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青の眼差し  作者: 窪田楓
21/28

悲劇と反逆

41.

 それは正に、ギャラガ帝国騎士団長とブルドの支配者、2つを代表する者同士らしい凄まじい戦いだった。互いが一歩も引かず、命を削りながら武器をぶつけ合っている。そこに誰かが介入する隙は微塵もなかった。

 団長の巨大なハンマーが覇王の体に直撃する。だが覇王はそれを受け止めると、剣に何かエネルギーのようなものを溜め、放出すると同時に団長に向かって斬り込んだ。

 衝撃波が周りの兵士を襲う。あまりの強風に立つことさえままならない。

 少しでも相手に隙を見せた方が負ける。誰も立ち入ることができないその戦いは正々堂々戦うという意味では公平で、だが同時に卑怯な手を使うにはあまりにも不公平であった。

 先に動いたのはギャラガ帝国だった。

 1人の兵士が気づかれないように覇王の後ろへ回り込み、レーザー銃を手に覇王を狙っている。だが誰もそのことは口にしない。当然だ。これで覇王を倒せば全てが終わるのだ。はなから帝国側は1対1の真剣勝負をする気などなかったのだ。

 当然ガイもそれでいいと思っていた。自分の体はとうに限界を迎えていたし、これで覇王を倒せば無事に帝国に戻れるのだ。

 だが1つだけ気になっていることがあった。


『覇王は殺さないで』


 先程のレアナの発言である。一体あれはどういう意味なのか。想像もつかないこととは、変えようのない未来とは何のことなのか。

 そう考えているうちに、覇王の背後に回った兵士が右手を上げる。いつでも撃てるという合図だ。

 大丈夫。これで終わる。レアナも長旅で疲れているのだろう。覇王をタオルきっと元の何気ない日常が戻ってくる。

 そう信じて、ガイは銃が発射されるのを待った。


「ダメ!逃げて!」


 突然の叫び声と共に1人の兵士が飛び出した。

 レアナだ。

 慌てて兵士は発射したが、覇王はレアナの声を聞いて銃を跳ね返した。

 だがその時団長のハンマーが覇王に強烈な一撃を食らわせた。団長にとっては隙ができればそれがどんなきっかけであろうとよかったのだろう。

 魔獣は怒り、団長の元へと突進してした。だが魔獣に対してもしっかりと帝国は対策をしていた。


「放射熱光線、充電完了」

「よし、撃て」


 団長の声と共にモービルから光線が放たれ、魔獣の全身を包み込み焼き尽くす。あまりの威力と眩しさに兵士たちは恐怖した。

 だがガイはそれどころではなかった。


「レアナ!」


 団長のハンマーに投げ飛ばされた覇王の元へ駆け寄るレアナに向かってガイも飛び出そうとする。

 が、複数の兵士に抑えつけられてしまう。


「レアナ!レアナ!」


 レアナを呼ぶが、彼女は覇王の元から離れようとしない。必死に覇王に何かを訴えかけている。


「レアナ!戻ってくるんだ!」


 ガイがいくら呼んでもレアナはその場を動かなかった。

 そんな時、団長が再び命令を下した。


「放射熱光線の充電を開始しろ」

「了解」


 まさか。団長はレアナごと覇王を殺すつもりなのか。


「レアナァ!」


 数人の兵士をな蹴飛ばし、レアナの元へ向かおうとするがら思わぬ人物がそれを止めた。


「止まれガイ!」


 目をやると銃を持ったシンラが銃口をこちらに向けていた。


「何の真似だ」

「それはこっちの台詞だ。今が覇王を倒せる唯一のチャンスなんだぞ」

「でもレアナが死ぬ!」

「俺たちはこの日の為に頑張ってきた。そうだろ?その努力、みんなの死を無駄にするのか」


 その言葉に反論はできなかった。そうだ、ガイはもうすでに多くの魔獣たちを殺してきた。仲間も多くが死んだ。もう後戻りはできない。それでも……。


「それでもレアナは見捨てられない」


 剣を握り締めてレアナの元へ向かおうとするガイに再びシンラが銃口を向ける。


「今のレアナには何を言っても届かない」

「大切な友達じゃないか」

「覇王を殺す為だ。その為の戦いであることはレアナ自身も分かってるはずだ。なのにあそこを動こうとしない」

「放射熱光線、充電完了」


 嫌な予感がする。


「諦めろ、ガイ」

「そんな……そんな、待ってください団長!」


 だがモービルは覇王とレアナの方向を狙っている。


「逃げろ、逃げるんだレアナ!」


 涙を流しながらガイが叫ぶ。

 するとレアナが立ち上がって覇王の前で大の字になって叫ぶ。


「ガイ、大丈夫。大丈夫だから」

「何が大丈夫なんだ。早く離れて!」

「ううん、これでいいの」

「何を言ってるんだ」


 モービルの放射熱光線装置に光が溜まっていく。


