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 あの時私は知りたい事を何故かどうしても聞きたかった。

 寝不足で頭がボーッとしている。考えが纏まらない。

 でも、何故かあの時無性にどうしても聞きたかったのだ。


 結局は前にもはぐらかされるように言われた亜梨子が好きだからと。

 それは本当に?その割にはなんだか監禁する、みたいな事言ってなかったかしら。


 よく分からない、だって柳君は私を捕まえに来たんだよね?あれは監禁?

 捕まえに……捕まえる?

 どうして?私はなぜ捕まえられるの?何故?


 何も悪いことしてないのに?


 悪い事?それはなに?


 あぁ、なんだか頭がとても痛い。あの夢を見た後、最近よく頭痛がする。





「………………私……」


「うん、なに?」

 

「私は、何もしてないよね?私、なにも……」


「してないよ、大丈夫、何もしてないよ」


「…………そう、よか…………た…………」


「…………………………寝た?」


 



 ミラージュに連れて来られ、寝てと促された亜梨子はミラージュに押されて床に横になった。

 ミラージュの膝に頭を乗せて目を大きな手で覆われる。

 すると、寝不足で疲れ切っている亜梨子の体は一気に睡魔が襲いかかり眠気に抗えなくなっていた。

 次第に混濁していく意識の中、亜梨子は夢の中の少女の中にいるような錯覚を感じながら眠りに落ちていったのだった。



「…………やっぱり、亜梨子……ねぇ、夢を見てるんだね。ごめん、ごめんね………………亜梨子、君が俺になにかしたんじゃないんだよ……俺が君を捕らえたんだ……俺が君を…………」



 ミラージュの膝にある亜梨子の頭を優しく撫でた。ゆっくりゆっくり髪をすいて頬を撫で体を丸めて亜梨子の額に口付けを落とす。


 

「………………ごめん、それでも愛してるんだ。きっといつか君は俺を拒絶するだろうけど、それでも俺は……君を手放す事は出来なさそうだよ」


 手に入れられなかった君が今こうして側にいて、無防備に寝顔を晒してくれる、そんな君の隣が心地よくて、それを知ってしまった今の俺は、あの時みたいに君を手放す事は出来ないだろう。


「…………だから、許して欲しいんだ。俺が君の隣に居ることを、どうか許して」


 まるで祈るように目を瞑って呟いたミラージュの言葉は勿論、今の亜梨子には伝わらなかった。







「…………ん」


「亜梨子?起きたの?」


「……………………………………悪い事してないから、助けて……私を殺さないで…………お願い…………本当よ、魔法は使ってないの……誰にも嫌なことはしてないわ…………ねぇ、お願い…………ねぇ、魔女が全部悪いわけじゃないのよ……良い魔女もいるのよ…………だから……だめ?やっぱり、私も死ぬのかしら……」


「っ!」


 無表情で涙を流しながらミラージュを見つめる亜梨子にビクリと体が震えて硬直した。

 そして、震える手で亜梨子の頭を撫でる。


「…………大丈夫、何も悪い事はしてないって知ってるから。ラキア、だから、心配しないで目を瞑って」


「……本当?……良かった…………」


 スっと目を閉じた亜梨子の目から流れる涙を拭って、ギュッと抱きしめた。


「…………そうか、今はあの場所に居たんだね」


「…………柳君?…………何をしているんです」


 ふっ……と覚醒した亜梨子は自分がミラージュに抱きしめられている事に気付いた。

 目が座り睨みつけるように見る亜梨子の視線に落ち込み沈んでいたミラージュはギュン!と音がなりそうな速さで離れる。


「い、いやいやいや!やましい気持ちは無いからね!?」


「………………」


「ご、ごめんなさい」


 表情を変えずに見つめ続ける亜梨子にミラージュは頭を下げて謝った。


「…………今回だけですよ。次やったら捻り潰しますからね」


「ど……どこを」


「………………………………」


「ごめんなさい!!」


 ヒィヒィと謝るミラージュを残し立ち上がった亜梨子はグッと伸びをした。

 目を瞑って息を吐き出した亜梨子は体の疲れでとれ、強ばった体を優しく解す。


「……柳君」


「はい」


「ありがとうございます、夢は見た……と思うのですが体の疲れが取れました」


「!本当!?……良かった……」 


「寝かせてくれてありがとうございました」


「亜梨子の役にたてて良かったよ」


 丁度昼休みが終わる5分前、亜梨子が眠っていた時間は20分も無かっただろう。

 しかし、その20分の中でまた少女の一生を追ったのだ。

 疲れが溜まり汗だくで飛び起きるはずの亜梨子はスッキリとした目覚めをしていた。


「…………なぜか、安心したんです。不安だらけだったはずなのに、大丈夫って心配ないからって言われた気がしました」


「…………………………そっか」


 亜梨子は今までよりも綺麗に微笑みミラージュの息を一瞬止めた。










「亜梨子ちゃーーん!!」


 泣きながら戻ってきた桃葉はお弁当箱を自分の机に放り投げて、郁美と亜梨子のいる机に走り出した。

 珍しく郁美の机にいる為廊下側に居る2人に桃葉はえぐえぐと泣き、クラス中の視線を集める。


「ど、どうしたの桃葉、戦いに行ったんじゃ無かったの?」

 

