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青の眼差し  作者: 窪田楓
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再会

51.

 気配を感じた方向へ飛んでいると、やがて2人の人影が見えた。

 あれは……ギャラガ帝国の服、それも騎士団だ。

 ガイは2人の頭上を通りすぎた後、方向を変えて2人の前へと降り立った。

 少しの沈黙の後、1人の少女がこう言った。


「ようやく会えたな、ガイ」


 ガイ?今この少女は僕の名前を口にしたのか。ガイは混乱した。驚いていると少女はこう続けた。


「ガイとどうしても会いたくて、会って話がしたくてここまで来たんだ」


 この少女からは戦う意志が見られない。なら本当に僕と話をしにきたのかもしれない。

 そこでゆっくりとガイは口を開いた。


「なぜ僕のことを知っている」


 少女はそれを聞き、少し悲しげな表情で尋ねてきた。


「私のこと、忘れてしまったのか?」

「本当に分からないんだ!」


 混乱のあまり大きな声を出してしまう。


「安心して、私は敵じゃない。そして私は誰よりもあなたのことを知っている」

「僕を知ってるだと?」


 ガイは怒りのこもった声で言う。生まれた時からの苦しみが、レアナを失った悲しさがこの少女に理解できるわけがない。


「どうしたんだガイ」

「黙れ!お前に僕の何が分かる。この辛さが、苦痛が、憎悪が、何故お前に分かるというんだ!」

「キオ、こりゃ本当にマズいかもしれないぞ」


 もう片方の男が武器に手をかける。

 が、それを制して少女は訴えかける。


「お願いだ信じてくれ。私はガイと話したいだけなんだ。その苦しみから救ってやれるかもしれないんだ」

「いや、誰にも僕は救えない。僕は10年前に死んだんだ。この胸に空いた穴はたとえ誰にもふさぐことはできないんだ!」


 ガイが一歩前に踏み出す。それと同時に男の方が武器を取りこちらへ向けてきた。以前見た覚えのある薙刀のような形をした武器だ。


「キオ、これ以上の話し合いは無理そうだ」

「ジャオやめるんだ!」


 少女が男を止めようとしたがもう遅かった。


「やはり最初から信用などするんじゃなかった。お前たちギャラガ帝国がこの戦争の元凶だ」


 ガイは剣を手に取った。


「待ってガイ!」


 少女がそう言った時にはもうガイは男と剣を交えていた。 


「2人ともやめるんだ!」

「ダメだキオ、こいつはもう誰の声も届かない。戦いは避けられないんだ」


 男の武器が激しくガイの剣とぶつかり合う。

 だがガイにとってはすでに一度倒した相手。勝負はすぐに決着がついた。

 力強い斬撃と共に男は吹き飛ばされ、起き上がるのに精一杯のように見えた。


「もう終わりか」


 ガイがとどめを刺そうとした時だった。横から凄まじいスピードで大剣が体に直撃した。


「やっぱり今のガイは一発殴る必要がありそうだ」


 少女が大剣を2本に分割し、攻撃態勢をとる。

 それを見てガイも独特な構えを見せる。


「リミッター解除」


 その掛け声と共に少女はさらに早いスピードでこちらへ突っ込んでくる。それはガイの反応速度と同等だった。ガイは少女の連撃をひたすら受け流しながら一瞬の隙をついて反撃しようとしたが、すんでのところでかわされてしまう。

 ガイは違和感を覚えた。

 初めてこの少女と戦った時も、彼女だけがガイの動きにかろうじてついてきていた。

 だが長い時間剣を交えているうちに、ガイは気がついた。

 違う、いくら動体視力が優れていようとも、パワードスーツのリミッターを解除しようとも、僕のこの動きについてこれるはずがない。

 ()()()()()()()()()()。この僕の剣術を。

 その動揺と焦りが大きな隙を作ったことを少女は見逃さなかった。

 2本の剣で凄まじい量の斬撃をぶつけてきた。

 少女の叫ぶ声がする。

 彼女の強い意志を感じる。

 それは勝ちたいという叫びでもなければ殺意でもなかった。

 どこまでも真っ直ぐな「救いたい」という想い。そこに嘘偽りは無かった。

 気がつけばガイは抵抗することをやめ、ひたすら彼女の剣を、想いをその体に受けていた。

 逃げてはいけないと思った。そして感じたのだ。この少女なら本当に僕のことを救ってくれるのかもしれないと。


52.

