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青の眼差し  作者: 窪田楓
22/28

治療室

43.

 目が覚めると、目に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。

 ここは治療室だろうか。

 ガイは自分の体を見る。いくつもの点滴、お腹に大きな包帯が巻かれていた。痛みを押さえながらゆっくりと立ち上がり、治療室の外へ出ようとしたが、足枷のようなものが足首にはめられていた。

 何故だ?

 最初は何故自分が拘束されているのか思い出すことができなかった。ガイは仕方なくベッドに戻った。

 一体何があったんだ。ガイは頭を抱える。だが思い出せない。

 あの時、魔獣たちを皆殺しにして、それから……それから覇王がやってきたんだ。そうだ、その後団長が来て覇王と勝負した。

 ガイにあるのはそこまでの記憶だった。

 その後何が起きたのか思い出せない。確かなのは自分がその記憶を封じ込めようとしていること。本能がそれを思い出すことを止めようとしていること。それだけは分かっていた。

 そして自分が拘束されているということ。そこから導き出される答えは1だった。

 僕が何かしたんだ。

 僕が何かとんでもないことを、恐ろしいことをした。そうすればこの状況の説明がつく。

 そんな時、ふとベッドの枕元を見るとレアナの耳飾りが置かれていた。

 ガイはその瞬間全てを思い出した。

 強い悲しみがガイを襲った。涙が溢れ出てくる。泣き叫びながら何度も何度もレアナの名前を呼んだ。だが呼べば呼ぶほど心は悲しみで溢れていった。レアナを想えば想うほど、残酷にもレアナとの思い出ばかりが頭に浮かんできた。

 初めて知り合った日のこと。

 養成所で共に学び合ったこと。

 時折見せる白い歯と楽しそうな笑顔。

 誕生日に耳飾りをあげた時、とても喜んでくれたこと。

 その時に見せた顔は他人に向けるものとは違う特別な笑顔であったこと。

 まだまだ君といたかった。

 まだまだ君と話したかった。

 まだまだ君の側にいたかった。

 そして、君に「好きだ」と言いたかった。

 だが、それはもう叶わない。

 悲しみが怒りに変わっていくのを感じる。ベッドの上で仰け反りながら声にならない声をあげる。耳飾りを強く握りながらガイは叫び続けた。体の痛みなど忘れてしまうほどに。

 やがて涙も枯れ果てたガイは立ち上がり、頭上にある監視カメラらしきものを見ながら言った。


「見てるんでしょう?」


 返事はない。ガイはカメラに向かって続ける。


「もし見てるのなら来てください。直接話がしたい」


 しばらくすると、真っ白だった壁の一面が透明になった。

 壁の向こうにいたのは部隊長だった。


「団長は?」

「団長が来れば君は冷静でいられるかい?」

「いられるわけがない」

「だから僕が来た」

「何故レアナが死ななければいけなかったんですか」

「仕方なかったんだよ」

「あなたたちはレアナを撃った」

「違うガイ。あれは覇王を狙ったんだ。彼女はその巻き添えになった。誰にも止められることはできなかったんだ」

「違う!レアナは殺されたんだ。あの場にいた全員に!」


 ガイが壁を叩きながら叫ぶ。


「……だとしても結果的に覇王は死んだ。もうこれ以上仲間内で争う必要はない」

「まだです」

「まだとは?」

 

 部隊長が聞き返す。


「まだ殺し足りない」

「いいかガイ、復讐心に囚われるな。それ以上踏み込めばもう戻れなくなるぞ」

「とっくに僕は一線を越えました。もう止められない」

「……君は怪物になってしまった」

「本当の怪物はあなたたちの心の中にいます。それを全部殺すまで僕は止まらない」

「そんなことをして何が残る?虚しさだけだ」

「そんなことは分かってます」

「じゃあ何故!」

「レアナはもう戻ってこない」


 部隊長はガイの怒りのこもった声に黙り込むしかなかった。


「彼女のいない人生に意味はない。あの時死んだのはレアナだけじゃない。僕という人間も死んだんです」

「……分かった。本日をもって君を僕の部隊から除名する。ギャラガ帝国に戻った後、然るべき処罰を下す」


 残念だ、部隊長は静かにそう言い残しその場を去った。

 ガイはベッドに座り込んだ。ガイにとっては覇王の死も、除名処分もどうでもよかった。ガイにとっての希望は、心の癒しはもう戻ってこない。


「レアナ……」


 小さな声でそう呟きながら耳飾りをポケットにしまった。それから横になり、少しだけ眠ろうとした。だがレアナの死はガイに二度と安らぎを与えてくれることはなかった。

 

