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【第二章完結】転生スペクトラム ~悪役令嬢の英雄譚~  作者: もふの字
第二章 変革のフィロソフィー
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第46話 悪魔憑き


 ――転生百二十六日目、午前十時、ライトダンジョン第一(【ベイルロンド】)層、妖精の研究所、地下二階、特殊実験室。



 プルトニウムの発見から翌日。

 魔法陣によって実現したそれを、ボク達は"魔導Pu(プルトニウム)"と名付けた。

 魔導Puを見つけた今、やるべき事は実用化に向けた実験だ。


 その為に妖精達から地下にある実験室を貸して貰い、今はルイス少年主導の元で専用の実験設備を妖精達に設置して貰っている最中。


 実験室の内部では、床にしゃがんで設備の配置を検討するルイス少年と、設備をシャボン玉に包んで移動させる妖精達の姿が見える。


「うーん……この辺はどうしようか?」


「スイーツ変換機さんを、置くのだっ……!」


「スイーツじゃなくて魔導Puの実験をするんだよ、しろさん?」


魔導(まどー)Puさんを、スイーツPuさんに、変えちゃうのだっ……!」


「プルトニウムさんは食べられないよ! 諦めてねっ!」


 プルトニウムですらも甘いお菓子に変えてしまおうという妖精さん。

 何とも食欲旺盛な生き物達である。


(妖精さんは今日も自由だなって)


 ――特殊実験室の入口付近から楽しそうな彼等を眺める。


 白金の髪と小柄な体。それはまるで風に(なび)く花のように揺れている。

 近くで(あふ)れるのは小さな生命。不老不死だとしても、今この時は変わらない。

 例え時間が無限にあろうとも、大切な人と触れ合える時間は限られている。

 それが分かっているからこそ、少年と妖精はお互いを想い合えているのだろう。


(そこにはいつか……)


 足元に視線を落とせば、視界の先で分かたれる光と影。

 光に入れず、影に身を任せてしまうのは己の所業。

 今はまだ、キャロルを光の中に入れられない。


(それでもいつか……必ず)


 決意は固く。いずれは彼女を光の下へ。

 最早己の存在価値などそれ以外に無いのだから。



 ――不意に、少女のように妖精と触れ合う少年に、彼女の姿が重なって見えた。



 強い想いが見せた幻だろうか。

 その光景に視線を奪われていると、此方(こちら)に近付く足音一つ。


「……あのような少年が、勇者に代わる新たな切り札を見つけるとはな」


 振り向かなくとも分かる。その演技がかった声の主はオリバー卿。

 彼には今回の事をフロイト男爵経由で報告してある。

 なので今日はボクへの連絡がてら、ここまで様子を見に来たのだろう。


 離れた位置から実験室の様子を見やるオリバー卿へ言葉を返す。


「切り札に成り得るかは実験の結果次第ですよ。……それより、ボルドー公爵への渡りは付けて頂けましたか?」


「バルトフェルド侯爵の協力を得た事で、ヴィター家とボルドー家が繋がるパイプは出来た。……が、お前の提案に関しては玉虫色の答え(・・・・・・)だと言っておこうか」


 玉虫色……という事はやはり妨害されたか。

 想定通り、スターライト家からの横槍だろう。

 ヴィター家との繋がりは欲しいが、スターライト家を敵に回したくは無い。

 それがボルドー公爵側の考えだと思われる。


「そうなると……ボルドー公爵の首を縦に振らせるには、スターライト家を抱き込む必要がありますね」


「ククク……難攻不落だな。俺は負け戦には乗らんぞ?」


「構いませんよ。どの道世界を変えてしまえば、彼等も身の振り方を変えざるを得ませんから」


「そう成らなかったとしたら?」


「そう成るように仕向けるだけです」


 ボクの返答に、彼は仰々しく顔の横で両手を叩いて賞賛した。




「ハハハッ!! 悪魔(・・)にしては、悪くない自信と覚悟だ……!」




 ――しかしその賞賛には、聞き捨て成らない言葉が含まれていた。


 その意図を確かめるように、視線は彼に狙いを定める。

 射殺す程の視線を受けて尚、彼は平然と言葉を(つむ)ぐ。


「俺が気付いていないとでも思っていたのか? とうに、お前がキャロルでは無い事くらい理解している。我が妹は無能であったが有害ではなかった。……お前とは違ってな?」


 端から隠し通せるとは考えていなかった。

 なのでこうなる事は予想の内だ。

 しかしこのタイミングで仕掛けて来る意味が分からない。


(わず)かに敵愾心(てきがいしん)は感じるけど……ここで事を構える気は無さそうだな)


