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【第二章完結】転生スペクトラム ~悪役令嬢の英雄譚~  作者: もふの字
第二章 変革のフィロソフィー
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第43話 魔神の伝承


 ――転生百十四日目、午後四時、ライトダンジョン第一(【ベイルロンド】)層、劇場、二階席、貴族専用観覧スペース。



 二回目のダンジョン講習も後一日で終わりを迎える。

 そして今日はルーサー卿とレイナさんの初舞台。

 以前から計画していたロミオとジュリエットが(ようや)く芽吹く。


(客入りから見て、大衆の反応は上々だな)


 ロミオとジュリエットを大衆の目に留める為に、広報宣伝にはオリバー卿の協力は勿論、アナザーゲストの協力も得て大々的に広めて来た。


 その宣伝材料として利用したのが、ビヴァリーさんが撮影したボクとルーサー卿の決闘映像。その映像をある程度編集して劇のプロモーションとして活用した。


 その映像を元にしてロミオとジュリエットは作成されたと触れ回り、劇場での初公演前から観衆の期待と関心を惹いて来た。


 お陰で話題性を得る事に成功し、ベイルロンドでは今回で四回目となる公演を行うまでの人気を獲得できた。


(後は、映像の中で登場した本人であるルーサー卿が登壇する事で更なる話題性を獲得できる……)


 正直な所ルーサー卿とレイナさんには演技の面でそれ程期待していない。

 今回の公演は飽くまで、オペラロードへ進出する為の前座だ。


(バルトフェルド侯爵の子息が舞台に、それも主役として立ったとなれば貴族達も無視はできない。戯曲(ぎきょく)の内容の事もあるし、確実にこの波紋は王都に届く)


 そうなれば革新派の貴族達が此方(こちら)の意図を察して動くはず。

 彼等に野心があるのなら、この好機を逃す選択など無いだろう。

 バルトフェルド侯爵を通じて革新派の重鎮と接触できれば、準備(・・)は整う。


 ――何の為の準備かと問われれば、それは親子の和解(・・・・・)の為に他ならない。


(レオナルド卿……貴方は強敵だ。だから、貴方と相対するのはボクの計略が成った後だ)


 そう考えている間に、観覧していた別の戯曲が幕引きを迎えた。

 舞台でお辞儀する役者達へ、観衆達からの拍手が送られる。

 ロミオとジュリエットの開演はこの二つ後。

 予定では、次は妖精さん達が舞台で劇を披露するらしい。


 ――天幕が降りる様子を見つめながら、ボクの隣に座る少女……ローズマリーは両手を合わせて瞳を輝かせた。


「次は妖精さん達の演目ですね! とても楽しみです……!」


「ええ。妖精の演劇……興味深いですね」


 天真爛漫(てんしんらんまん)で謎の多い妖精達が自主的に行う演目。

 彼等に関心を持つ一人として、その嗜好(しこう)には興味が尽きない。


 今現在ボクは、ローズマリーと共に劇場の二階にある貴族用の観覧席で劇を鑑賞中。メインの演目であるロミオとジュリエットを見る為に、日頃の感謝も込めて彼女を劇に招待した。


 劇場の構造は一階が一般の観覧席。その後ろには立ち見用のスペース。

 そして二階は貴族専用。加えて二階の中央にはVIP専用のスペースがある。


 ――と考えている間に開演を告げるブザー音。それから天幕が上がり、一人の妖精さんが光と共に現れた。


「われは、勇者(ゆーしゃ)さんっ!」


 そう名乗った妖精さんは、スポンジみたいな剣を片手に、白い上着とマントを身に付け、頭にティアラを乗せていた。


「なんか魔神(まじん)が復活するらしいので、来たのだっ……!」


 事情はよく分からないが、魔神を倒す為に勇者の妖精さんはやって来たらしい。

 そして舞台袖から、一人の妖精さんが勇者の妖精さんの元に駆け寄って来た。


「われは神官さんっ! 勇者(ゆーしゃ)さん、魔神を倒してねっ!」


「うむっ。よかろー」


「という訳でー、まずは魔神の封印(ふーいん)を、解くのだっ」


「ふぁっ!? 封印(ふーいん)を解いたら、ダメでしょっ」


「物語が始まらないので、よいのだっ」


「そーなのかー」


 魔神が復活すると聞いてやってきた勇者に魔神を復活させろという。封印したままで良いのなら復活させる必要は無いのでは? と思う物の、そこには何か()むに已まれぬ事情(台本)があるのだろう……多分。


