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青の眼差し  作者: 窪田楓
16/28

魔獣

31.

 モービルはレーダーを頼りに闇を切り裂きながら進んでいた。


「なぁガイ」


 シンラが話し掛けてきた。


「なに?」

「もし敵に会ったらさ、どっちがたくさん倒せるか勝負しようぜ。その方がモチベーション上がるだろ?」

「いいね、負けないよ」

「また2人はそうやって訳わかんないことしようとするんだから」


 レアナがそう言った。まるでおもちゃに夢中になっている子供を見るような目つきをしている。


「魔獣ってどんなやつらなんだろうな」

「授業で習ったろ。ここは基本的に暗いから奴らはその暗闇の中でも視力が良い奴、目の代わりに聴覚や嗅覚が異常に発達した奴、他にもいろんな奴らがいるんだよ」

「ガイって魔獣オタクでもあるわよね」

「いやぁ、それほどでもないけどね」

「別に褒めてんじゃねぇよ!」


 シンラがガイの頭をペシッと叩く。

 だがガイはそんなツッコミを受け流しながら、目をキラキラとさせて話を続けた。


「だってギャラガ帝国とは全く違う生態系があるんだよ?たしかに覇王は悪い奴かもしれないけど、そんな魔獣たちと共存してるって凄いと思わない?」

「俺は思わないね。覇王も魔獣も倒すべき敵だ」

「私もあんまり……やっぱり魔獣は恐いかな。過去に大勢の人が殺されてるわけだし」


 ガイはそう言われて少ししょんぼりとする。


「勉強すればかなり面白い分野なんだけどな」


 そんな会話をしていると突然アナウンスが入る。


『レーダーに反応。1キロメートル先に生体反応あり』


 モービル内の空気が一気にピリつく。

 部隊長が声を出す。


「そのままゆっくり、相手に悟られないように300メートル近くまで接近してくれ」


「了解しました」


 そのままモービルはスピードを落としながら前進する。

 先程までワイワイ話し込んでいた兵士たちも緊張感からか黙り込んだ。

 数分後、目的地付近までやってきたモービルは近くの岩場に止まった。


「上級兵は僕と共についてこい。裏に回って奇襲を仕掛ける。一般兵はレーザー銃で後方支援してくれ」


 部隊長はそう言うとランスを持ち、上級兵らを従えて敵の元へと向かっていく。その後ろからガイら一般兵もついていく。

 暗闇に次第に目がなれてきた頃、そいつの姿は目に入った。

 大きな牙を持ち、鋭い鉤爪をした四足歩行の魔獣。

 遠目からでも巨体であることが分かる。5メートル程はあろうか、その巨体の魔獣はゆっくりと歩きながら辺りを見渡しており、その目はギラリと光っている。

 背筋が凍るのを感じる。

 決して熱いわけではないのに汗が止まらない。心臓が脈打つのを感じる。

 ……これが覇王の率いる魔獣。たった1匹でこの威圧感だ。こんなのが数匹もいれば僕たちだけで対等に渡り合うのは無理だとガイは感じた。

 耳に仕込んだ通話機器から部隊長の声が聞こえる。


「心配するな。奴はまだこちらに気づいていない。だから僕が裏に回るまで誰も目立つようなことはするなよ」


 長い長い沈黙が訪れる。


「上級兵、全員配置完了」

「一般兵も全員配置完了です」

「僕も位置についた」


 一呼吸おいて部隊長が続ける。


「戦闘開始、暴れようか」


 その声と共にガイら一般兵が魔獣に向けてレーザーを放つ。

 そのうちの1発が魔獣の目に直撃し、大きな呻き声と共に魔獣がよろめく。どうやらシンラが当てたようだ。

 その隙をついて上級兵たちが鋼鉄剣で手足の間接部を狙い次々と斬っていく。

 再び大きな声を上げながら魔獣はその場に倒れた。

 それを待っていたと言わんばかりに部隊長が魔獣の首めがけてランスを思い切り突き刺した。

 致命傷を負った魔獣は少しの抵抗は見せたものの、次第に動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。


