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青の眼差し  作者: 窪田楓
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運命

21.

「っぱメロンソーダはうまいなぁ!」


 シンラが部屋中に聞こえるほどの声量で叫ぶ。


「もうわかったって」


 シンラのメロンソーダ推しにレアナがうんざりしている。


「ルナはいちごミルクが好き!」

「メロンソーダはいちごミルクの100倍うまいぞ」

「子供と張り合ってどうするのさ」


 そう言ってガイはハンバーガーを頬張る。

 みずみずしいトマトとトロトロのチーズ、それを肉汁たっぷりのハンバーグと一緒にバンズで挟む。これもサンドイッチに負けず劣らず素晴らしい地球の食べ物だ。

 するとルナが身を乗り出してガイの頬を指差す。


「ガイ、ほっぺたにチーズついてるよ」

「あっ、ホントだ」


 ハンカチでチーズを拭う。唯一ハンバーガーの欠点を挙げるとするならば、それは綺麗に食べることが難しいことだろう。そんなことを思いながら再びハンバーガーにかぶりつこうとしたが、まだルナがこちらをじっと見つめている。


「……まだついてる?」

「ううん」

「じゃあどうしたの?」

「ガイの目って青いんだね。凄く綺麗」

 

 ルナが純真無垢な瞳でこちらを見てそう言った

 ルナの言う通り、たしかにガイは美しい青色の目をしていた。


「ホントだ。ガイの瞳って青いんだね」

「へぇ~。俺も全然気がつかなかった。ルナよく分かったな」


 もうそこそこの付き合いになるっていうのに、未だに瞳の色すら知られていなかったなんて。ガイは少しだけショックを受けた。


「俺はメロンソーダが好きだから緑の瞳が良かったな」

「まぁたメロンソーダに話を持ってく」

「でも別に目が何色でも得することなんてないけどね」


 ガイは昔のことを思い出しそう呟いた。


「ルナは青色好きだよ!」

「ありがとう」

 

 ガイはルナの頭を優しく撫でる。


「ルナは淡いピンク色だね」

「いちごミルクの色!」

「けっ、好きな飲み物の色だからなんだってんだよ」

「シンラ、さっきと言ってることが矛盾してるよ」


 レアナの一言でどっと笑いが起きる。

 そんな何気ない会話をしながらガイたちは食事を楽しんだ。

 全員が食べ終えようとした頃に突然レアナが不思議なことを言い出した。


「そういえば私、昨日変な夢を見たのよね」

 

 ガイは思わずレアナの方を見るり

 自分も昨日おかしな夢を見ていたからだ。偶然だとは思うが、興味を示さずにはいられなかった。


「どんな夢だった?」


 ガイはレアナに尋ねた。


「うん、えっとね。何て言えばいいのかな。なんか妙に生々しくてね、とても不思議な感じの……ごめんちょっとうまく説明できないや」


 自分が見たものとは違うのだろうか。ガイは思い切って深いところまで質問してみる。


「それって誰かが自分のことを読んでるような?」

「なんだよガイ、急にどうした」


 シンラが口を挟む。


「どうだろ……。読んでるっていうか、私が誰かに話し掛けてるみたいな?」


 どうやらガイの夢とは全く違うものらしい。


「話し掛けてる?」

「そう。顔がぼやけてうまく思い出せないんだけど、私その人にたしかに話し掛けてるの」

「何て?」

「大丈夫だよって。大丈夫だからって」


 大丈夫?一体何の話だ。


「それで?他には?」

「……その人ね、泣いてたの。だから大丈夫だよって。それでね、ここまではうろ覚えなんだけど最後に言った言葉だけはよく覚えてるの。その言葉っていうのがね……」


 全員が黙って話に耳を傾ける。

 そしてレアナはこう呟いた。


()()()()()()()()()って」


22.

