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 亜梨子には不思議なことがあった。

 ひとつはあの15歳から見続けている夢。

 何故か同じところばかりが繰り返されている。

 

 もうひとつは、亜梨子が強く望んだことが規模や多少の彎曲があるが叶えられる事が多々有ること。

 本当に些細な事なのだ。

 明日友達と遊ぶお小遣いが足りないから、少し欲しいなと思った次の日に5千円札を拾い呆然としたことがある。

 しかし、いい事だけじゃなくて無意識に明日のテストいやだなぁ、校舎使えなくなるとかで休みにならないかなぁ……と安易に考えた翌日の明け方、校舎で数箇所にボヤ騒ぎが起き学校閉鎖になった。


 いいことなら亜梨子も喜ぶが、不幸も呼ぶ。

 これを機に何かを願うのが怖くなった。


 そして、最後が



「おはよう、亜梨子」


 クラスにいて自分の席に座った亜梨子。

 教科書を机に入れてから机の横に鞄を掛けている亜梨子の元にまだ桃葉と育美は来ていない。

それよりも先に亜梨子の2つ斜め後ろの席の男子が亜梨子の机に片手を添えて挨拶をしてきた。

 上を見て、その極上の笑みを見る。

 キラキラと光に透けて輝く目が冴えるような銀髪に柔らかく細められたエメラルドグリーンの瞳。

 祖母がイギリス人らしく、クォーターのこの男子生徒はどうやら海外の血が強いようだ。

 185cmある高身長を軽くかがめて微笑むこの男を困惑気味に見る。


「……おはよ?亜梨子」


「……おはよう、ございました」


「……過去形にしないで」


 帰ってこない亜梨子の返事を催促したこの男は首を傾げてまた挨拶を繰り返す。

 渋々返した答えに笑って、流したまま床につきそうな亜梨子の長い髪を片手ですくい上げた。

 腕と体の間に挟んだ鞄を落とさずバランスを保ったまま、ゆるゆると三つ編みを撫でる男の手から髪を奪い取った亜梨子は険しい顔をしながら口を開く。

 

「自分の席に戻ってください」


「はいはーい」


 ふっ……と笑い、流れる髪の最後の一筋を指で撫でるように離していったその男を亜梨子は見送る。

 不快感からギュッと顔を顰めた亜梨子は乱暴に引っ張り乱れた髪をどうするかじっと見つめていた亜梨子の手に、ふと別の手が触れた。


「あー、だめだよー?亜梨子ちゃん、髪がいたんじゃうー」


「……あいつ、本当に亜梨子に絡むよね。あー、また女子のいらない視線が亜梨子に……」


 そう、亜梨子のふたつ斜め後ろの席に座るキラキラしい男子、柳ミラージュである。

進級しクラス替えによって知り合った亜梨子にちょいちょい絡んでくるのだ。

 1年の頃からその派手な見た目に視線を集め、優しく取っ付きやすい性格で更に人を集めるミラージュは、このクラスのみならず他クラス、学年までまたいでその人気はうなぎ登りだった。


 人気なミラージュの周りには男子女子関係なく人が集まる。

 ミラージュに絡みつく様に腕を絡め、体を寄せてアピールする女子達と、そんな女子と仲良くなりたい下心のある男子も集まる。

 もちろん純粋にミラージュと遊ぶ友達もそこにいるのだが。


 亜梨子のみならずクラスの皆が不思議に思っているのは、特別を作らず自分から必要以上に特定の人に構ったりしなかったミラージュが、亜梨子にだけ声を掛け戯れに髪に触れる。

 一体なんだというのだ。ミラージュがそうするたびに、女子の刺さるような冷たい視線が亜梨子に向かうのだ。

 

 わざわざ下駄箱から遠い階段を選んで2階に登り、教卓前側の扉から教室に入って自分の席より前の亜梨子に欠かさず声を掛ける。

 桃葉はミラ君は亜梨子のこと……!?と恋愛脳をバクハツさせるのだが、そんなことは無いだろうと亜梨子は思っていた。


 初めてクラスが一緒になり、亜梨子を見たミラージュは明らかに驚愕して動揺して目を見開いていたのだ。

 恋に落ちたとか、そんな甘いものでは無く懺悔や後悔なんかの負の感情も含まれる曖昧に混ざりあった複雑な眼差し。


 複雑な色を宿したエメラルドグリーンの瞳はそれから1週間以上に渡って亜梨子を不自然なほどに追っていた。


 勿論、亜梨子もそんな眼差しに晒され続け座りが悪くもぞもぞとさせる。

 暫くしてミラージュのその複雑な視線は和らいだ。

 しかし、亜梨子に向かう眼差しは種類を変えて向けられていることに変わりはなかった。


 本当に、一体なんだというんだ。

 2年になって妙に話しかけてくるミラージュのおかげで女子からのあたりがきつくてなっている。

 同じクラスや、他クラス、他学年の男子生徒までもあのミラージュが気にかけている女としてまるで珍獣のように亜梨子を見に来るのだ。


 そして、なんだ、普通じゃん!とからかいや笑いを含めた刺さる言葉を平然と発する。

 まぁ、亜梨子はそれくらいの言葉に見向きもせず背筋を伸ばして椅子に座っているのだが。


「はい、でーきた」


「ありが…………」


 乱れた膝ほどまで伸びた漆黒の髪を桃葉が器用に結んでくれ。

 たまに戯れに結んでもらう髪型は毎回違っていて、可愛いく結ぶ時や奇抜な時も。


「っ!桃!あ……んた、なんて、髪型……」


 注意しているようでいて片手で口元をかくし笑いを耐えている郁美をギロリと睨む。

 そんな郁美は綺麗にくるりんぱされて飾りがついたゴムで髪を飾っていた。

 亜梨子は編み込んだ髪を2つにお団子にし、長い髪を垂らしている。

 お団子にした根元には大きめクマのマスコットが付いた髪ゴムがついていて、オシャレな某美少女戦士な髪型に近くなっている。


「も、ももは……」


「はぁい?」


「か、変えてください?」

 

「もう先生来るからだぁめ♡」


 にっこにことホワホワ笑う桃葉が断固拒否を貫いていて、郁美は腹筋が崩壊しそうな勢いの笑いを耐えている。


「桃……ひゃ」


 これはさすがに……と噛みながら言いかけた亜梨子のタイミングと被るように先生が教室に入ってくる。

 ぱちこーん!とウインクして可愛いーいよ!と言い逃げする桃葉に亜梨子は撃沈したのだった。

 



 

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