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青の眼差し  作者: 窪田楓
15/28

第四次大戦

29.

闇、闇、闇。続くのは終わりのない闇。

 朝だというのに陽光はほとんど差し込まず、薄暗い闇に辺り一面が覆われている。


「こんな真っ暗闇なのに敵と出くわしたらどうすんのかね」


 シンラがボソッと呟いた。


「心配しなくてもレーダーのかなり先の距離でも感知できるらしいし、いざというとは暗視ゴーグルもあるから大丈夫だよ」

「ならいいんだけどよ」


 シンラがあくびをしながら答えた。

 そうとは言ったものの、実のところガイは少しだけ不安であった。

 こんな闇の中でいざ戦うとなった時、自分は冷静に動けるだろうか。ここはギャラガ帝国とは違う。

 一瞬の油断が命取りになる。

 ガイはあらゆる事態を想定しながら、神経を集中させる。そんな時だった。


「ねぇ、ガイ」


 突然レアナが話し掛けてきた。表情は暗く何か悩んでいるようだった。


「どうしたの?」

「実は昨日ね、また変な夢を見たの」

「どんな?」

「前とほとんど同じ。私が誰かに何かを叫んでるの」

「また会えるから、ってやつ?」


 シンラも会話に入ってくる。


「そう。でもね、今回のは少し違うの。もう少しはっきりとして、もっと長かった」

「はっきり?」

「前はもっとぼやけてたんだけど、今回はとてもリアルだった。同じ夢を2回も見たなんて初めてだから私なんだかとても不安で……」

「……正夢の件だね?」


 ガイがレアナに恐る恐る尋ねる。


「そう」

「長いってはどういうこと?」

「そのままの意味。前回よりも先の場面まで頭に流れ込んできたの。また会えるから、だから泣かないで。()()()()()()()()って。起きてからもその言葉が浮かんで私どうにかなりそうで……」


 運命?

 一見するとなんてことない言葉のように聞こえるが、レアナがここまで取り乱すのも珍しい。


「それはどんな場所なの?」

「そこまではよく分からないけど……。そう、とても暗かった。それだけは覚えてる」

「他に何か思い出せることはある?」

「それ以外はちょっと。でもその前回もそうだったけど、目が覚めた後いつも目から涙が流れてるの」

「それって……」


 ガイが話を続けようとするとそれを遮ってレアナがこう答えた。


「私、夢の中で泣いてたんじゃないかって。そう思うの」


 聞けば聞くほど不思議な話だ。

 誰かに話し掛けるレアナ。

 泣きながらまた会えると言うレアナ。

 そして「運命」という言葉。

 そんな夢を2日続けて見たんだ。不安になるのもよく分かる。


「まぁでもよ、正夢っていっても毎回必ず起こるわけじゃないんだろ?それに誰かが死ぬとかならまだしもそんな話じゃないならあんまり深く考えることないんじゃねぇか?」

「それは分かってるけど……」


 レアナの体が小刻みに震えているのが分かる。これ以上は彼女の精神がもたないだろう。ガイはとっさにレアナの手を掴む。


「レアナ、あんまり思い詰めることないよ」


 レアナは驚いた顔でこちらを見つめる。


「おっ、お熱いねぇお2人さん」

「うるさいなぁ」


 衝動的とはいえ、手を握るのはやりすぎたか。ガイは悪いと思ってレアナの手を離した。

 恥ずかしくてつい目をそらしてしまったが、再びレアナの方を見ると、その表情は優しいものに変わっていた。


「ありがとう、ガイ」


 元気が戻ってくれて良かった。ガイは心の中で安堵した。


「ガイだけじゃなくて俺もいるしな!」

「シンラはあんまり頼りにならないから」

「なにぃ!?」


 最初は重かった空気が軽くなったのを感じる。いつものみんなに戻ったようだ。ホッと胸を撫で下ろし、「シンラは図体だけだからね」とレアナの意見に同調する。大きな笑いの渦が3人を包み込んだ。

 そんな彼らを乗せながら、モービルはまだ闇の中を進んでいた。


30.

 ギャラガ帝国の栄光、帝国の崩壊と再生、皇帝グランの帝国再建史……。どれも違うな。

 山のような歴史書を読み漁ったがキオが欲しい情報はどこにも載っていなかった。

 やはり無駄骨だったか。こんな壮大な帝国の歴史の1ページに私の記憶に繋がる何かがあるとは思えない。

 たくさんの歴史書を棚の中に戻しながら、どうしようか途方に暮れていると、とある1冊の本が偶然目に入った。


『闇の惑星』


 これは……ブルドについての本だろうか。

 発行年数は西暦2069年、今から9年前か。かなりボロボロだ。さすがに30冊もの本を読んだ後だと体力的にも限界がきていたので、キオは棚からその本を引っ張り出し、自室へと持ち帰ってから読むことにひた。

