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青の眼差し  作者: 窪田楓
13/28

子供

25.

「クソ、またまた負けちまった」


 シンラが悔しそうな声を出す。

 夕食を終えた2人は再び訓練場に赴き、もう一度模擬戦を行っていた。


「なんであの攻撃がかわされるんだ?」

「シンラは少し大振りすぎるんだよ」

「つってもこのスタイルが一番しっくりくるんだよな」

「もっと重心を低くして、体のバランス取れれば動きは格段に変わるはずだよ」

 

 シンラの欠点についてガイは細かく観察していたので的確にアドバイスすることができた。もっともシンラは剣よりも銃撃に長けているのでそこを伸ばしたほうがいいだろう。


「まあ特訓あるのみだな」

「そうだね。シンラは器用だし訓練すればほとんどの武器は扱えると思うよ。あとは体のバランス感覚を磨けば大丈夫」

「しっかし今日は動きまくったよな。せっかくだから大浴場でも行こうぜ」

「いいね」


 自室にもシャワールームはあるのだが、違う部隊同士の関係を深めるという目的で、船内には誰でも出入り可能な大浴場が完備されていた。

 2人は着替えを抱えてさっそく大浴場へと向かった。


 中に入ったがどうやら人はいないようだ。ここは混雑するととてもじゃないか落ち着いて湯船に浸かることすらできない。


「やった貸し切りだぜ!」


 はしゃぎながらシンラは浴室へと駆け込む。


「あんまり騒いだら怒られるよ」


 ガイは注意しつつも一緒に浴室へと走っていく。

 軽く体を洗ってから浴槽にゆっくり浸かる。


「ああ極楽。ひと汗かいた後の風呂は格別だな」

「同意見だよ」


 その後、2人は模擬戦の反省点や改善点をお互いに出し合いながら数十分風呂に浸かった。

 そうして話を膨らませながらリラックスしていると、突然シンラがガイの顔をじっと見てきた。


「ホントだ」

「何が?」

「いや、お前の瞳が青いって話だよ。こんなに近くにいたのに意外と気づかないもんなんだな」

「ああ、その話か。実は少しコンプレックスだったりするんだけどね」

「何でだ?ギャラガ帝国人って目の色だけじゃなくて髪色とかいろんな色の奴がいるけど、青色って珍しくてカッコいいじゃん」

「だからだよ。周りにはほとんどいないから昔はそれでよくいじめられてたし」

「あいつらか……。いま思い出すだけでも腹が立つぜ。自分たちとは違う人間をいじめの対象にするなんてな」


 シンラが強い口調でそう言った。


「今は気にしてないよ。それに自分と違うものを嫌い、恐れるのは生物の本能だからね」

「お前強くなったな~」


 なんだよそれ、とガイが笑いながら答えた。

 そろそろのぼせてきたので出ようとシンラに伝える。


「そうだな」


 着替えて大浴場から出ると、レアナとルナと鉢合わせた。


「なんだ、お前らも入ってたのか?」

「2人の声丸聞こえだったよ。ホント2人って戦いの話になると人が変わるわよね」

「別にいいことじゃんか。なぁガイ」


 シンラがガイと肩を組む。


「僕らはもっと強くなれる気がするんだ」

「戦闘オタクね」


 目をキラキラさせたガイとシンラにあきれたようにレアナが言った。


「お姉ちゃん、もう帰ろうよー」


 ルナがレアナの袖を引っ張っている。

 今日1日はしゃいで疲れたようだ。


「わかった。じゃあそういうことだから。私たち今日はもう部屋に戻るね」

「おう」

「おやすみレアナ、ルナ」


 そう言うとガイとシンラも自室へと戻っていった。

 時間はもうすっかり夜だ。人によってはすでに就寝している者もいるだろう。


「明日も時間あったらさ、もう1回模擬戦やろうぜ」

「おっけい」


 そう言ってベッドに入り横になる。当番はしばらく回ってこないので今日はゆっくり眠れそうだ。


「じゃ、明かり消すぜ」

「うん」


 そうして部屋から明かりが消える。

 2人はそのまま目を閉じた。

 だが次の日、そしてそれ以降も2人が模擬戦をすることはなかった。


26.

 その晩、キオは初めて「夢」を見た。

 子供が1人で泣いている。

 わめきながら、誰かの名前を呼びながら。ずっとずっと泣いている。

 どうしたの?

 キオは声を掛けるが子供は泣いたままだ。

 どうして泣いているの?

 キオの声は届かない。

 最初は現実かと思っていたが、しばらくしてこれが夢だということに気づく。

 子供はまだ泣いている。この子は誰なんだろうか?

 分からない。だがどこかとても懐かしい感じがする。

 これは……誰かの思い出?

 忘れてしまった私の記憶?

 すると突然子供は立ち上がり、どこかへ走り去ってしまう。

 待って!

 キオはあわてて叫ぶが当然声は届かない。

 だんだんと子供の姿が小さくなっていく。だがそれを追いかけることはできない。

 待って。あなたは一体……。

 やがて子供の姿は消えた。

 お願い待って、あなたは私なの?


「答えて……」


 その瞬間目が覚めた。

 いま自分がいる場所が現実であることを確認し、少し安堵する。

 夢なんて初めてだ。あれは何だったのか。あの夢は一体……。

 頭が痛い。体が震えている。

 初めて夢を見た興奮よりも漠然とした恐怖がキオを襲っていた。

 あれは幼い頃の私なのか?

 それとも別の誰か?

 疑問は増えるばかりだ。

 あれがもし私なら……なぜ泣いていたんだろう。

 そしてどこへ走っていったのだろう。

 欠けてしまった私の記憶。その秘密があの夢にある気がする。

 ふと枕を見ると汗で濡れていた。そうとううなされていたようだ。

 キオは服を脱ぎ捨てシャワールームに入った。

 全身でお湯を浴びながらまだあの夢について考えていた。

 あれが私なら、記憶を取り戻す大きな手がかりになるかもしれない。

 だが全てを思い出すことは家族への裏切り行為のような気がする。

 母さん、父さん、それでも私は……。

 タオルで体を丁寧に拭きながらシャワールームを出る。

 キオはこの瞬間、心の底から決意した。失われた記憶を取り戻そうと。

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