「頼むから僕の言うことを聞いてくれ!」

「それはダメ。未来は変えられない。これしか選択肢はないの」


 涙が溢れて止まらない。言葉が出ない。


「大丈夫。また会えるから。これは運命だから」

「レアナ!」


 そう叫んだ瞬間だった。


「発射だ」


 団長の声と共に放射熱光線の激しい光がレアナと覇王を包み込んだ。数秒後、残骸の中にレアナの耳飾りだけが落ちているのが見えた。当然、覇王の姿もなかった。


「終わったな」


 団長が声を出し、兵士たちはみな戦場から引き上げようとしている。

 ガイドは1人、その残骸の中からレアナの耳飾りを拾い上げ胸ポケットにしまった。

 何故レアナは覇王を守ったのか。

 何故レアナは最後にあんな言葉を残したのか。

 そんなことに考えても及ばないほど、ガイは悲しみでいっぱいだった。

 レアナが死んだ。死んだんだ。

 笑顔が素敵で、元気をくれて、側にいてくれるだけで力になってくれる存在だった。

 そんな彼女が目の前で死んだ。

 心の中でふつふつとした感情が湧いてくるのを感じる。

 それは怒りだった。

 あの時、魔獣たちから向けられていた感情、それを今ガイ自身が感じていた。

 誰に対して?

 そうだ、レアナは死んだんじゃない。()()()()()()


「リミッター解除」


 ガイは小さな声で呟いた。パワードスーツの限界強度を超え、さらに強大な力を引き出す為の機能である。その代償として使用者の体にどんな影響が出るかは未知数なので使用は禁止されている。だがその時のガイに正常な判断能力はなかった。


「おいガイ、何を」


 そう言ったシンラの顔めがけて剣を振るう。

 大きな叫び声と共にシンラが頬を押さえている。その指の隙間から血が流れているのが見える。


「みんな人殺しだ」


 ガイはゆっくりと例の構えをする。

 兵士らは何が起きたのか分からずきょとんとしていたが、騎士団員らは気がついたようだ。

 その圧倒的な「殺意」に。


「全員武器を取れ!」


 とある騎士団がそう叫んだが間に合わなかった。

 ガイはモービルに戻ろうとしている無防備な兵士らに向かって次々と刃を突き刺していった。

 覇王を倒したという歓喜の声が悲鳴へと変わっていく。仲間の亡骸を抱えながら叫んでいる者もいる。

 そうだ苦しめ。お前たちがレアナを殺した。

 何も悪いことなんてしていないのに、お前たちは無慈悲に殺した。

 ガイドの暴走は止まらなかった。

 幾人もの腕を斬り、腹を突き刺し、首を斬り落とし、体を斬り刻んだ。


「一般兵はモービルに今すぐ戻れ!」


 一般兵らがモービル内へと消えていく。

 ダメだ。誰一人逃がすものか。

 ガイはモービルの中に突っ込むと負傷者や若い兵士、女性であれ男性であれ関係なく殺した。

 中にいた1人の兵士が自爆覚悟で手榴弾を投げつけてきたが、ガイはそれを避け、その兵士の体を真っ二つに斬った。その後モービル内で爆発音が起き、兵士たちがモービル周囲を囲んだ。

 中から出てきたのは全身を血で染めた青き瞳の恐ろしい怪物だった。

 事態を深刻に受け止めた騎士団たちは一般兵では手に負えないと判断し、上級兵ら以上にパワードスーツの強度を上げるよう指示し、全員でガイを止めようとした。

 だがガイは止まらなかった。いや、ガイ自身にも止めることができなかった。この殺意を、怒りを、悲しみを。

 胸に穴が空いてしまったようだった。その穴を埋めようと人を殺し続けたが、その穴は決して埋まることはなかった。殺した人々の血で埋めようとしてもすぐに流れ出てしまう。最早その穴を埋める方法はガイ自身にも分からなかった。

 複数の上級兵を赤子の手を捻るように片づけると、ガイは騎士団たちに狙いを定めた。

 ガイは真っ先に団長に飛びかかったが、それを止める者がいた。


「ガイ、正気を取り戻すんだ」


 部隊長がガイを必死に説得する。


「僕は正気だ!」

「君は自分を見失っているよ。怒りに呑まれるな」

「それでレアナは戻ってくるのか!」

「あれは事故だ。誰にも止められなかった」


 ガイにはその言葉が許せなかった。


「事故?事故だって?違う、お前たちはレアナを見捨てたんだ。彼女は死んだんじゃない。殺されたんだ!」


 ガイは部隊長のランスを弾き返す。気がつけば他に2人の騎士団がガイを囲んでいた。


「3対1だ。君に勝ち目はない。大人しく武器を捨てるんだ」


 ガイドは深呼吸すると、円を描くように時計回りに1人ずつ騎士団を剣でなぎ払っていった。まるで氷上を滑るように、スムーズな動きとスピードで1人ずつ確実に倒していった。1人、2人と蹴散らしていきながら部隊長に突進する。