 ……どれほど時間が経っただろうか。少し前から誰かの視線を感じる。


「誰かいるんですか?」


 ガイが問い掛ける。

 しばらくして真っ白な壁が透明になり、1人の男が姿を現した。


「俺だよ」


 視線の主はシンラだった。頬に手当てされたようなあとがある。ガイはちらりとシンラの方を見ると、再び天井を見つめた。


「なんだシンラか」

「体の調子はどうだ」

「そんなことは心配で来たのかい」

「心配に決まってる」

「僕を刺したのはシンラだろ」

「ガイを止める為だ。だから致命傷にならない場所を刺した」


 しばらく重たい空気が流れる。


「何故あんなことをしたんだ」


 先に喋ったのはシンラだった。


「それはこっちの台詞だよ」

「どういう意味だ」

「何故僕に銃を向けた」

「お前を死なせたくなかった。あのままレアナの元へ行けばガイも巻き込まれていた」

「僕はそれでも良かった」


 ガイが静かな声で答える。


「レアナが死ぬくらいなら、僕が死んだ方が良かった」


 シンラは何も言わなかった。


「今の僕はもう自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からないんだ」

「まだやり直せる。処罰を少しでも軽くしてもらえるように俺が団長に頼んでくる」

「今さら親友面するのはやめてくれ!」


 ガイは声をあらげた。


「生きていれば辛いことや悲しいことがあるのは知ってる。今まで散々経験してきたからね。でもシンラ、この世で一番辛いことは()()()()()()()()()()()()ことだよ。僕はもう自分が何の為に生きているのか分からないんだ。覇王もレアナもない世界で、僕は何の為に生きてゆけばいい。答えてくれよシンラ」

「それは……」

「答えてくれ!」


 ガイドの目から涙が一滴こぼれ落ちた。それを見たシンラは何も言い返すことができなかった。


「答えることができないなら帰ってくれ」

「ガイ、これが別れになるなんて俺は嫌だ」

「いいんだ。僕はもう死んだ」

「そんなことは……」

「だからもう放っておいてくれ。そして忘れてほしい。最初からガイなんて男は存在しなかったんだ。それでいいんだ」

「嫌だガイ!ガイ!」


 だがそれ以上、ガイがシンラと言葉を交わすことはなかった。

 シンラは呆然と天井を見上げるガイに目をやった後、治療室を去っていった。


 一体どこで間違えてしまったのだろう。

 治療室からの帰り道、シンラは1人でずっと考えていた。

 レアナはもちろん大切な友人だった。だがあの状況で覇王を倒すこと以上に優先すべきことなどなかった。それにボロボロの体のガイをレアナの元へ向かわせることも親友として見過ごすわけにはいかなかった。

