

 かぼちゃは今日は辞めるとする。






「…………亜梨子」


 部屋に入った亜梨子の背中から、覆い被さるように抱き締めたミラージュ。

 そんなミラージュに振り向き亜梨子は言った。


「ラキアはあなたを憎んではいませんよ」


「……まさか。亜梨子、無理しなくていいんだよ」


「無理ではありません……ほら、離して下さい」


「亜梨子が虐める」


「虐めてません。ほら、こっちを見てください」


 背中にへばりついているミラージュを引き剥がして顔を見ると、へにょりと眉を下げている。


「夢でのラキアは確かに幸せとは言いづらい環境に居ました。母と離れてからラキアの生活は一変します。まだ守られる5歳の幼女ですからね。それは仕方ありません。」


「…………うん」


「悲観してますね。ラキアが絶望した人生を歩んだのは否定しません。母を乞い願ってもラキアの魔力を持ってしても叶わないことに絶望していた事は確かです。教会を憎みました。」


 亜梨子の身を切るような言葉にミラージュはもう言葉もなかった。

 しかし、亜梨子の口は止まらない。


「教会を憎み、母を連れて行った人を憎み……そしてこんな状況にさせる魔女という存在に絶望しました。でもね、柳さん。私はまた魔女としてここに居ます。何故だと思いますか?」


「……わからない」


「それでも、私から全てを奪う教会に属する貴方をラキアも忘れられなかったからです。幼い時からある鮮明な記憶の中に5歳の時逃がしてくれた銀髪の男性は忘れようも無かったのです。自分の為に職に反することをしてまで金銭を持たせ捕まるなと逃がしてくれた貴方を……たとえ、後に私を捕まえようと傷付けたとしても、孤独な生活をしていたラキアにとって母以外に唯一温もりをくれた人だから」


「…………亜梨子」


「きっと、時代が悪かったのです。そうとしか……言いようがありません」


 そう言って亜梨子は1階のリビングで出した鋏を取り出す。

 じっと見ていたそれをおもむろに髪に挟んだ。


「ちょっ……亜梨子!?」


「私が魔女として生まれ変わった理由がこれですよ」


 ジャキリ……

 片手で持てるだけの毛束を掴み背中の真ん中ほどで切った髪をミラージュにも見えるように前に持ってくる。


「魔女の髪には魔力が帯びています。大きな魔法を使ったり人を呪ったり」


「あ…………」


「身に覚え、ありますよね?」


 あの捕まる時、ラキアがミラに掛けた呪いである。



これから!生まれ変わる度、貴方は不幸になる!貴方を幸せになんてしてあげない!!



「ラキアはね、最後に後悔したのですよ。捕まってから同じ体温を意識がないなりに感じていた。それがミラでした。それはあの最後の階段を上る時も周りの反対を押し切って抱えてくれました。逃がすことが出来ず謝ってすらくれました。最後に欲しかった温もりをずっと与え続けてくれたあなたに、ラキアは感謝していたのですよ、とても」


「…………そんな、そんなこと」


「だからね、これがラキアの強い願いで最後の呪いなのです……………………ミラ、与えた呪いは全て消えます。そして今後の人生に幸あらんことを」


 持っていた髪が燃え上がり溶けるように消えていった。

 それは過去ミラだった自分に掛けられた呪いが消えた証拠。

 これは自分への戒めだった。愛しく思うラキアを処刑台へと送った自分が受けるべき呪いだと、甘んじて受け続ける腹積もりだったのだ。


 たとえ不幸体質と呼ばれ歩けば何かにぶつかり病院のお世話になろうとも、クレーンの先が飛んでこようとも、肺炎と盲腸が同時に来ようとも。

 …………たとえ死んだとしても。

 それは自業自得だから。



「………………俺は許されたの?ラキアにも、亜梨子にも……」


「馬鹿ですね、最初から怒っても恨んでもいないのですよ。考えてもみてください、ラキアがあなたを恨んでいたら貴方と付き合う事をきっと魂が許しませんでした。……貴方と付き合った時点でラキアは貴方の愛をしっかりと受けとっていたのです」


 そう微笑む亜梨子に、ミラージュはキラキラと光る涙を流した。

 座り込み両手で顔を覆うミラージュを亜梨子が抱きしめてあげる。


「長く辛い思いを抱えて怖かったですね。ミラ、今生はきっと幸せになりましょう。過去の私達が得られなかった幸せを私達で、ねぇ?ミラ」


「うん……うん……幸せに、なろうね」


 そう泣き笑いしたミラージュはふわりと笑って言った。


 やっと、幸せな眠りに着けそうだよ。


 



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