朝
11.
掃除の次は備品整理かよー、と声を大にしてシンラが叫ぶ。
「口じゃなくて手を動かしなよ」
ガイはシンラの隣でせっせと備品を手際よく整理していく。いついかなる時に敵襲があるか分からないり
覇王と戦いにきたガイにとって、どんな些細なことも全力でやるのは当たり前だ。
「手は動かしてっけどよー、全然進まねぇんだよぉ!」
またシンラが叫んでいる。
ガイとシンラの性格は極端な話真逆だった。ガイにとっては至福の時間でもシンラにとっては地獄のようだ。
「なぁ、これが終わったらさ、何か食いに行こうぜ。腹が減って仕方がねぇよ」
時間帯はそろそろ夜明け前になろうかというところだったので、シンラの提案にのってここで一旦朝食を取ってもいいだろう。
「わかった。これが終わったらね」
そう言って2人で急いで整理を終え、食事部屋へと向かった。
食事部屋はどの船にも当然あるのだが、時間もあるので騎士団の船で食べようという話になった。
騎士団の船に入り、食事部屋へ向かう途中、1人の騎士団員が前から近づいてくるのが見えたので、ガイらは立ち止まり、サッと敬礼する。
「……スゲー。やっぱまとってるオーラが違うわオーラが」
騎士団員が去った後、小声でシンラが呟く。
「やっぱ憧れるよな~」
「僕はあんまり立場とか役職とか興味ないけどね」
「はぁ?何から何まで一般兵とは比べ物にならないくらい優遇されんだぜ?金だって困らないし最高じゃんかよ」
「僕はそういうのはいいや」
反論するシンラを冷たくあしらい食事部屋に入る。
2人が注文したのはサンドイッチ。熱々の目玉焼きとこんがり焼いたベーコン、シャキシャキのレタスをふんわりとしたパンではさみ、ケチャップをかけたものだ。シンラはメロンソーダも頼んでいた。
「うめぇ!なんでこんなにメロンソーダってやつはうまいかねぇ」
「地球の食べ物って美味しいよね」
ギャラガ帝国と地球は同盟関係にあり、宇宙貿易を通じて地球の様々な文化、娯楽、技術をギャラガ帝国は得ていた。その中でも地球食はギャラガ帝国でも大人気だった。
「いつか行ってみてぇな地球にも。それこそ騎士団になったらメロンソーダ飲み放題だろうな」
シンラが口をモグモグさせながら喋る。
「騎士団よりメロンソーダ優先なんだね」
「ったりめぇよ」
そんな会話をしながら朝を迎えた。
「食った食った」
「それじゃ自室に戻ろうか」
そう言ってガイとシンラは部屋に戻った。
12.
ブルドに到着してから初めての朝だ。
闇の惑星にも一応朝と夜の概念があるので、少しだけ外が明るくなるのが分かる。
「思ったほど闇ってわけでもないな」
ジャオが顎をさすりながら呟く。
「そうか、お前も初めてだったんだよな」
ジャオの存在に気がついたキオが声を掛ける。
ジャオはキオよりも歳上なのだが、同期で騎士団入団試験に合格したことや、その気さくな性格からため口で話すほどの仲になった。実を言えば元々ジャオは1人でいることが好きな内向的な人間だったのだが、キオとの出逢いが彼を変えた。
「俺は朝より夜のほうが好きなんだけどなぁ~」
「何でだ?戦いにはあまり向かないだろ。特にここの夜は暗すぎる」
「何でも戦い中心に考える癖やめないか?」
「だったらお前はなんで夜が好きなんだ」
「そりゃあ、星がよく見えるからだ」
ジャオが即答する。何気ない質問だったのだが、あまりにも彼に似合わないロマンチックな返答だったので思わずキオは笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ」
「いーや、何でもないよ」
そう、ジャオはこういう少し抜けてるところも良い。友人として何でも気兼ねなく話せる。
「じゃあキオは朝と夜どっちが好きなんだ?」
「そりゃ朝さ。だって夜は……」
キオは言葉に詰まった。
あれ、何で夜は苦手なんだっけ。うまく思い出せない。たしかに記憶の中にはあるはずなのに、何かが蓋をして邪魔をする。
その時に騎士団会議室の扉が開いた。
マスクをした巨体な男がのしのしと入ってきて空気が一気に重くなる。
「諸君、おはよう」
この加工音声はまだ聞き慣れない。
だが挨拶一つでここまで室内の空気を一変させる団長はさすがだ。
「今後の予定だが、今のところ奴に我々の居場所はバレていない。なので明日の朝からそれぞれが率いる部隊で散らばり、奴が潜んであろう場所を1つずつ潰していく」
「ここが手薄になることへの対策は?」
キオが尋ねる。
「あぁ。だからキオ、お前の部隊だけはここに残ってもらう」
思いもよらぬ返答にキオは唖然とした。
「待ってください。何故私だけが……」
そう言いかけたキオを制し、団長が続ける。
「お前は若いし戦闘経験も浅い。だがとても聡明だ。そういう奴が残ったほうがいい。それだけだ」
「しかし!」
「まあまあキオちゃん。団長の命令は絶対だよ」
スクリュウがキオをなだめる。
「誰か他に意見のある者は?」
団長の問いに誰も答える者はいなかった。
「では解散。各々しっかり準備を進めておけ」
そんな……。キオはその場にうなだれる。
隣のジャオが手を伸ばす。
「まぁそう落ち込むなよ。お前の分も俺らが戦ってくるからさ」
励ましてくれているのだが、今のキオにはどんな言葉も耳に入らなかった。
「ありがとう。でも大丈夫だ」
そう言って立ち上がるとキオは素早く会議室を出ていった。
「ありゃ相当こたえたね」
スクリュウがジャオに視線をやる。
「俺も正直驚きです。戦力だけなら俺の何倍も戦場で役に立つはずなのに」
ジャオもそれ以上言葉が出てこない。
「まぁ深く考えないことだよ」
スクリュウはそう言って部屋を出ていった。
ジャオもキオの後を追いかけようと思ったが、今はそれが逆効果なような気がしたので、1人会議室に残った。