 困惑する観衆を余所に、勇者の妖精さんは決意を新たにその申し出を了承した。


「うむっ。ではわれが魔神を復活――させる必要、無いのではっ?」


「後はよろしくねっ! われはお家で、お休みなのだっ」


「解せぬっ……」


 途中で疑問を抱いた勇者の妖精さんであったが、神官姿の妖精さんから強引に魔神復活の大役を押し付けられ、仕方なく魔神復活の旅に繰り出すのであった――




   ▼ ▼ ▼




 ――それから劇中では時が流れ、ついに魔神復活まで後一歩まで迫った勇者の妖精さん。ツッコミどころ満載な紆余曲折を経て、最後の試練に挑む。


「という訳でー、魔神復活に必要な素材が、そろったのだっ」


「うむっ! よくぞここまで、そろえたのだっ……!」


 旅を終えて必要な素材を揃えた勇者の妖精さんは、魔神を復活させる為になぜかコック姿の妖精さんに招かれて、宿屋の調理場を訪れていた。


 (ちな)みにコックの妖精さんは旅の仲間でも何でもなく、たまたま立ち寄った街で偶然出会った普通のコックさんである。


 なぜそんな普通のコックさんが魔神復活の儀式に精通しているのかは分からない。恐らく劇中で語られる事は無いだろう……


「それでは、イカレた素材たちを、紹介してねっ!」


「よいぞっ!」


 コックの妖精さんからファンキーな言い回しで(うなが)され、勇者の妖精さんは集めた素材を並べて説明し出す。


「まずは、謎の黒いお肉さんっ! お空から、降ってきたのだっ」


「なんか動いてるのだっ……」


 不気味な黒い肉の塊が(うごめ)くように動いている。

 妖精さん(いわ)く、生き物では無いらしい。


「お次は、意味不明な塊さんっ! 見た事ない物質で、できてるのだっ」


「なんか見てると、不安になるのだっ……」


 形容し(がた)い形と歪みで出来た不気味な物体。

 妖精さん曰く、この星には存在し得ない物質らしい。


「最後は、解読不能の書物さんっ! 意味不明な単語が、いっぱいなのだっ」


「なんか黒歴史を、感じるのだっ……」


 禍々(まがまが)しいオーラを放ち、見る者の古傷を(えぐ)る奇怪な書物。

 妖精さん曰く、凄まじい羞恥心(しゅうちしん)(こも)っているらしい。


 ――勇者の妖精さんによる一通りの紹介が終わり、コックの妖精さんは調理場にある大釜に身体を向けた。


「ではー、イカレた素材たちを、この大釜さんに入れてねっ……!」


「どうなるのっ?」


「魔神が復活して、飛び出てくるのだっ」


「そーなのかー!」


 よく分からないが目的である魔神が出て来ると聞いて、目を輝かせた勇者の妖精さんは素材をシャボン玉で包み込み、大釜の中へと放り込んだ。


『なんぞこれー? ……解せぬっ』


 すると大釜の中から、困惑した様子の妖精さんの声が響いて来た。

 どうやら大釜の中には(あらかじ)め、魔神役の妖精さんが待機していた模様。


 ――大釜から黒い光が(あふ)れ出し、禍々しい魔法陣が出現した時、大釜の中から悪魔のような角と羽を生やした、魔神の妖精さんが飛び出して来た。


「脱出っ!」


 魔神の妖精さんが飛び出すと同時に黒い光と魔法陣は消え去った。

 それを見たコックの妖精さんと勇者の妖精さんは、戦闘態勢へ。


「魔神が、復活したのだっ……!」


「魔神のわれらさんっ! われと、勝負してねっ……!」


 しかし魔神の妖精さんは戦闘どころではない様子。


「あんなの、要らないのだっ」


 ふくれっ面の魔神の妖精さん。

 復活するのにイカレた素材達は必要無かった模様。

 素材集めの旅とは、何だったのか……


「すまぬっ」


「許してねっ」


「よかろー」


 魔神の妖精さんからの苦情に素直に謝る二人の妖精さん。

 無事(?)に和解が成立した様子。

 魔神の討伐とは何だったのか……


 そしてコックの妖精さんから和解の印に素敵な提案が。


「仲直りの印にねっ、クレープを、作っちゃうのだっ……!」


「クレープさんっ! 楽しみなのだっ」


「美味しく作ってねっ!」


 二人の期待に応えるように、コックの妖精さんは無属性魔法で大釜を加熱し始めた。不思議な音を立てて稼働する大釜。次第にその音は小さくなって行き、最後には電子レンジみたいな音を立てて稼働を停止した。


 ――大釜の中からシャボン玉に包まれて、三人の妖精さんの元にふわふわと降りて来たのは、とても美味しそう……では無い奇怪な色をしたクレープだった。


「なんぞこれっ」


「イカレた素材たちで、作ったのだっ」


「なるほどぉ……!」


 イカレた素材で出来たイカレたクレープをシャボン玉から取り出す三人の妖精さん。普通、その説明を聞いて食欲は湧かないと思うのだが、不老不死故に人間とは感覚が違うのだろう……


「「「いただきますっ!」」」


 お行儀良く食べ物(?)に感謝して、妖精さん達は同時にイカレたクレープを吸収する。そして一斉に怪訝(けげん)な表情に変わり、同時に感想を(つぶや)いた。


「「「解せぬっ……」」」


 その味を理解できなかった様子の妖精さん達。

 予想通り不味かったのか、それとも意外と美味しかったのか……


 イカレたクレープの味はどうだったのかという謎を残して空中に現れる『fin』の文字。困惑と微笑(ほほえ)ましさに包まれた会場と共に、妖精さんによる不思議な劇は幕を閉じるのだった――


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