 時刻はもう夕方、軽い夕食をすませてからキオは部屋に戻り、早速本を読むことにした。

 開くと目次が目に入る。


①ブルドの概要

②ブルドを支配する覇王

③覇王が操る魔獣(ディアブロ)

④ギャラガ帝国との衝突

⑤勇敢な兵士と多くの犠牲

⑥ブルドの抵抗

⑦代償と勝利

⑧ブルドの逆襲

⑨ギャラガ帝国の兵力増強

⑩悲劇と反逆


 そこまで目次も多くないので1からページをめくる。

 ブルドの概要。これは養成所の授業で習った。基本的には暗闇で、砂漠と岩場だらけの荒廃した惑星。陽は差すので一応少しだけなら植物も生えており、ここにすむ魔獣(ディアブロ)たちはそれらを食べている。

 そして次が彼らを操っている覇王。約30年前、突如現れてここの魔獣たちの王となり、外界との接触を一切絶ち、無用で立ち入る宇宙船などを次々襲ってきた。

 漆黒のマントに身を包み、奴に殺された犠牲者は数知れない。その目的も、何故暴れているのかも一切分かっていない。ただその存在そのものが脅威であり恐怖である。

 次が魔獣たち。これは生き残った者の目撃談しかないため、具体的な特徴は分からないが、どれもおぞましい姿をしており、好戦的な性格をしているらしい。

 そして魔獣たちはみな何故か覇王に忠誠を誓い、覇王の溜めに行動している。中には自ら盾になる魔獣もいるという。生物としては実に不思議な思考回路をしている。だからこそ侮れない。

 そして次はギャラガ帝国との衝突。第一次大戦である。貿易を目的としたギャラガ帝国の船がブルドに到着するや否や、覇王から攻撃を受けた。戦闘目的ではなかったため、多くの犠牲者が出たが勇敢に立ち向かった兵士もいた。

 次の目次ではそのことについて触れられていた。

 多くの犠牲者を出した帝国はブルド敵とみなし、いずれは宇宙の脅威になるとして殲滅作戦を開始した。第二次大戦である。前回とは違い騎士団が設立され、武装態勢で挑んだため覇王たちにダメージを与えることができたと書いてあるが、それでも完全に殲滅することは不可能だったようだ。

 そして3度目の戦い。第三次大戦。前回の戦いから間を空けずに行ったため、今度こそ勝利すると思われたが、現実はそう甘くなかった。

 ブルドの魔獣たちはさらに団結し、帝国に今まで以上の壊滅的なダメージを与えた。

 だがそれでも帝国は諦めなかった。

 宇宙の秩序を守るため、兵士の養成に力を入れ、凄まじい規模の軍団を作り上げた。

 ここまでの話はだいたい知っていた。

 だが最後の目次。


『悲劇と反逆』


 第四次大戦?これは知らない。授業でも習わなかった。

 それが起きたのは10年前。それまで以上の戦力でブルドに攻め込んだギャラガ帝国軍は無事にブルドに到着し、覇王討伐に向かった。

 初めは順調だったものの、とある部隊が覇王の直接攻撃を受け、他の部隊も応援に向かうため残りの部隊と合流し、覇王への奇襲を仕掛けた。だが覇王には全く歯が立たず、返り討ちにあってしまう。

 そしてそこからが衝撃的だった。

 1人の兵士が覇王に思想を染め上げられて部隊を裏切り、仲間たちに処刑されてしまったのだ。

 反逆者の名前は分からない。だがその者のせいで多くの死者が出たらしい。その時の犠牲者は第四次大戦が一番多い。

 書籍の内容はざっとこんな感じだった。

 キオが習ったのは第三次大戦までで、それ以降ブルドに攻め込むのは今回が初めてだと聞いていた。

 だがまさか第四次大戦があったなんて。

 しかも反逆者の存在まで。

 キオは頭を抱えた。

 何もかもが知らないことだらけじゃないか。

 一体何故その兵士は覇王側についたのか。そして何故、帝国はこのことを隠しているのか。

 本はボロボロで著者名が分からない。きっと処分せずとも問題ないと思ったのか、はたまたこの1冊だけ残ってしまったのか。

 いずれにせよこの本に書かれていることが事実なら帝国は我々に嘘をついていることになる。

 何故そんなことをする必要があるのか。

 悲劇と反逆。その言葉が脳内にこだまする。

 10年前……私の記憶が無い頃の話。

 何かが、点と点だったものが繋がっていく気がする。

 クソッ、あともう少しなのに。

 キオは本を閉じ、軽くシャワーを浴びてベッドに戻った。

 あと1つ、何かきっかけがあれば。

 そんなことを考えながらキオは目を閉じた。

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