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青の眼差し  作者: 窪田楓
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15.

 朝食を終えたのだろうか、レアナとルナが部屋にやってきた。


「ガイ!遊んで!」


 無邪気に笑いながらルナが駆け寄ってくる。


「こ~らルナ、ガイは当番で疲れてるんだから、せめてシンラに相手にしてもらいなさい」

「いや俺だって疲れてるんだが」

「大声出せるだけの元気は残ってるんでしょう?」


 イタズラな笑みを見せるレアナ。

 さすがは美人姉妹、ルナもレアナも笑顔がよく似ている。


「はいはい分かったよ。()()水入らずで仲良くやってろ。ルナ、行こうぜ」


 ブツブツ文句を言いながらシンラはルナを連れて部屋を出ていった。


「もう、別にそんなんじゃないんだから」


 少しだけ沈黙が続いた。


「……なんかごめんね」


 レアナが口を開いた。


「どうして?」

「ほら、あの……噂のこととか」

「噂って?」


 再びの沈黙。そこでガイは自分の失態に気がついた。

 しまった。そう言えばシンラに聞いたばかりだった。


「夫婦とかなんとか」


 レアナが恥ずかしそうに答える。


「えっ、ああいいよ全然気にしてないし。そもそも僕らってそんな関係じゃないだろう」


 あわてて話を合わせたのだが、それが更に地雷を踏んでしまったらしい。

 少しだけ悲しくうつむくレアナの顔を見てガイは言葉を続ける。


「でもアレだよね。もし将来結婚するならさ、やっぱりレアナみたいな明るい人が男には人気なんだと思うんだよね」


 ぷっ、とレアナが吹き出す。


「何それ」

「いやほらその、一般的な男の理想とする女性像の話」

「ふ~ん、一般的ってことはガイもそう思ってるんだ?」


 レアナはすっかりいつもの調子を取り戻したようだ。


「僕というか、だからあくまでも一般的な話だよ」

「まあそういうことにしといてあげる」


 レアナは白い歯を見せながら笑った。

 その笑顔に一瞬ドキッとしたのはここだけの秘密だ。


16.

 部屋のドアをノックする。

 しばらくすると中から「どうぞ」という声が聞こえたのでキオは遠慮なく入っていく。


「グラスさん、少しお話してもいいですか?」

「何だ一体」


 片手で本を読みながら、こちらに一切目を向けずにその男は続けてこう言った。


「いま小説がいいシーンなんだ。できればまた今度にしてもらいたいんだか」


 キオとはふた回りほど歳が離れているだろうか。騎士団メンバー最年長であり、団長に次ぐ実力者。名前をグラスという。髭をたくわえて眼鏡をかけたグラスは鬱陶しそうにそう告げた。

 キオは彼のことがスクリュウとはまた違った理由で苦手だった。

 無愛想だし、言葉に少しトゲがあるし、図体だけはデカいくせに意外と繊細だったりする。この手のタイプと話すのは正直かなり疲れる。


「失礼なのは分かっています」

「なら出ていけ」


 グラスが片手で出ていくようジェスチャーで伝える。


「しかしどうしてもお聞きしたいことがあります」


 キオも一歩も引くつもりはなかった。


「しつこいな」

「それだけが取り柄ですから」

「しつこい女はモテないぞ」

「セクハラですか?」


 そんなやり取りが続くなか、ようやく折れたのか、グラスは本を閉じこちらをじろりと見つめた。しばらくして彼はこう言った。


「私の貴重な時間を使うんだ。それに相応しい話ならしてやらんこともない」

「グラスさんにしか頼めないことです」

「お前の事情はいい。問題なのは私がいま中断した小説よりも興味深いものであるかどうかだ」

「団長のことです」


 キオははっきりと答えた。


「……面白い」

「はい?」

「面白そうだから聞くだけ聞いてやる」

「よろしいんですか?」


 正直あのグラスが話を聞いてくれるとは思っていなかったので少し驚いた。


「で、団長がどうしたんだ?」

「団長は私が今回の任務に参加することを反対していたようなのですが、そのことについてグラスさんは何か知りませんか?」


 グラスが少しだけ眉間にしわを寄せる。


「それを知って何になるんだ?」

「私にとっては大事なことです」


 しばらく沈黙が続く。


「話してやってもいいが条件がある」

「何ですか」

「1つ。ここで私とお前が会ったことは誰にも言うな。2つ。お前の知りたいこと全てに答えてやれるわけじゃない。3つ。ここでした話は他言無用だ」

「わかりました」


 グラスがゆっくりとこちらに体を向ける。


「……たしかに団長だけはお前が今回のブルド派遣任務の参加することを反対していた。わざわざ皇帝に直談判してまでだ」


 やはり噂は本当だったのか。ならやはり相当な理由があるに違いない。


「それは何故ですか」

「それが分からない」

「分からない?」

「ああ。普段ただでさえあまり話さない人だ。それがお前の話が出るとまるで人格が変わる。その理由は私にも分からないんだ」

「それで納得しろと?」

「2つ。お前の知りたいこと全てに答えてやれるわけじゃない」


 グラスが指を2本突き立てる。


「では今回の作戦については?何故私だけがここに待機なのですか」

「それも分からない」

「分からないばかりではここに来た意味がない!」


 キオは我慢できずに思わず叫んでしまった。


「落ち着け。本当は団長に意見することすら許されないことなんだ。だがお前は私から見ても団長にかなり()()()()()()()()部類の人間だ」


 思わぬ返答に少し戸惑う。

 気に入られている?私が団長に?


「ブルドへの派遣も、今回の作戦も、全てはお前のためと考えたほうがいいだろう。少なくとも私にはそうとしか思えない」

「やはり納得できません」

「だが答えは手に入っただろ。それに納得するしないはお前の自由だ」

「グラスさんが私と同じ立場なら納得できますか」

「それは答えようがない。ただお前の気持ちは理解できるし、同時に団長が決してお前を嫌っているわけではないのも理解できる」


 どうやらここまでのようだ。


「……ありがとうございました。話は以上です」


 そう言って部屋を立ち去ろうとした瞬間、突然妙なことをグラスが尋ねてきた。


「キオ、お前はいま幸せか?」

「はい?」

「お前は幸せなのか?」


 再びグラスが尋ねる。


「はい。昔の記憶はありませんが、家族も仲間もいて、これ以上の幸せはありません」

「そうか」


 そう言うとグラスは再び持っている本へと目を向けた。


「では、失礼します」


 キオはグラスの部屋を後にした。

 幸せ?あの質問は何だったのだろう。キオは部屋からの帰り道でグラスの言葉について考えていた。しかし考えても意味はない。どちらにせよ団長について本当に知りたかった答えは手に入らなかった。

 ただ1つだけ分かったことがある。

 噂通り団長は私のブルド派遣に反対していたことだ。

 それが分かっただけでも一歩前進だろう。

 キオはそう思いながら自室へと向かった。

 ただキオは知らなかった。

 グラスがキオに対して大きな嘘をついていたことを。

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