「討伐完了」


 部隊長がランスを引き抜きそう伝える。

 凄い。部隊長の実力はガイの予想をはるかに超えていた。

 凄まじい勢いで魔獣を仕留めたランス。騎士団員はそれぞれ戦い方のスタイルが違うため、各々に特別製の武器が支給される。ガイの部隊のランス使いは相当な実力者だろう。


「周囲に他の生体反応は無し。引き返そう」


 上級兵の1人がガイたちに命令する。

 モービルに引き返す途中、シンラが口を開いた。


「あの目に当てたの俺だぜ」

「知ってる。射撃の腕前はさすがだね」

「だろだろ?まぁこの調子でいけば覇王討伐も楽勝だな」

「もう、そうやってすぐ調子に乗るんだから」


 レアナに注意されるもシンラは得意気にこう言い返す。


「でも戦えるんだぜ俺たちだって。あんな魔獣と互角に。それってスゲェことなんじゃねぇの?」

「はぁ、ガイも何とか言ってやってよ」

「シンラは凄いよ。実際目に当てたのは大きかった」

「そうだろ?なぁに大丈夫よ。俺がいれば百人力!」


 シンラが拳を突き上げてそう言った。

 モービルに戻った兵士たちは魔獣を倒したことにまだ興奮しているようだった。シンラだけではない。今の戦いは多くの兵士にとって「我々は敵と互角に戦える」という自信を持たせた。

 しばらくして部隊長も戻ってきた。


「みんなよくやった。少し休憩してから次のポイントを目指す」


 そう言い残し、1人武器の手入れに戻っていった。


「次どんな敵が現れても俺たちならやれる」


 シンラはまだ興奮している。


「今回は1匹だけだったけど複数なら厳しいんじゃない?」

「簡単だ。同じことを繰り返せばいい」


 シンラはレアナの疑問に自信満々に答えた。

 未だにモービル内は熱気と高揚感に包まれていた。

 だがガイだけは少し複雑な心境だった。

 たしかに戦いに勝ったことは嬉しい。それに覇王を倒す為にここまで来たんだ。

 なのになぜ……私のなぜこんなにも悲しいんだろう。

 ガイは目を閉じ思い出す。ガイだけは気づいていた。スコープ越しにそれが見えていた。

 魔獣が息絶える直前、1粒の涙を流していたことに。


32.

 キオは再び夢を見た。

 前回とは違う。どこか分からない場所で子供が座り込んでいる。

 助けなければ。

 キオはその子供に近づこうとするが前に進めない。

 そこでこれが夢であることを実感する。

 ねぇ大丈夫?

 キオは追い掛けるがもちろん返事はない。それでもキオは続ける。

 ねぇ、あなたは一体……。

 そう言いかけたところで、突然子供が顔を上げる。

 良かった。こちらの声が届いたのかもしれない。

 ねぇ、教えて。あなたは誰?何故泣いていたの?

 しかしどうやらキオの声が聞こえていたわけではないらしい。

 しばらくするとその子供の前にマスクをした2人の兵士がやって来た。

 何?あなたたちは誰?

 キオの言葉を無視して彼らは子供に話し掛けている。その内容は分からない。

 ねぇ何してるの?お願い答えて。

 すると彼らのうちの1人が子供の頭に手を伸ばす。

 やめて!何するの!

 その手が頭を掴む。すると突然辺りが輝き始めた。

 何これ……これは一体何なの?

 だんだんと視界がぼやけていく。

 まばゆい光に包まれて、3人の姿が消えていく。

 待って!まだ知りたいことがたくさんあるのに……こんなところで……。

 強い眠気がキオを襲う。

 結局今日もダメだったな。

 そう思いながら、キオは再び深い眠りについた。

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