 だがガイは壊れてしまった。

 魂が抜けた人形のようになってしまった。

 それは死人と何が違うのだろう。

 ガイの言葉が頭の中にこだまする。この世で最も辛いことは目的もなくただ生かされ続けることだと。

 そうか。

 シンラはハッと気がついた。俺はガイを助けたんじゃない、()()()()()()()()んだ。

 親友だがら、仲間だがら、そんな聞こえのいい言葉を並べて、ガイを守ったつもりでいた。

 だがそれは違ったんだ。本当にガイのことを思うのなら殺すべきだったんだ。

 散々「子持ち夫婦」だのはやし立てておいて、俺はガイのレアナに対する気持ちを踏みにじったんだ。

 ガイは殺すべきだった。だけどそれはもう叶わない。

 ガイはもう()()になってしまったのだから。

 シンラは自室に戻るとその場に倒れ込み、必死になって叫んだ。その行為に意味などない。ただ叫ぶこと以外に今のシンラは何をすればいいか分からなかった。

 叫ぶ度に喉が痛む。ガイに斬られた頬がズキズキとする。だがシンラは叫ぶことをやめなかった。それがシンラにとっての、レアナとガイに対するせめてもの贖罪だった。

 この痛みを忘れるな。これを忘れてしまったら、きっと俺自身も死人になってしまう。

 生き続けなければ。

 シンラは誓った。たとえどんな痛みや苦しみが自分を襲おうと、逃げずに向き合わなければ。ガイは心の中でそう誓いながら振り絞った全ての力で叫び続けた。

 その時だった。


「シンラ大丈夫?」


 聞き覚えのある声がする。

 顔を上げるとそこに立っていたのはルナだった。


「シンラ泣いてたの?」


 ルナが部屋に入ってきてシンラを心配そうに見つめる。

 シンラは涙をに濡れた目をこすりながらルナの頭を撫でる。


「大丈夫。ちょっと傷が傷んだだけだ」

「そっか!泣いてたんじゃなかったんだね」

「おう、俺が泣くわけねぇだろ」


 再び強くルナの頭を撫でる。


「良かった~。お姉ちゃんとガイが戻ってきたらまたみんなで遊ぼうね」


 その言葉を聞いて、シンラは何と答えればいいのか分からなかった。

 まだ7歳の少女に、姉の死とガイのことをどう話せばよいかシンラには分からなかった。

 再び涙がこみ上がってくる。シンラは顔を見られまいとルナをギュッと抱き締めた。


「何?シンラどうしたの」

「何でも……何でもないんだ」


 ダメだ、涙が止まらない。


「シンラ、やっぱり泣いてるの?」

「違う。これはな……これは嬉し涙だ。ルナが来てくれて俺は嬉しいんだ」


 するとルナもギュッとシンラを抱き締めてきた。


「うん。ルナもね、シンラが帰ってきてくれて嬉しいよ」


 言い訳にしてはめちゃくちゃだが、ルナは納得してくれたようだ。

 そう、生き続けなければ。

 先程の誓いを思い出す。

 まだ俺にはルナがいる。この子を守らなければ。レアナとガイのことを知ればルナもどうなってしまうか分からない。

 それだけは避けなければ。たとえどんな手を使っても、ルナだけは、この腕の中にいる小さな女の子だけは何が何でも守らなければ、

 シンラとルナはしばらくそのまま抱き合っていた。

 気がつけば、ルナはそのままシンラの腕の中で眠ってしまったようだった。シンラはルナを起こさないようにゆっくりと自分のベッドの上に寝かせた。

 そのままシンラは部隊長の元へ向かうことにした。自分の決断を、ガイと話したことを、ルナのことを、全て報告するつもりだった。

 自室から出て部隊長の元へ向かう途中、2人の兵士とすれ違った。やけに挙動不審な動きをしているので怪しいなと思いつつも、今は急いでいるのでそのまま部隊長の元へ向かうことを優先した。

