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 (私は借り物競争に当たらない、私は借り物競争に当たらない、私は借り物競争に当たらない!!)


「じゃあ、借り物競争は安田くん、足達君、柳君、神崎さん、沢渡さん、橘さんに決定です」


 (よし!!)


 亜梨子はこの借り物競争のくじ引き中、髪をひと房握りしめて祈っていた。

 あまりにも出場者が決まらないため、現在出場が1つしか決まっていない人からくじ引きで決める事になった。

 もちろんブーイングは多かったのだが、クラス委員の独断で決まった。

 にっこり笑って言う美少女に逆らえなかったのだ。


 こうして、亜梨子は祈りという可能なズルをしてこのくじ引きを回避した。

 この時、亜梨子はこの願いを可能にする能力に心底感謝した。


 そして、見事くじ引きに引っかかった6人は絶望に打ちひしがれている。

 仲の良い桃葉が借り物競争にあたり落ち込んでいるのがここからでもわかる。

 そして、不幸体質なミラージュが当たるのは必然だったのではなかろうか。


「………………亜梨子ちゃんずるい」


 小さく呟いたミラージュの声は誰にも拾われる事は無かった。






「桃、災難だったね」


「もぅ、ヤダー」


 昼休み、教室でお弁当を食べようと集まった3人だが桃葉はまだ元気がない。

 机に頭を乗せてバンバンと叩いていて、そんな桃葉を郁美が眉を下げて見ていた。

 桃葉だけではなく借り物競争になった人達は一様に暗い。ミラージュを除いて。

 ミラージュは最初こそ落ち込んでいたが、決まったものは仕方ないと今は万里達とお弁当をたべている。

 今日も豪華なミラージュ弁当に男女関係なく興味津々に眺めていた。


「ミラのお弁当本当に凄い!」


「ありがと」


「ミラ手作りなんでしょ?すごーい!私も作って欲しくなっちゃう!」


「そこは作ってあげるじゃないのか?」


「こんな料理上手に作れないよ!!」


「…………たしかに」


 少し大きめの弁当箱に並んではいる手の込んだ料理。

 その中から1個万里は勝手に取って食べていた。


「…………相変わらずうめぇな」 


「それ自信作」


「マジで彼女出来ても彼女弁当貰えないんじゃねーの?」


「んー、それこそ俺がつくれば良いだけだよね?」


「…………作るのかよ」


「そりゃ、作るでしょ」


 当たり前のように言うミラージュに万里は呆れ、周りの女子はキャーキャーと叫び出した。

 彼女作る気あるんだ!と期待に胸を膨らましているのだが、ミラージュは気にせず食事を続けている。


「………………なんであんなに割り切れるのぉ」


 いつもと変わらないミラージュの様子に泣きそうな桃葉。

 亜梨子は、今日たまたま持ってきていたカップケーキをそっと差し出した。


「…………カップケーキだぁぁぁ」


「昨日寝る前に作りました。良かったらどうぞ」


「亜梨子ちゃん大好きぃぃぃぃ」


「亜梨子、亜梨子、私には?」


「はい、郁美のもありますよ」


「亜梨子のカップケーキィィィィ」


「…………そんなに?」


 泣きながら喜ぶ桃葉と、純粋に喜ぶ郁美。

 そんなに喜ばれるとは……と亜梨子は慄いていたが、嬉しそうで良かったと安心する。

 なかなかの声量で喜ぶ二人にクラスメイト達も気付き、カップケーキ?とこちらを見てくる。

 まるで売り物のように綺麗なカップケーキが袋に入っていてるのに気付き、ミラージュの周りの女子が、タイムリーすぎる料理の話題にギリっと歯ぎしりした。


 ぴろりん


 急になったメッセージアプリの通知音に亜梨子はスマホを取り出すと、そういえば昨日交換したな、という相手の名前が出てきた。


「うっ」


「どした?」


「…………呪い?」


「え?」



『亜梨子ちゃん、カップケーキってどういうこと?亜梨子ちゃん手作りなんだよね?あれ?俺貰ってないよ?俺にはないの?俺も落ち込んでるのに??』


 そろりと振り向きミラージュを見ると光のないじとりとした目で亜梨子を見ていた。

 あわてて前を向きスマホを操作する。


『まだありますから、後で』


 それだけを打ちミラージュを見ると、スマホを見ていたミラージュが嬉しそうに笑った。

 ホッと息を吐き出してご飯を食べようと箸を持った時、ミラージュのそばに居た女子が亜梨子の方に来た。


「…………一華?」


 郁美が一華と呼びその女子を見上げると、郁美が貰ったカップケーキをおもむろに持ちジロジロと見る。


「なに、どしたのよ」


「……あんた、これ作ったの?」


「ええ、そうです」


 郁美にカップケーキを返した一華は椅子を持ってきて座りスマホを持ち出した。