 彼は構えてすら居らず、交戦の意思は無い。

 という事はこれはボクを試す意味合いが強いと思われる。

 ならまずは彼の意図を汲み取る為、探りを入れよう。


 その意図を推し量るべく、ボクは彼に問い掛ける。


「……それで、私を排除する、と?」


「いいや? 俺は利害が一致する相手とは手を取り合う主義だ。例えそれが悪魔であろうとも、有能であり俺にとって有用な存在ならば受け入れる。……もっとも、それはキャロルが無事ならば、という条件付きだがな?」


「それならば心配ありません。この身体は間違いなく彼女のものです。傷付けはしませんよ。用事が済めば解放します」


「ほう……? てっきり、悪魔が成り替わっていると考えていたが、悪魔に操られている方だったか。……まぁ、良い」


 多少の見当違いはあったものの、彼は仕切り直すべくボクに警告する。


「お前と手を組むのは俺の利害と一致している間だけだ。その時が来れば我が妹、キャロルを返して貰う」


 そう言い切る彼の姿に増す威圧感。

 それは武力行使も辞さないという意思表示か。

 彼程の実力者ならば確かに、悪魔に恐れを成す事など無いだろう。


 ――その覚悟に敬意を表して、ボクは彼の言い分を聞き入れた。


「此方に異論はありません。誓約でも交わしましょうか?」


「ククク……やけに殊勝だな? その言葉、努々(ゆめゆめ)忘れるなよ? 誓約は後日改めて取り交わすとしよう」


 彼はそう言い残し、用事は済んだとばかりに身を(ひるがえ)す。


(やっぱり、何だかんだ言っても兄妹だな……)


 去り行く彼の後姿を見送りながら、内心で独り()ちる。

 表では棘のある事を言いつつも、裏では心配していたのだろう。


(本当に、素直じゃないな。あの人は)


 ボクに残された時間は多くない。

 これ以上、妹想いの捻くれた兄を心配させない為にも実験は成功させる。

 どの道この研究が進まねばキャロルは戻って来ないのだ。


(取り合えず研究を滞り無く進めるにはお金が要る)


 幾らヴィター家にお金があると言っても、未知なる研究に掛かる費用は青天井だ。オリバー卿に見限られない為にも、少しでも自力で予算を負担する必要があるだろう。その為にはもう一つの計画を変更するのが得策だと考える。


(スターライト家の妨害が入った以上、ロミオとジュリエット計画はこれ以上の進展は見込めない。なら、単純なビジネスにシフトさせた方が良いか……)


 ひとまずロミオとジュリエット計画はここまでとして、後の事はグレイ・フィルターに任せよう。この先は純粋な商売として計画を引き継いで貰い、興行収入を上げる事に専念して貰った方が良い。


 ――そう考えて方針を(まと)め、次を見る。次の目標は障害の排除。


「さて、お次は名探偵を誘い出すとしようか」


 名探偵の活躍で、レオナルド卿を説得するまでの道のりが遠のいてしまった。

 その煮え湯を飲まされた雪辱(せつじょく)は必ず晴らす。

 凡才であろうとも、対策を講じれば天才に打ち勝てる。

 戦術も戦略も、その為に生み出された概念なのだから。


(個の力では戦略に敵わない。悪いが、君を相手に手段を選ぶつもりは無いよ)


 好敵手への執念を心の底で燃やしながら、設備の配置が終わった室内へと足を踏み入れ、協力者達と共に新たな実験を推し進めるのだった――


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