 その時アナウンスが入った。


『索敵レーダーに反応あり。多数の魔獣が拠点へと向かってきます』


 マズい。ついに拠点の場所が魔獣たちにバレてしまったのか。

 ガイは猛スピードでスーツに着替えようと自室へと戻った。すると先程までベッドにいたはずのルナの姿が消えていたのだ。

 慌てて廊下へと飛び出し、ルナの名前を呼ぶ。

 だが返事はない。

 再びアナウンスが入る。


『各部隊は直ちに迎撃態勢に入ってください』


 どうする。ルナの行方も心配だ。

 だが今は兵士としてやるべきとこをやらなくては。


「装着」


 シンラはスーツに着替えて拠点の外へと飛び出した。

 外ではすでに多くの兵士たちが魔獣の大群と交戦していた。シンラもパワードスーツの強度を上げ、その中に突っ込んでいった。

 シンラはその自慢の巨体とパワーを活かし、小型から大型の魔獣を次々と仲間と共に倒していった。

 だが魔獣たちは次から次へとやって来て、数が減ることはなかった。次第に兵士たちは疲労し、殺され始める者も多数でてきた。

 シンラはこのことに少し違和を感じた。

 覇王を殺されたことに怒っているのか。

 まるで死など恐れていないかのように兵士たちに突っ込んでくる魔獣もいる。明らかに自殺行為だ。


「そんなに俺たちが憎いのかよ」


 そう言いながら剣を振るっている兵士もいたが、シンラの考えては違っていた。

 彼らはあえて騒ぎを大きくしているように見えたのだ。まるで真の目的は別にあるかのように。

 すると次の瞬間、凄まじい音が戦場に鳴り響いた。

 一般兵らが乗ってきた宇宙開発の一部に何かぶつかったのだろうか、小さな穴が空いてる。


「何だ」


 シンラが宇宙船に目をやると、再び大きな衝撃音と共に黒い小さな塊が騎士団らが乗る大型宇宙船の装甲を突き破り中へ入っていった。

 あの塊は何だったんだ。

 そう考える暇もなく、魔獣たちは次々と兵士たちを殺していく。このままではいずれ負ける。

 そう思った時、今度は大型宇宙船から黒い塊が空へと飛び立っていくのが見えた。

 シンラは目を疑った。

 あの塊は覇王だ。だがシンラがそれよりも驚いたのは、その覇王に掴まっている1人の少年だった。


「ガイ!」


 そう、覇王がガイを連れ空高く飛んでいったのだ。


「待てガイ!どこへ行くんだ!」


 シンラの声も届かぬほど高く舞い上がったガイの青く光る目が地上を見下ろしている。

 シンラだけではない、そこにいる全ての兵士が、魔獣たちが空を見上げていた。


「待つんだ、戻ってこいガイ!」


 とうにシンラの声は届かぬほどに高く飛び上がった覇王とガイは、そのまま暗い空の中へと消えていった。

 それを見届けると同時に魔獣たちが一斉に雄叫びを上げた。

 なるほど、最初からこれが狙いだったのか。この奇襲はあくまでもガイを連れ去るタメの陽動作戦だったわけだ。

 シンラは魔獣たちを次々となぎ倒しながら消えてゆくガイを目で追おうとするが、やがて完全にガイの姿は見えなくなった。

 そんな時アナウンスが入った。


『地上に出ている兵士は大至急自分の部隊の船に戻れ。これは団長命令である』


 そのアナウンスを聞き、かろうじて生き残っていた兵士たちが船内へと帰っていく。

 シンラもその痕につづいた。すると途中で部隊長に会った。


「部隊長、これはどういうことです」

「君はシンラだね。僕にもよく分からないがどうやら撤退命令が出たようだ」

「ガイはどうなるんです」

「どうもこうも、覇王が生きていたとなると話はベツダ。被害が予想以上に大きい。一度帝国に戻り体勢を立て直すことの方が重要だ。君も早く船へ!」

「分かりました」


 シンラは頷くと、そのまま船内へと入っていった。


『これより船はブルドを離れ、帝国に戻る。全員自室にて待機するように』


 アナウンスが流れたので急いで自室へと向かう。

 その時に思い出す。

 ルナがいないままだ。


「ルナ!ルナ!」


 名前を叫びながらルナを探すがルナは一向に見つからない。


「なぁ、これくらいの小さな女の子を見なかったか」


 自室へと戻っていく兵士たちにルナのことをたずねる。


「うるさい。今それどころじゃないだろ。お前も自室に戻れ」


 そう言われるがシンラは船内を必死で探し回った。レアナの部屋も覗いたがいない。


「ルナ!どこだ、どこにいるんだ!」


 もう全ての部屋は覗いたはずだ。だがルナの姿は見当たらなかった。

 船がゴゴゴと船体を揺らしながら離陸し始めた。

 ルナ……俺はお前まで失ってしまうのか。

 シンラはその場に立ち尽くし、動くことができなかった。


『強い衝撃にご注意ください』


 そのアナウンスから数秒後、船体が激しく揺れ、シンラは壁に頭をぶつけて気を失った。


44.

「それで?」

「そこまでだよ」

「そこまでというのは」

「そこまでが、俺から話せる10年前の全てだ」


 話があまりにも唐突に終わってしまったので、キオは何と言えばいいか分からなかった。


「……それだけですか?治療室の監視カメラには何か映っていなかったんですか?」

「それがどうやら覇王に壊れてしまって何も記録が残っていなかった」


 シンラが落ち着いた口調で答える。


「シンラは……団長はそれだけでガイを裏切り者だと思うんですか」

「あそこで何のやり取りがあったのかは分からない。だがガイが俺たちよりも覇王を選んだのは事実だ。それにお前も見ただろう。さっきお前たちを襲ったのはガイだ」


 キオは数秒黙った後、次の質問をぶつける。


「分かりました。それで結局私はどうなったんですか」

「それについては私が話そう」


 グラスが口を開いた。


「あの後、ブルドからギャラガ帝国に向かう途中と1人の兵士がとある少女を抱いたまま私の部屋へとやって来た。聞けば動力制御室の奥で倒れていたんだとか。その後治療室に運び込んで状態を見たが特に病気や怪我などはなく、少女はすぐに目を覚ました。だがな、可哀想にその少女は自分の名前も自分が何故そこにいるのかも、生まれてきたときからの記憶全てを失くしていた」