「……………………レシピ、教えて」


「一華ちゃん作るのぉ?」


「な、なによ!悪い!?」


「ううん、乙女で可愛いねぇ」


「なっ……馬鹿にしてんの!?」


「えぇ?可愛いって言ってるのにぃ」


 キィ!と叫ぶ一華に、桃葉はうふふと笑う。

 恋する乙女が頑張る姿は誰だって可愛いのだ。


「…………たしか、来週の調理実習カップケーキだったじゃない……美味しいのあげたいのよ……」


 声を抑えてチラッとミラージュを見る一華に亜梨子はなるほどと頷いた。

 ソワソワする一華に亜梨子は今はご飯だから後で教えるて言うと、一華は素直に頷く。


「……金剛、よろしくね」


「……はい」


 すぐにミラージュの元に戻った一華は、周りにどうしたの?と聞かれているがはぐらかしたらしい。


「…………郁美、後で送るレシピを佐藤さんに送ってくれますか?」


「わかった、一華に送っとくね」


「ありがとうございます」


 佐藤一華。

 クラスメイトで陸上部所属、郁美とはまぁまぁ仲が良い為、メッセージアプリの交換済み。

 ミラージュの周りにいる女子の1人で、ミラージュが好き。

 今までもお洒落は好きだったが、ミラージュに会ってから余計に外見に気を使い出した。

 あたりがきつくて大人しい女子には苦手意識が持たれやすいが、一華自身は気に入った人ならば大人しかろうが暗かろうが仲良くできる。

 そんな一華が、ミラージュが何故か構う亜梨子に話しかけに行ったのが不思議がられていたのだ。

 しかも小声で話していたので内容まではわからない。


 そんな一華を見たミラージュは少し考えてから昼ご飯を再開した。













 昼食が終わってから最後の授業は体育だった。

 授業の変更で最後に体育だなんてとため息を吐いた授業も終わり後は帰りのホームルームだけである。

 制服へと着替えた亜梨子は、トイレに寄ってから戻ると桃葉と郁美に伝えて離れていった。

トイレが終わりひとりで歩いていた亜梨子は教室まで少しという時に腕をパシリと掴まれた。


「っ!?」


 急に引っ張られ空き教室に連れ込まれる。

 引っ張られた反動で壁の方に飛ばされた亜梨子は、引っ張った犯人の腕により壁にぶつかる事はない。

 驚き心臓がバクバクして悲鳴が零れそうになったが、次に香ってきた良く知る香りに半眼にさせる。


「…………なにをするんです、柳君」


「あれ、バレたちゃった?」


「こんなに至近距離なら流石にわかります…………驚かせないで下さい」


 壁に向かって立つ亜梨子の後ろから抱き締めるように腕を回しぶつからないようにしていたミラージュ。

 はぁ、と体に入っていた力を抜いた亜梨子にあらぁ、と笑った。


「1回やってみたかったシチュエーション、無理やり空き教室に連れ込む」


「変態ですか。私以外でしてくださいよ」


「えぇ、亜梨子だからいいんじゃないか」 


「東屋さんで我慢してください」


「…………なんで万里」


 亜梨子の肩に頭を置いてカクリとするミラージュ。

 まだ離そうとしないミラージュの手を掴み引っ張るが、逆に力が込められる。


「離すのだ」


「ねぇ亜梨子、一華がなんか亜梨子に言った?」


「はな…………ん?佐藤さん?」


「そう、一華すぐ亜梨子に絡むでしょ?さっき話し声聞こえなかったし、なんか言われた?」


 心配だったんだ、と言うミラージュに亜梨子は悩む。

 一華はバレない様に声を抑えていたし、聞かれても答えていなかった。

 そんな一華の頼みを渡す本人に教えていいものか、いや、よくない。


「…………嫌な事は言われていません」


「じゃあ、なに?」


「それは内緒です」


「…………内緒?」


「少なくとも、今は言えません」


「今はダメ?」


「ダメです」


「…………ダメかぁ」


 亜梨子が嫌な事を言われていない。

 それがわかったから、渋々頷いたミラージュは亜梨子を離してくるりと向きを変えた。

 向かい合わせになった亜梨子の頬を両手で包み顔をじっと見る。


「……亜梨子、嫌な事言われたりしたらすぐに俺に言うんだよ?いいね?」 


「…………なぜ柳君に言うのか些か理解できません」


「理解しなくていいから言うこと!」


「はにゃひなひゃい!」


 頬を包む両手に力が加わり頬をムニュリと潰される。

 腕をバシバシと叩き解放しろと訴えたが、潰された顔にミラージュはぶふっと吹き出し亜梨子の肩に両腕を回して笑いだした。


「な、なんて失礼なんでしょう!」


「亜梨子が可愛いのが悪い」




 この後、しっかりカップケーキは奪われた



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