 その時、部隊長のランスの先端が開き中から砲撃を食らってガイは吹き飛ばされてしまう。


「止まらないなら、残念だが殺すしかない」


 部隊長は以前見せたようにランスをガイの元へ投げつける。着地と同時に凄い衝撃がガイにさらなるダメージを与える。ガイはそのまま動かなくなってしまった。

 リミッターを解除し、あれだけ激しい動きをしたのだ。とっくに体は限界を迎えていてもおかしくない。むしろよくあそこまで動くことができたものだ。

 騎士団の1人がガイの生死を確認しようと近づいた時、ガイの体がピクリと動くのを部隊長は見逃さなかった。


「マズイ離れろ!」


 その声が届く前に、騎士団員は剣で喉をかき切られ血を流しながら倒れた。


「レアナを返せぇ!」


 血反吐を吐きながらガイは立ち上がり、雄叫びを上げる。

 血に濡れた髪の隙間から、ギラリと青い目が光る。

 バカな、あれほどの肉体的ダメージを受けながら何故動ける。

 部隊長はガイドさの恐ろしいほどの執念に思わず気圧されてしまった。

 ボロボロの体を突き動かすもの。それは「意志」だった。レアナを取り戻したいという意志、それがたとえ不可能だと分かっていてもその意志だけがガイの原動力となっていた。

 そんなガイの前に1人の男が立ちはだかった。

 騎士団長である。

 その顔を見てガイドさは凄まじい声を出す。


「レアナを……返せ!!!」


 団長はゆっくりとハンマーを持ちガイの元へ歩き始めた。

 それを見てガイは即座に団長の背後に回り込み、体に斬りかかった。だが団長はそれを受け止め、ガイの顔面を拳で殴り飛ばした。

 口から血を流し、ガイはその場に倒れ込んだ。ようやく本当に力尽きたようだ。だがそれでも再び立ち上がろうと、剣を地面に突き立てながらガイは呟いた。


「レアナ……レアナ……」


 意識は朦朧としている。


「自我を失ったか。今のお前では戦えない」


 団長はガイに背を向け、モービルに戻ろうとした。

 ガイは最後の力を振り絞り、団長の背後に斬りかかろうとした。

 その時、1人の者がガイを剣で突き刺した。

 ガイはゆっくりと振り向きそう、その顔を見た後意識を失って地面に倒れた。

 ガイが最後に見た顔は同じく顔を血で染めたシンラだった。


42.

「これがお前の知りたがっていた10年前の真実だ」


 シンラがキオを見つめながら呟く。


「悲劇と反逆ですか」

「そうだ。レアナの死がガイを狂わせた」


 キオはあまりにも壮絶な話に驚愕せずにはいられなかった。


「本当に、本当に姉は覇王を守ろうとしたんですか?」

「ああ、それは間違いない。この目でしっかりと見た」


 グラスが突然口を挟んだ。


「何故グラスさんがそんなことを」

「ここまで聞いてまだ分からないのか」

「どういうことです」

「私だよ。私が10年前にキオの姉を殺した()()()()()だ」

「グラスさんが?」

「ああ」


 キオは黙り込むしかなかった。何と言えばいいのか分からなかった。


「別に恨んでもいい」

「えっ?」

「レアナを殺した事実に変わりはない。そして結果としてガイは暴走した。私があの悲劇を招いた張本人だ。だからギャラガ帝国に帰った後自ら団長の座を降りた」

「それは違います」


 シンラが口を開いた。


「あの時はああするしかなかった。誰にも、あんなことが起こるなんて想像もできなかった。レアナの死も、ガイの裏切りも」

「裏切り?」


 キオは少し違和感を覚えた。

 そういえば覇王と戦ったとき、スクリュウも口にしたのだ。この裏切り者が、と。


「ガイは確かに反逆者かもしれません。しかし今の話を聞いた限りでは姉の死で暴走しただけで、裏切り者という表現はあまりしっくりきません」

「お前は鈍いのか鋭いのか分からんな」


 グラスがため息をつきながらそう言った。

 そこにシンラが再び口を開いた。


「ルナの言う通り、この話にはまだ続きがある。当然楽しい話じゃない。それでも聞きたいか?」


 キオは間髪入れずに頷いた。


「それで少しでも真実に近づけるのなら」

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