模擬戦
19.
2人でいる時間に耐えられなくなり、ガイとレアナさシンラとルナに会いに訓練場へと向かった。
訓練場ではシンラが射撃の練習をしているのをルナが横で見ていた。
するとルナがこちらの存在に気づいたようだ。
「あっ、見てシンラ。ガイとお姉ちゃんがきたよ!」
「ちょっと待て、次当てたら自己記録更新なんだ」
「ねぇシンラってば!」
ルナがシンラの服を強く引っ張った。
「ちょ、ルナやめろ!」
そう言って引き金を引いたシンラだが、弾は大きく的を外れてしまう。
「やっちまった。てめぇルナこの野郎!」
キャッキャと笑うルナを抱えながらシンラがこちらに向かってくる。
「惜しかったね」
ガイがシンラに声を掛ける。
「いやホントにあと少しだったんだけどな」
「こらルナ、シンラに謝りなさい」
怒られてしゅんとしたのか小さな声でルナが呟く。
「シンラごめんね」
「まあいいんだよ。それよりガイさ、昼食前に1回だけ俺と模擬戦やろうぜ。この鬱憤を晴らしたい」
「何で僕なんだよ。まぁ良いけど」
「2人が戦うの久しぶりだね」
レアナが少しワクワクしている。
「今度は負けねぇぞ」
シンラは俄然やる気のようだ。
2人はさっそく服を着替え、模擬戦用のフィールドの中に入った。話し合いの末、今回はペイント銃などの飛び道具の使用は禁止の完全な近接戦となった。審判役はレアナが務める。
「それじゃルールを確認するよ。剣が相手の服に合計10回当たるか、もしくは相手がギブアップしたらそこで試合終了だからね。」
「了解」
「久々だな」
2人とも大きく息を吸う。
バトル開始10秒前、ガイはあの独特な構えをしながら目をつむる。そして大きく息を吐きながら全神経を集中させる。
ピー、とスタートの合図が鳴り響いた。
先に動いたのはシンラだった。その巨体とパワーを活かし、正面突破するつもりだろう。
「どりゃあ!」
シンラが叫び声と共に剣を振り上げた。
その一瞬をガイは見逃さなかった。
脇腹に一撃、その勢いのままシンラの背後に回り込み太ももと足首に一撃ずつ剣を当てる。
下半身を攻撃され体勢を崩したシンラに対して、さらに背中に強烈な2発の斬撃が襲った。
「クソッ」
再び大きく振りかぶりながら剣を振るうシンラだが、ガイは鮮やかに攻撃を受け流す。だがシンラは持ち前のパワーでジリジリとフィールドの端へガイを追い込み、その巨体でタックルしてガイを吹き飛ばした。
攻勢逆転かと思われたが、すぐさまガイは受け身を取り、隙だらけのシンラの体に次々と剣を当てていく。
6発、7発、8発。
このままじゃマズい、そう思ったシンラはガイの9発目をあえて受け、体をがっちり押さえつけた。
「これでどうだ」
だがガイは冷静だった。
剣を頭上に投げ、シンラが気を取られているうちにみぞおちに肘で一発食らわせ脱出すると、そのまま剣をキャッチしシンラに斬り込んだ。
ピーッ。試合終了の合図がする。2人ともその場に倒れた。
「いやぁ、また負けちまったな」
「僕も危なかった。タックルされた時はどうなるかと思ったよ。さすがのパワーだね」
2人は健闘を讃えあいながら立ち上がった。
水とタオルを持ったレアナとルナがこちらへやってくる。
「2人ともお疲れ様」
「ガイすご~い!」
ルナはとても満足しているようだ。
「はいはい、どうせ俺はたいしたことないですよ」
シンラが少しふてくされている。
「そんなことないよ。いつ反撃されてもおかしくなかった」
「……だよなぁ!?やっぱ俺たち永遠のライバルだぜ」
すっかりいつもの調子だ。
「さ、もう十分でしょ。休憩したら食事にいこうよ」
レアナが催促する。
ガイとシンラは服を着替え、4人は食事部屋へと歩いていった。
20.
和やかな雰囲気のなか、紅茶を呑みながらキオとジャオは談笑していた。
「いやしかしアレだよな。まさか同期で一番仲良くなるのがお前だとは思わなかったぜ」
「私もだ」
「俺の第一印象どんな感じだった?」
「やる気のないダメ人間」
「うわヒデェ。そんなら言うけどよ、キオだってめちゃくちゃ変な奴だったぞ?協調性はないわいつも1人でいるわ、浮きまくってたからな」
「私は他人からの評価なんて気にしないからな」
「そういうところだよ」
笑いながらジャオが紅茶を口に運ぶ。
「でも知り合って騎士団になって、だんだんとお前のことが分かるようになってきた」
「例えば?」
「紅茶のいれ方が抜群に上手い」
「母さん仕込みなんだ」
少し空気が重くなる。
「……なんだよジャオ、やめてくれ」
「いや、こういう時何て言えばいいか分かんなくてさ」
ジャオはキオが記憶喪失であることを知っている。
だから今の「母さん」も本当の母親でないことも知っていた。
「私は気にしないかは、ジャオはいつものままでいてくれ」
「いやでも……」
「その方がありがたい」
そう言いながら立ち上がると家族と一緒に取った写真をジャオに見せた。
「私の右側にいるのが母さん。左が父さんだ。2人ともこんな私の面倒を見てくれた自慢の両親だよ」
「……優しい顔してるな」
「そうだろう?本当に優しい人たちなんだ」
「そうじゃなくて、お前が」
ジャオが写真を見つめながら呟く。
「だとしたら、それは2人のおかげかな」
「いつもこういう顔してたらもうちょっと可愛げがあるんだけどな」
「余計なお世話だ」
2人で笑い合いながら、時間も忘れるほどに語り合った。
家族のことをここまで打ち明けたのはジャオが初めてだった。そのうちジャオも自分の家族の話をしてくれるようになり、2人の仲はますます深まっていった。
「そろそろ飯でもどうだ?」
「ああ、いいね」
満足いくまで話をして、そのまま2人は食事部屋へた向かった。その頃にはもう団長のことなどすっかりどうでもよくなってしまっていた。