邂逅
49.
休息する場所を変えようと剣を手にした瞬間だった。何者かの強い「意志」が剣から流れ込んでくるのを感じた。ガイは剣を通じ仲間たちからの信号をキャッチする。
誰かが僕に会いたがっている?
これは……この「意志」は見覚えがある。
そうだ、僕があの時殺せなかった少女。彼女のものに違いない。どうやら攻撃するつもりはないしらしい。
だが油断するわけにはいかない。彼女も所詮はギャラガ帝国の一員。いつその意志が殺意に変わってもおかしくない。
自分を囮にした作戦だろうか?
しかしそれにしては無防備すぎる。
本当に僕に会いに来ただけなのか?
何故?
初めてあの目を見た時から感じていた感情の正体がもしかしたら掴めるかもしれない。しかし外で会うのは互いにとって危険すぎる。
覇王は剣を使い、仲間たちに伝えた。
『彼女を僕の隠れ家まで案内してくれ』
そう伝えた後だった。他の仲間からもギャラガ帝国人らしき人物を見つけたとの情報が入った。どうやらその人物は男らしい。
剣を強く握り締め、その者の「意志」を確かめる。
その男はどうやら先程の少女を探しているだけらしい。こちらも我々と敵対する意志は感じられない。
覇王は再び命じた。
『その2人を我が家へ、あの森の中へ入れてやって欲しい』
何故彼らを信用する気になったのかは分からない。ただ彼らからは純粋で優しい意志が溢れている。その心に嘘はない。ならば、ならば僕も歩み寄ってみよう。もしかしたらこの戦いを終わらせるきっかけになるかもしれない。
ガイはマントを翼に変え、凄まじいスピードで隠れ家へと向かった。
ここからあの場所までは少し距離があるため急いで飛んでいく。
やがて大きな岩壁を抜けた先にいつもの森が見えてきた。どうやら中で戦いは起こっていない。彼らを信じて正解だったようだ。
大きな翼をマントに戻し、洞穴の前に着地する。
「来たぞ!」
辺りを見回すと人の気配はない。
洞穴や近くの林の中も見たがどこにも彼らの姿はなかった。
一対どこへ消えた。
すると仲間の一匹が近くにやって来た。
「どうした」
剣に手をやり仲間の思考を読み取る。
どうやらガイが到着する数十分前に、後からきた男が少女を抱いてこの場から去っていったらしい。
何が起こったのかは分からないが、少しだけ嫌な予感がする。
ガイは剣を握り、ブルド中の仲間にこう伝えた。
『直感だが何か悪いことが起きようとしている。みんなはできるだけ隠れて争いは避けて欲しい。もし僕に何かあっても、絶対に出てきちゃダメだ。これはみんなを守るための彼との約束なんだ』
剣から手を離し、ガイは大きく翼を広げて上空へと飛び立った。数十分程度ならまだそんなに遠くへは行っていないはずだ。
ガイは剣を使い「人の意志」を感じ取ろうとしていた。
前覇王ほどではないが、ガイも少しはこの「力」を使いこなすことができるようになってきたため、感じ取った意志から仲間や人の居場所を特定できるようになっていた。
……ここから西に少しだけ人の気配を感じる。2人……いや、3人か?
ガイは翼を羽ばたかせてその方角へと向かった。
50.
「おい、お~い起きろキオ」
せっかく眠りについたかと思えば、早速誰かに叩き起こされたためキオはその相手をじろりと睨んだ。
だがそれは思わぬ人物だった。
「なんでジャオがここにいる」
驚きを隠せず、安眠を邪魔されたことなどすっかりどうでもよくなった。
「お前を追いかけて来たんだよ」
「私はあの後すぐにモービルで出発したはずだ」
「そうだよバカ。おかげでこっちはブルド中探すはめになった」
キオはハァとため息をつく。
「お前は本当にデリカシーに欠ける奴だな。あれだけのことをしておいて一緒に旅などできるか。それにこれは私と覇王の問題なんだ。お前を巻き込むつもりはない」
「何言ってるんだ!」
ジャオの怒った顔を初めて見たので思わず黙ってしまう。
「俺がどれだけお前のことを心配したか……。過保護だっていい。別に振られたっていい。そんなことは二の次だ。オレハお前が大切なんだよ!」
キオはただ聞き続けるしかなかった。
「それにな、俺はもうとっくに巻き込まれてるんだ。お前が最初に俺に言ったんだ。俺を退屈な日常から連れ出してやるって、お前も一緒に騎士団になろうって。キオがそう言ったんだろうが!」
そう言い終えるとスッキリしたのかいつもの表情に戻りこう続けた。
「だからもう二度と、俺を放っていくなんてことはやめてくれ。お前を失いたくないんだ。ただお前が生きていて、その側にいられたらそれで良いんだ」
「……悪かった」
まさかここまでジャオの奴を苦しめていたとは。さすがのキオも今回ばかりは反省した。
「分かればいいんだ。お嬢様」
そう言ってキオの髪をくしゃくしゃとする。
「何をする」
「寝癖を整えてやったんだよ。とにかく一旦ここから離れよう。覇王と話すチャンスは別に今なけじゃないだろ。帰って2人でゆっくり考えようぜ」
ジャオに連れられ洞穴から出たが、相変わらず覇王の姿はない。
もしかしたら今は都合が悪いのかもしれない。それにこれ以上ジャオを心配させるわけにもいかない。
「分かった。一旦引き返そう」
「俺のモービルが近くに停めてあるからそこに行こう」
言われるがままキオは森を抜け出し、外に出てモービルへと歩み始めた。ジャオのモービルに向かう途中、キオは気になっていたことを尋ねた。
「しかしジャオ、お前どうして私がここにいると分かったんだ?」
「ああ、それなんだけどな、ここに来る途中で魔獣に会っちまって、それがなかなか手強そうでよ。もうダメかと思って武器を置いてひたすらお前のことを想ったわけよ。"神様どうかキオに会わせてください"ってな」
「意外と腰抜けなんだな」
「そこは触れなくていい。で、その後何が起きたと思う?なんとビックリその魔獣は俺を襲うことなく突然別の方向へ歩き出したんだよ。それが俺にはついてこいって言ってるように見えたんだ」
キオはハッとする。まさに隠れ家に連れてこられた私の時とそっくりじゃないか。キオはジャオひ自分も全く同じような体験をしたことを話した。
「へぇ、偶然ってあるもんなんだな」
偶然?偶然にしては出来すぎというか、まるで2人と同じ人物に導かれたとしか思えないが……。
キオがそう考えている時だった。
2人の上空を何かが勢いよく飛んでいき、やがて方向付け転換しながらこちらへと向かってくるではないか。
「なぁ、あれマズいんじゃないか?」
ジャオが弱々しい声を出す。
だがキオは違った。
間違いない、見間違えるものか。
あれは覇王だ。やはり私たちを導いたのは覇王だったんだ。
キオはその場に立ち止まり、その黒い影がゆっくりと目の前に降り立ってくるのを待った。
しばらく沈黙が流れた後、キオが口を開いた。
「ようやく会えたな、ガイ」