 郁美の言葉に戦い!?と驚くクラスメイトを後目に桃葉は郁美の机を叩き泣き崩れた。


「あんの尻軽ぅぅぅぅ!!何堂々とお昼に割り込んで来るわけぇ!?お前は下級生だろがぁぁぁい!!誠君も誠君だよ!なぁにデレッとしちゃってんのぉ!?あなたの彼女は私でしょ!?なんなのよぉぉぉ!!きっぱり断ってよぉぉぉ!!」


 荒れに荒れてる桃葉に郁美はおおぅ……と呟き、亜梨子は頬を引き攣らせた。

 丁度入ってきた先生がピタリと動きを止めて桃葉を凝視する。

 

「…………あー、次の授業は担当の先生が急遽体調不良で帰ったから自習にする。静かに、静かにするようにな」


 数学を受け持つおじいちゃん先生は目を丸くしながらも伝える要件を言い、穏やかに笑った。

 静かにを2回言ったあたり、うるさかったのだろう。

 桃葉はプルプルしながら先生の話を聞き、教室から出ていった瞬間にギラリと郁美を見た。


「ど、どうした……なにがあったのさ」


「あの!先週の!!」


「先週の?」


「あの体育祭の準備で集まったヤツだよ!!」


 ぎゃおん!と吠える桃葉はいつものまったりおっとり、ほわんと笑う姿はなく、まるで鬼の様に目を釣りあげている。

 そんな珍しくも恐ろしい桃葉にクラス中が静まり返り亜梨子たち3人を固唾を呑んで見守っていた。


「あの時にいた1年が!誠君に一目惚れとか抜かしやがって!!あと付け回してくる!!」


「お……落ち着いてください、桃……葉、痛い……」


 ギュッと腕を掴んでくる桃葉に亜梨子は眉を寄せるとミラージュはハラハラしだした。


 桃葉が言うには、先週の体育祭の準備で全校生徒が集まった時の話らしい。

 この学校は、1学年から3学年までクラス別に赤組白組と分けられる体育祭となっている。

 まるで小学校の運動会の様な分け方をしているが、学年混ぜこぜで交流出来るようにしている。


 そして、この準備というのが、分けられた組事にやるのだが、1年の田中玲美と言う少女が桃葉の彼氏に一目惚れしたと騒ぎ立てたらしい。


「それだけならまだいいのよぉ!?あぁ、桃の彼氏カッコイイからモテるよね、で終わりじゃない!なのに、あの女ぁ!ずっと付きまといやがって!!しかも桃達と一緒のお昼にまで乱入してくるんだよ!!誠君は初めて告白されたとかデレデレしやがってぇぇぇ!!」


 ギンッとクラス中を見る桃葉の目つきがヤバい。

 全員がビクッ!!と体を揺らして目の座った桃葉に1歩下がる。


「桃、むしゃくしゃする!!なんで好きな人がいるのに別の人にデレデレ出来るの!?男子!!」


 小さな声で、うわっ矛先こっちに来た……とか聞こえるが、それくらい今の桃は鬼と化している。

 グルル……と唸り声すら聞こえそうな桃葉にどうやって収めるべきか……と全員が考えている。

 下手な答えを出したら消されそうだ。


「…………桃葉」


「亜梨子ちゃん?」


「桃葉いいですか?男とは時に思ってもいない事を見栄で言ってしまうものです。そして、相手からの好意にデレッとしてしまう時もあるでしょう。そういう時はですね」


「……そういう時は?」


 亜梨子はとても綺麗に微笑んだ。

 まるで聖母のように全てを包み込む母のように、それはもう優しく優しく微笑んだ。

 そんな綺麗に笑う亜梨子の口が開く。


「強く強く願うのです。貴方が好きなのは私、と。そして、彼氏の耳元で囁きましょうね………………貴方はだれの彼氏かしら?分からないなら捻り潰して分からせてあげましょうか?」


 美しい亜梨子から出たとは思えない酷い言葉にクラスの時が止まった。

 クラス替えした後のまだあまり亜梨子を知らないクラスメイト達は目を見開くばかりだ。


「………………亜梨子ちゃん」


「はい?」


「…………怒りもびっくりで静まっちゃったよ……」


「あら」


 男子は総じて顔色を悪くして、ミラージュは泣きそうな顔で亜梨子を見つめていた。

 そして、女子はなんとも言えない顔で亜梨子を見ていた。

 

 

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