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【第二章完結】転生スペクトラム ~悪役令嬢の英雄譚~  作者: もふの字
第一章 英雄のフィロソフィー
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第3話 魔法のスペクトル


 ――転生三日目、午後二時、ヴィター侯爵邸、中庭。



 本日晴天。雨音の気配無し。

 透き通る青空に、心地良い気温と風景。

 (まば)らに浮かぶ白い雲は、風に流され形を変える。


 午後の予定は魔法の練習。

 中庭で実技試験に向けて対策を練らねば成らない。

 という訳で右手に意識を集中させ、魔法の発現を試みる。


 ――そして掲げた右手に現れたのは、ほんの(わず)かな(うつ)ろな(ともしび)


 それは弱々しく形を表し、そして消えた。

 キャロルの日記に記されていた通り、上手く魔法が扱えない。


(維持できずに消えてしまう。どれだけ集中しても変化無し、か)


 魔法には四つの属性がある。

 火、水、風、地……それら四属性。


 四属性には適性という物があり、自分の生まれ持つ適性にあった属性しか魔法を行使できないという。しかし極稀に全ての属性を行使できる人がいて、そういう存在は"勇者"と呼ばれるらしい。


 神の寵愛(ちょうあい)を受けて生まれて来たとされる勇者という存在。

 勇者は生まれつき四属性全てに適性があるという。

 なので生まれた時点で勇者かどうか判別できるらしい。


 ボクもキャロルも適性があるのは火属性だけであり、当然ながら勇者では無い。


(他の魔法も試してみたけど発現はしないか。……適性があるはずの火属性でこの扱い辛さ。確かに絶望したくなるな) 


 本から得た知識だと、適性のある魔法なら誰でも発現と維持が容易だという。

 しかしボクとキャロルにはそれが上手く行かない。

 火を出現させるところまでは容易である物の、その後の維持が困難だ。


(イメージすれば直ぐに火は出せるけど、何かイメージよりも火が弱々しい)


 自分の脳内にあるイメージよりも明らかに発現する火が弱い。

 恐らく脳内のイメージを具現化するプロセスに、何らかの欠陥……

 あるいは誤解がある物と思われる。


(色々本を(あさ)って見たけど、この仕組みに付いて言及している物は(ほとん)ど無かった。という事は、あまりエラーが起きないポイントのはず……)


 と成ればやる事は一つ。発想の転換だ。


(日記を見る限り、キャロルは火を維持する、あるいは炎にしようとしていた。それ以外のアプローチが必要となると……)


 基本的に、魔法の発現イメージは属性に関係する。

 ボクの火に関係するイメージは殆どが科学による物だ。


(キャロルに無くてボクに有る物と言えば科学の知識……熱線とか?)


 詳しい原理等分からないので、何となくでレーザー光線をイメージしてみた。

 空想科学なので望み薄だが、試してみる価値はあるだろう。


 ――すると、(てのひら)に発現した火が蒼色に変色した。


(これは成功……したのか?)


 それは先鋭化して長く伸び、徐々に範囲を広げて行く。

 まるでガスバーナーのように伸びるそれが、三メートルにも及んだ時――


「あっつッッ!!?」


 (てのひら)に熱を感じて直ぐ、イメージをかき消した。

 それと同時に消える熱線。

 自分の掌を見ると、そこには軽度の火傷後。


(魔法って、条件次第で使用者にもダメージが来るのか……? 本にはそんな事書いて無かったのになぁ……)


 基本的に魔法は使用者にダメージが来ないはずなのだが、どうやら例外もあるらしい。まだまだ魔法も発展途上という事だろうか。


(でもこれで実技の目処(めど)は立った。後は、火傷しないように対策だな)


 耐熱性の魔道具を用意する必要があるだろう。

 火属性の魔法を道具に付与すれば、耐熱性の魔道具が作れるはず。

 とは言えまだそんな器用な真似は出来ない。

 なので、家の倉庫から耐熱性の魔道具でも拝借しようと思う。


(とりあえず、耐熱性の手袋があると良いな)


 魔法の練習は一時中断。

 まずは自宅の倉庫へ備品漁りに(おもむ)くのだった――




   ▼ ▼ ▼




 ――午後四時、ヴィター侯爵邸、備品倉庫。



 侯爵邸はかなり広いので道に迷い易い。

 資料室で邸内の見取り図を見つけてなければ、確実に迷子になっていただろう。


(執事さんから倉庫の鍵は借りて来たし、許可も貰った)


 執事さんの居る場所が分からなかったので、何となくキッチンへ。

 執事という職業柄、パントリーや酒類貯蔵庫で見かける事が多い。

 なので近くに部屋があるのではと当たりを付けたら、見事に当たった。


(執事さんの人柄は良さそうな雰囲気だったけど、やっぱりボクとの接し方には距離があったな)


 それでも恐らくキャロルにとってはマシな方なのだろう。

 ボクとしてもそういう反応には慣れているので特に問題は無い。

 コミュ障にとっての人間関係とはそういうものだ。

 

 ――備品倉庫で適当に物色していると、丁度良さげな手袋を発見した。


 赤いルーン文字が刻まれた黒い手袋。

 魔法を道具に付与する場合、このようなルーン文字で印される。

 赤色は火属性。耐火、耐熱の効果が付与された魔道具で間違いない。


「ぴったり」


 試しに付けて見たら丁度良いサイズだった。これは僥倖(ぎょうこう)


(他にも何か無いかなー?)


 目に付いたのは一冊のファイル。

 本棚から取り出して見ると、中にはタロットカードのような物が入っていた。

 確かこれは魔法が込められた魔道具の一種であったはず。


 この世界では例外を除き魔法は一人に付き一種類の属性しか扱えない。なので、自分に適性の無い魔法を使用したい場合にはこのような"魔法カード"を利用する事になる。


 ただ、魔法カードに込められる魔法には限界があり、基本的に他者を攻撃できるような強力な魔法は込められない。なので市販で売っている物は必然的に生活で利用する程度の魔法に限られる。


(軍用とか業務用になれば、もっと強力な魔法を込められるらしいけど)


 今はそこまでの物は必要ないだろう。

 試験では魔法カードも使用可能だが、直接的な攻撃手段として使うのは禁止だ。

 なので、試験では間接的に自分の魔法をサポートする目的で使用する。


(水属性の魔法カードは……あった)


 カードに込められた魔法の効果は、冷却効果だった。

 物を冷蔵する時などに使用する一般的な生活魔法だ。


(使えそう。これを胸の内ポケットに入れとけば良いかな?)


 ファイル内にあった物を数枚取り出して懐にしまう。

 熱線を使用した時、同時にこれも発動させれば自分に来る熱を処理できるはず。

 限界はあるだろうが、数秒なら特に問題無いと思われる。


(レーザーは五秒以上持続させないようにすれば何とかなる……かな。多分)


 熱問題を解決するまでは、応急的にそれで行こう。


(よし……戻るか)


 もう一度中庭へ。手袋と魔法カードの使用感を確かめる為に、備品倉庫を後にしたのだった――


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