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青の眼差し  作者: 窪田楓
20/28

真実

20.

 応援要請を受けたガイらの部隊は、座標の近くに到着した。

 そこにはすでに多くの部隊が駆け付けており、人や魔獣関係なく多くの死体が転がっていた。まさに戦場は血の海と化していた。


「加勢するぞ。僕に続け」


 部隊長が声を出し、モービルから飛び出す。

 ガイも深呼、外に飛び出そうとした時だった。


「待ってガイ」


 レアナがこちらへやってきた。


「どうしたの」


 ガイが尋ねるとレアナはうつむきながら思いもよらぬことを話した。


「覇王は殺さないで」

「……急にどうしたの?」

「詳しいことは言えない。だけど信じてほしいの。これから想像もつかないことがガイを襲う。でもそれは誰にも変えようのない未来。でも決して絶望しないで。ガイはいつまでも優しいガイのままでいて」


 ガイはいつになく深刻な表情のレアナの肩にそっと手をやる。


「大丈夫だよ。いつだって僕は僕だ」


 ガイはそう言うと外へと飛び出した。シンラたちもそれに続く。

 ガイは再びパワードスーツの強度を上げると、魔獣の大群の中へと飛び込み、次々と魔獣たちを殺して回った。

 多くの兵士がガイの動きに見とれている。

 戦場を駆け回る15の少年の異常な動きに他の部隊の騎士団らも目を奪われていた。

 ガイは動きを緩めることなく、次々と魔獣たちを斬り刻んでいく。それから数十分もの間、ガイは止まることなく剣を振るい続けた。もうその場においてガイを止められる者は誰一人としていなかった。

 やがて肉体的な限界がきて、ガイはようやく動きを止めた。


「お疲れさん」


 水を持ったシンラがやって来た。


「相変わらず凄かったぜガイ。お前だけ別格だった」

「みんなの援護があるからだよ」


 ガイはその場に座り込み、手渡された水を口にふくむ。


「そういえば、覇王の姿は見えないな」


 ガイはそう口にする。


「ああ、どうせ怖じ気付いて逃げたんだろ。所詮は覇王もその程度ってことだ」


 シンラが笑いながら答える。

 本当にそうなのだろうか?

 ふと何かの気配を感じ、ガイドさは真っ暗な空を見上げた。

 そこに奴はいた。

 大きな翼を持った魔獣の背にまたがり、空から地上を眺めている存在にガイは気づき立ち上がった。その大きな黒い塊が凄まじい勢いで地上へも落下し、その全貌をあらわにする。

 鱗の一枚一枚が鋭く尖った、翼の大きな魔獣。そして黒いマントをした覇王の姿。

 兵士全員がその存在に気づき武器を構えようとするが、耳をつんざくような魔獣の咆哮が兵士たちの聴覚を一時的に麻痺させる。

 兵士が怯む瞬間を魔獣が見逃すはずもなく、大きな翼でなぎ払われた兵士らの体は無惨にも引き裂かれ、その口で噛み砕かれたモービルは木っ端微塵になった。

 ガイの到着で勝利を確信した兵士らは、覇王の登場で一瞬にして絶望の底へと叩き落とされた。

 抵抗する者もいたが、そんな兵士から真っ先に殺されていく。

 騎士団のメンバーですら魔獣の猛攻に次々とやられていった。一般兵たちはその様子をただ見守っているしかなかった。


「助けなくちゃ」

 

 ガイは魔獣の前に飛び出そうとするが、シンラがそれを止める。


「やめろ。さっきあれだけ動いたんだ。今のガイじゃ戦えない」

「だけど!」

「騎士団でさえあのザマだ。俺たちにできることはねぇよ」

「見殺しにしろっていうのか」


 ガイはシンラの忠告を無視して魔獣の元へ向かおうとした。

 その時、大きな1台のモービルがこちらに向かってくるのが見えた。

 間違いない、あれは団長専用のモービルだ。 

 団長の助けが来たことで兵士らは一斉にに沸き上がる。

 魔獣と覇王もその存在に気づきそちらへと体を向ける。


「な、ほらガイ。助けが来た。もう安心だ」


 シンラがガイを引き戻す。

 ガイも少しだけ安心し、シンラの元へ戻った。

 やがてモービル内から騎士団長が姿を現した。その手にはハンマーが握られていた。

 覇王が魔獣から降り、団長の前へ立ちはだかる。

 1対1の真剣勝負というわけか。ガイは固唾を呑んで見守る。

 これから戦いが始まる。ギャラガ帝国の命運をかけた本当の戦いが。

 そして同時に始まろうとしていた。

 ()()()()()が。


「始まるのね」


 レアナは涙を流しながらポツリと呟いた。


40.

 無事拠点へと戻ったキオは団長の帰りを待っていた。どうしても確かめなくてはならないことがある。


「キオ様、団長様がお戻りになられました」

「分かった」


 部下からの通信を受け、キオは自室を飛び出した。

 団長室の大きな扉を勢いよく開けると、そこには団長、グラス、スクリュウの3人がいた。


「キオちゃん、ノックぐらいしないと」

「スクリュウさんは黙っていてください」


 キオはそのまま歩みを止めることなく団長の座っている椅子の前へと向かった。

 キオはじっと団長を見つめる。

 しばらくして団長が口を開いた。


「何か用か」


 加工された声が頭に響く。


「しらばっくれても無駄ですよ」

「何のことだ」

「何もかもです」

「キオ、もうやめるんだ」


 グラスが会話に入ろうとするが、それを無視して話を続ける。


「この惑星に来たときから感じていたデジャヴ。懐かしさのような感覚は私の勘違いだと思っていました。だけど今は違うとはっきり言える」

「話が見えないな」

「思い出したんです、何もかも!」


 キオが団長の机をバンと叩く。


「断片的にですが、とても重要なことを思い出したんです。決して忘れてはいけないことを。だからあなたに会いに来た」

「何故私なんだ」

「それは団長が一番よくご存知でしょう」


 沈黙が流れる。キオは続ける。


「私は覇王に殺されかけた。ですが一瞬だけ、ほんの一瞬、奴と目が合ったんです。すると奴は私を殺さずに飛び立っていった」

「哀れみでもかけられたんじゃないか」


 キオは剣を出し団長の元へ向ける。


「おいキオ!」


 慌ててスクリュウとグラスが止めに入る。


「キオちゃんやめるんだ」


 スクリュウが大きな鎌をキオの首にかける。


「なら答えてください。全てを。スクリュウさんも知っているんですよね?」


 スクリュウは目を背ける。それはYESともとれる反応だった。


「何が聞きたい」


 団長がついに尋ねてきた。


「全てです。私の失われた記憶について全て知りたい。覇王と目が合った時に私は確信しました。私はあの目を知っている。あの()()()を知っていると」

「そうか……」


 団長はゆっくりと立ち上がり、スクリュウとグラスに武器を下げるように言った。


「その記憶の先に待っているのは絶望だぞ」

「覚悟はできています」

「分かった」


 団長はそう言うとゆっくりと覆面を脱いだ。


「いつかこうなることは分かっていたんだ」


 加工されていない団長の声はとても優しい、そして懐かしい声だった。

 覆面の中から顔を出したのは頬に傷を負った見覚えのある男だった。

 そうか、やはりそうだったのか。


「……シンラ」

「久しぶりだな、()()

「一体何があったんですか」

「これから全て話す。1()0()()()に何があったのか」


 シンラはそう言うと過去のことについて語り始めた。

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