「それが私ですか」

「そうだ。そんな中唯一お前が覚えていた言葉がある。それが"キオ"だ。だから船内をではお前のことをキオと呼ぶことにし、ギャラガ帝国まで連れ帰った。その後シンラがキオの知り合いだと分かったが、記憶の件を知りどうすべきか迷っていた。シンラと一緒に暮らすか、孤児院に預けるか。だが記憶がもどった時、お前がその重みに耐えられるのか。私もシンラもそれだけが心配だった。だったらいっそのこと、新しい家族の元で暮らした方がお前の為だろうということであの家族に預けることになった」

「だが問題が起きた」


 シンラが口を挟んだ。


「私が養成所に入ったことですね」

「そうだ。その時騎士団メンバーになっていた俺は本当に驚いた。これが運命というやつなのか。神様がいるなら何故こんな残酷なことをするのかと恨んだ」

「だから私を10年前のことから少しでも遠ざけるために、授業の内容から10年前のブルドの出来事を消したんですね」

「ああ。後はルナの想像通りだ。今回のブルド派遣に反対したのも、作戦からお前を外したのも、全てはお前を守る為だった。何と言われようと俺はかまわない。たとえ団長の立場を利用してでもお前をこれ以上苦しめたくなかったです」


 長い話が終わり、静寂が辺りを包んだ。

 その静寂を破ったのは他ならぬキオだった。


「……ありがとうございます」

「え?」


 シンラが聞き返す。


「何も感謝されるようなことはしていない。結果的にお前は真実を知ってしまったし、その過程で苦しんだはずだ。それなのに何故責めない」

「いえ、知りたいことは知れました。謎はまだ残っていますが、それでも私はこの惑星に来ることができて良かった」


 安堵したのか陽気な口調でシンラが答えた。


「正直、1発くらいは殴られると思ってたんだがな」


 キオは笑いながら答える。


「殴らなくちゃいけない男は別にいます」

「おいキオ、お前まさか」


 グラスが全てを言いきる前にキオがその続きを言った。


「ガイを、()()()をぶん殴りに行きます」

「ダメだ危険すぎる!」


 キオは再び剣を3人に向ける。全員が黙ってキオの顔を見つめていた。


「私はこれまでたくさんの人に守られてきた。でもそれじゃ嫌なんです。それにきっとこの物語に決着をつけられるとしたら私しかいない」


 キオは武器を下ろし団長室の扉を開けた。


「今までありがとうシンラ。でもここからは私は1人でやらせてほしい」


 そう言うとキオは扉を閉めた。


「いいんですか団長」


 スクリュウが尋ねる。


「よくはないが、それでも仕方のないことだ。それに……」

「それに?」

「あいつなら救えるかもしれない。10年前に()()()俺の親友を」


 自室に戻るとジャオが扉の前に立っていた。


「何してるんだ」


 キオが声を掛けるとようやくこちらに気づいた。


「何ってお前が団長室に殴り込んだって聞いたから心配で……」


 そういうジャオの腹をカルチャーパンチする。


「いったぁ!」

「心配されるのはどっちだ。病人は静かに寝てろ」


 いつも通りのキオに安心したのか、ジャオはいつもの調子で答えた。


「怪我はもう大丈夫だ。それよりキオ、団長室で何があったのか教えてくれよ」


 そう言って部屋に入ろうとするジャオを今度は本気で殴る。


「何お前はナチュラルに女性の部屋に入ろうとしてるんだ」

「いや、だって前は入れてくれたじゃんか」

「入っていいかどうかぐらいちゃんと聞け」

「分かったよ。入れてくださいお願いします」


 そう言われてしぶじぶジャオを部屋に入れる。


「で、何から聞きたい?」

「そりゃ全部だよ。お前が知ったこと全部。隠し事はなしだぜ」


 ジャオは真剣な表情で答えた。


「分かった。まず1つ、私はキオじゃない」

「は?」

「2つ、覇王は私の知り合いだ」

「え、ちょっ」

「3つ、私と団長は昔からの特別な関係だ」

「な!」

「4つ、お前をデリカシー欠如罪で処刑することになった」

「処刑?」


 ジャオは青ざめた顔で答えた。

 数秒経って我慢ができなくなったキオが笑い出す。


「本当にお前はからかいやすいな」

「じゃあ処刑ってのは?」

「もちろん嘘だ」

「なんだよマジで、あんまり笑えない嘘はやめてくれよな。団長と特別な関係とか」

「いや、最初の3つは本当だ」


 それを聞いてジャオが立ち上がる。


「ホ、ホントに?」