 キオは叫びながら、ただひたすらに剣をふるっていた。スーツのリミッター解除による体への負担が想像以上に大きい。

 体が痛い。だがそれ以上に、ガイの心は傷ついているんだ。

 ただその苦痛から彼を解放したかった。止まるな、剣を振るうことを諦めるな。救うんだ、私が。

 キオは2つの剣を大剣に戻し、ありったけの力を込めて剣を振り上げて叫んだ。


「目を覚ませ!ガイ!」


 そう言うと同時に大剣を振り下ろし、覇王の体はその場に倒れた。

 キオはスーツの強度を落とした。ギリギリ体はもってくれたようだ。


「大丈夫か、キオ」


 片足を引きずりながらジャオがこちらへやって来る。


「すまないが手を貸してくれ」


 ジャオから差し出された手を握り、キオは立ち上がった。キオはそのまま倒れている覇王の元へ歩いていく。そうして倒れている覇王を無理やり起き上がらせ胸ぐらを掴んだ。そのまま深呼吸をし、右手の拳に力を込めて覇王の左頬を途轍もない力で殴った。


「おいキオ、そりゃやりすぎなんじゃ……」


 思わずジャオも引いている。

 すると覇王の兜が割れ、素顔が丸出しになった。

 覇王は呆然とキオの顔を見ていたが、ハッと何かを思い出したかのように目を丸くした。


「レアナ……いや、ルナか?」

「10年ぶりだな」

「そうか、あのピンクの目はルナだったのか。だから殺せなかったんだ。殺せるわけがなかったんだ」


 そう言うと膝から崩れ落ちたガイはポロポロと涙を流し始めた。

 キオも膝を落とし、泣いているガイを力強く抱き締めた。


「ルナ、すまない。僕はレアナを救えなかった」

「いいんだ。事情は分かってる」

「新しい目的を見つけてもダメだった。ずっとずっと、レアナのことが頭にちらつくんだ。どんなに我慢しても、忘れようとしても無理なんだ。本当はあの日らレアナを殺したのは僕なんだ。無理にでも駆け出してレアナの身代わりになることだってできた。なのに足がすくんで動けなかったんだ」

「それはシンラが止めたからだ」

「違う!僕はそれを言い訳にして自分を守ったんだ。そしてそのまま、卑怯で臆病な自分のまま今日まで生きてしまった。心はとっくの昔に、10年前のあの日に死んでいるのに。この体だけは今日まで生き延びてしまった。どうか、どうかこんな僕を許してほしい」

「知ってたよ」

「え?」

「知ってた。ガイが昔からずっと苦しんでいたこと。なのに私は何も出来なかった。あの時はまだ幼くて無力で、ガイに何て言えばいいのか分からなかったんだ。ただ今なら言える。自信を持ってるこう言える」


 キオはガイの目を見つめて優しくこう言った。


「今日まで生きてくれて、本当にありがとう」


 ガイの固く閉められた心の蛇口をひねったのはキオだった。ガイの目からはとめどなく涙が溢れ、それをキオが優しく拭った。

 長い間そんな時間が続いた。そうして涙が出尽くした頃、ようやくガイは顔を上げ、キオを見てこう言った。


「ルナ、強くなったね」

「私は筋がいいんだろう?ガイがそう言ったんだ」


 それを聞き、ガイは10年ぶりの笑顔を見せた。

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