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「…………どうしたの?亜梨子ちゃん」


 クレープを食べた為にいつもよりも少なめにした夕食を噛み締めている亜梨子を母は首を傾げながら聞いた。


「なにがですか?」


「なにがってぇ……」


 ぷりぷりと怒っている亜梨子に、髪がぐしゃぐしゃにされて苦笑しながら豚汁をすするミラージュ。

 母が買い物に行っている間になにかあったのよね?と首を傾げている。


「雅子さん、俺、亜梨子怒らせちゃった」


「あらあら、何をしたの?」


「ちょっとイタズラされたと思って反撃したら照れ隠しだったみたい……わっ!」


 チクられた亜梨子は隣に座るミラージュの足をダン!と踏むが、フカフカのスリッパのおかげでダメージ0である。

 それがまた腹立たしく鋭い目で睨むが、ミラージュは気にせず天丼を食べていた。


「あら、仲良しねぇ」


「学校じゃ照れて話してくれないんだけど。ねぇ?亜梨子?」


「黙って食べやがりませ」


「照れてるの?照れ隠し?」

 

「うぜぇでーす」


「わぁ、かなしい」


 くすくすと笑いながら言葉遊びをするミラージュに亜梨子は嫌々ながら返事を返す。

 そんな2人を母はうふふ、と見守っていた。

 ミラージュがこちらに来るようになってからすでに3週間が過ぎていて、こうして食卓を囲むのも慣れてきた。

 前よりも軽口をたたけるし、中間テストの結果を亜梨子の家で見直しなども一緒にしたほどだ。


 学校では相変わらず一定距離を保ってはいるが毎週月曜日の昼食も今では当たり前になりつつあった。


「…………そうだ、柳君。後で話があります」


「告白?」


「……………………」


「睨まないで!」


 苦笑しながら睨む亜梨子の頭を撫でた。




「で、亜梨子どうしたの?」

 

  入浴後、先に上がってテレビを見ていたミラージュは、亜梨子が来た事に気付いていそいそとドライヤーの準備を始めた。

 この家に来て1週間たった頃には、嫌がる亜梨子を説き伏せ入浴後のドライヤーを勝ち取ったミラージュ。

 何故か前から亜梨子の髪に固執しているので、こんな良いタイミングを逃すミラージュでは無い。

 慣れたようにミラージュの前の床に座り込んだ亜梨子は足を縮め体育座りをする。


「…………私から言った事なのですが、桃葉と郁美に柳君が我が家に来る事を伝えていいですか?」


「うん」


「…………え?いいのですか?」


「うん。俺は隠してないしね。亜梨子が嫌がる事はしないから俺からは言わないけど、亜梨子が言いたい子には好きに伝えて」


「…………すみません」


「謝ることじゃないよ」


 俯く亜梨子の顎に後ろから指先を当てて上を向かせると、ソファに後頭部が乗った。

 亜梨子を挟むように足を開いているので、ミラージュの真下に亜梨子の顔がある。

 ミラージュを見上げると、しっとりとした手が亜梨子の頬を包んだ。


「亜梨子の好きにしていいんだよ」


「……わかりました」


「………………パパはわからないよ」

 

「…………………………あら?」


 2人で真剣な話をしている最中に帰宅した父は、2人のその体制に口をパカっと開いていた。

 頬を包んだままミラージュは首を傾げ父を見る。

 

「…………おかえりなさい」


「おかえりなさい、和臣さん」


 ミラージュの手を離させ頭を起こした亜梨子は無表情で帰宅の挨拶を、ミラージュはにっこりと笑った。

 そんな2人にフルフルと静かに怒る父。


「なんて格好をしているんだ!お父さんは許しませんよ!」


「……………………これは普通ではない?」


「普通だよ、亜梨子ちゃん」


「普通じゃないよ!!クラスメイトの男子とそんな格好で普通は座らない!!」


「………………まぁ、たしかにそうかもしれません」


「俺とは普通だよねぇ」


「………………感覚が麻痺していました」


 サッと立ち上がり離れようとしたら、ドライヤーを隣に置いたミラージュが素早い動きで亜梨子の腰を鷲掴んだ。


「離しなさい」


「ちょっと嫌かな〜」


「娘の腰を触るな!!」


「…………まぁ、何事?」


 カオスなこの状況に入浴を終わらせた母が戻りキョトンとしている。

 立ち上がる亜梨子に、その後ろのソファに座ったミラージュが亜梨子の腰を掴んでいて。

 そしてリビングの入口で叫ぶ父の姿。


「とりあえずお父さんおかえりなさい、うるさいわ」


「うる…………っ!?」


「そして亜梨子ちゃんはちゃんと座って髪を乾かしなさいな」


「…………はい。お母さん、これは普通ではないので自分で乾かします」


「普通じゃない……?」


「普通じゃないだろう!何故クラスメイトにこんなに密着して髪を乾かしてもらってるんだ!」


「そんなのミラ君だからじゃない。私だってミラ君じゃなかったら怒ってるわよぉ」


 カラカラと笑って冷蔵庫から麦茶を出し飲む母に父はまるで幼児のように亜梨子達を指さし泣きそうに母に訴えている。


「いいのよぉ、ミラ君は息子なんだからぁ」


「うちに息子はいないよ!!」


「もぅ、相変わらず煩いんだから」


 母にこれっぽっちも相手にして貰えず足踏みするのがこの家の大黒柱である父、和臣である。

 頭が少し寂しくなってきているのを気にして育毛を真剣に考えだした45歳。

 嫁バカの娘バカな一児の父で、知り合いの子供が一人暮らしになると心配する優しい人だ。


 ミラージュへの印象はとても良かった。

 綺麗な青年になりかかった少年は儚く笑い挨拶をした。

 亜梨子と同じクラスと知ってびっくりしていたが、母と同じく学校の亜梨子を聞きたがりポツリポツリと話してくれた。

 とても良い少年なのだ。

 性格も良く、なかなか友達を作れない亜梨子に気さくに話しかけてくれてくれる。

 ただ、この距離感だけが許せない父だった。

 亜梨子の感覚が麻痺して誰にでもこれじゃ困ると戦慄している。


「あ、お母さん土日で桃葉と郁美が泊まりに来ます」


「あら、わかったわ!ご飯とか、おやつ張り切っちゃう!」


 一気にワクワクしだした母に、父は仕事ではない疲れを感じながら部屋へと着替えに戻って行った。


「あら、じゃあミラ君は来ない?」


「うん、来ないかな」


「………………………………雅子さみしい」


「どれだけ気に入ってるんですか」


 またドライヤーを再開したミラージュは、しっとりと濡れている亜梨子の髪にドライヤーをあてその触り心地を楽しんだ。


「…………亜梨子は気持ちいい」


「気持ち悪い事いわないでください」


「え、酷い……あっつ!」


「え?」


「ドライヤーでやけどした」


「どうやったらドライヤーで火傷するんです!!冷やしなさい!!」


 バタバタとミラージュの手を掴み流し台で流水にあてる亜梨子をミラージュは嬉しそうに見ていた。


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