「ああ」

「……そうか。なんだそうだったのか」


 ジャオの表情から元気がなくなっていく。


「お前が何を勘違いしてるか知らないが、特別な関係というのは別にやましいことじゃないぞ」

「じゃあどういう意味なんだよ」

「本当にそのままの意味だ。幼い頃からの知り合いだっただけだよ」


 ジャオの顔が明るくなる。


「なんだそういうことか。アレな、幼なじみ的なアレだったわけだな。全く誤解するような言いすんじゃないよ」


 気持ち悪い笑顔でニコニコしているジャオにキオは若干引きつつあった。


「で、1つ目のキオじゃないってのは?」

「ああ、私の本名はルナという。それだけだ」

「2つ目は?覇王の知り合いだったってのは?」

「本当だ。お前を襲ったのは現覇王。昔とは恐らく別人だ。そして私の大切な友人でもある」


 今この女はとんでもないことを言っているなという表情でジャオがうんうんと頷いている。


「で、私は今からそいつをぶん殴りに行ってくる」

「なにぃ?」

「というわけだ。準備をするから出ていってくれ」


 そう言ってジャオを部屋から追い出そうとする。


「いやいや、キオお前ちょっと待てって」

「何だ、お前も殴ってほしいのか?」

「いやもう2発殴られてる。ってそうじゃなくてな、お前自分が何言ってるのか分かってんのか?」


 こいつもノリツッコミができるようになったんだなとジャオの成長を感じた。


「ああ、私1人でガイを……覇王の元へ行ってくる」

「危険すぎる!」

「大丈夫。知り合いだと言ったろ」

「お前地球にある映画って知ってるか?」

「当然。私は映画の大ファンだ」

「じゃあホラー映画も知ってるだろ?あれは最初に先走った奴らから殺されていくんだよ」

「いや違う。アレはバカなカップルから狙われるんだ」

「どっちだっていい。とにかく1人で外に出すわけにはいかない」


 お互いどんどんムキになっていく。


「お前は私の親か?行って殴って、少し話して帰ってくるだけだ。過保護すぎるぞ」

「過保護でけっこう。お前が殺されるよりかはマシだ」

「何でそこまで止めようとするんだ!」

「お前が好きだからだよ!」


 予想外の答えにキオは自分の耳を疑った。


「今何て?」

「お前が、キオが好きだからだ」


 ジャオが顔を真っ赤にしながら答えた。


「それは告白か?」

「どう受け取ってもらってもいい。とにかく、お前が行くなら俺も行く」

「でもアレだぞ、ホラー映画ではバカなカップルから殺されるんだぞ」

「それは俺がバカだって言いたいわけか」

「いや、そういうわけじゃ……」


 そう言ったところでジャオがキオの体を引き寄せて抱き締めた。


「もう嫌なんだよ。これ以上お前から離れたくないんだ。今ここでお前を行かせたらきっと俺は一生後悔する」


 ジャオのいつになく真剣な言葉に、態度に、何よりもその温かな両腕に、キオはようやく折れた。


「分かったよ。オッケーだ」

「付き合ってくれるのか!?」


 ジャオの頭をポカンと叩く。


「違うバカ。一緒に覇王の元へ行くという話だ」

「ああ……ああ、そうか良かった」


 そう言うとキオの体を離し、急にその場に座り込んだ。


「どうした」


 キオが尋ねる。


「すまん、さっき聞いたことは忘れてくれ」

「好きだから、というやつか」

「繰り返さなくいい!」


 キオはベッドに座りながらジャオに語り掛ける。


「でも嬉しかったよ」

「え?」

「お前がそんなに私のことを想ってくれてるとは思わなかった。ありがとう」


 それを聞くとジャオはサッと立ち上がり、部屋の扉を開けた。


「今から俺も準備してくる。だから絶対に1人で行くんじゃないぞ」

「ああ、分かってるよ」


 ジャオはキオの言葉を聞き終えると、走って自室へも向かっていった。

 キオはそれを見届けると、ゆっくりパワードスーツを身につけた。


『好きだからだよ!』


 大切な友人の言葉。

 どこまでも真剣な言葉。

 心の底から心配してくれることが伝わる言葉。


「ありがとう」


 その気持ちだけで十分だ。

 キオは武器と食糧、その他いくつかの道具をバックに入れ、1人でモービルに乗り込み外へと出発した。

 その後を、1人の人物がゆっくりと追いかけていった。


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