 食事部屋は兵士たちで賑わっていた。中には若い一般兵たちもいて、何やら楽しそうに話している。

 どこに座ろうかと悩んでいると、また奴と出くわした。


「やあやあキオちゃん!こんなところでまた会えるなんて、これは偶然を超えた運命だね」


 スクリュウがニコニコしながらこちらに来いと手招きしている。


「たまたまですよ。スクリュウさん、運命なんてものを信じてるんですか?」


 しぶしぶ近くの席に座ってキオが尋ねる。


「そのほうがロマンチックだろう?ああ、全ての物事が運命であり必然なんなよ。そう考えるだけで毎日が色づく」

「スクリュウさん相変わらずっすね」


 ジャオもスクリュウのテンションにはついていけないようだ。


「いやしかしキオちゃんとジャオ君が一緒とは。なんだい僕に隠して付き合ってるのかい?やだな、遠慮せず言ってくれればいいのに」


『全っ然ちがいます』


 2人の声が見事に揃う。


「スクリュウさん、あまりいい加減なこと言ってるといつか誰かに殺されますよ」


 ジャオがやれやれとした顔でそう言った。


「もし殺されるのだとしても、運命なら僕は受け入れるよ。……それに僕は今さら死を恐れたりしないよ」

「なら私が今回の任務から外されたのも運命ですか?」


 キオがそう言うと、スクリュウの表情が固くなったのが分かった。ジャオは何を言い出すんだと言わんばかりの顔でこちらを見ている。


「団長のこと、まだ気にしているのかい?」

「全くしていないといえば嘘になります」


 さっきまでの調子はどこへやら、スクリュウはいつになく真剣な顔つきになった。


「キオちゃんあれはね、ただの合理的な判断だよ」

「私なら戦場で誰よりも役に立てます」

「それは驕りだ。団長の言う通りキオちゃんはまだ若い。戦場のことを何も理解していない。だから外されたのさ」

「それを受け入れろと?」


 食事部屋にいた全員がこちらの方を向く。少しヒートアップしすぎたようだ。


「まあまあ落ち着けって。もうこの話はよそうぜ」


 隣のジャオがキオをなだめる。


「……すみませんでした」

「別にいいんだよ。気持ちは分かるとか安っぽい言葉を言うつもりも僕はない。ただ1つだけ言えるのは、君が誰よりも団長から信頼され、また守られているということだけさ」


 グラスのことは伏せ、キオは思い切って尋ねてみることにした。


「それは私のブルド派遣に団長が反対していた、という話ですか」

「どこでその話を?」

「噂です」

「キオちゃんはそんな噂話を信じるのかい?例えばジャオ君は?君はそんな話を聞いたことがあるかい?」

「いえ、俺は初耳です」

「ほらね。何の為か知らないけれど、それは誰かがでっちあげた噂さ。キオちゃんが気にすることじゃないよ」


 キオはしばらく黙り込んだ。

 ジャオは本当に初耳のようだし、たしかにこれは一部の人間しか知らない噂話だ。

 だがスクリュウの反応が気になる。


『どこでその話を?』


 あれは間違いなく噂話を知っている者の反応だ。その噂を知っていたにも関わらず、キオに話を振られるまでその話題には一切触れなかった。

 キオが尋ねるまで、()()()()()()()を黙っていたことになる。

 やはり妙な感じがする。


「おいキオ、大丈夫か?」


 ジャオの声で我にかえる。


「ああ、別に問題ないよ」

「まぁそういうことだから。キオちゃんは深く考えすきまないこと。ジャオ君は彼女ちゃんのことをきちんと見守ってなよ。それじゃ僕はまだ用があるから」


 そう言いスクリュウは席を立った。


「だから付き合ってないんですってば」


 そんな2人のやり取りも聞こえなくなるほど、キオはまた考え込んでいたり

 団長が私を守ってる?

 そういえばグラスも似たようなことを言っていた。

 団員に私が気に入られていると。だからあえて任務から外した?


『お前の話が出るとまるで人格が変わる』


 何故私だけ?

 ダメだ。また混乱してきた。

 確証はないが、何か自分の知らないところで大きな問題が発生している気がする。


「キオ、飯食わねぇのか」


 ジャオに指摘され、自分がまだ何も食べていないことを思い出す。


「じゃあ何か頼もうか」


 そう言ってメニュー表を開くが、キオはまだ頭の中で考えていた。

 正体の分からない何かが、自分を真相から遠ざけようとしている。

 誰が?

 何の為に?

 謎は深まるばかりだ。

 そしてこの時のキオはまだ何も知らなかった。

 自分が「絶望」の扉を開けようとしていたことを。

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