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青の眼差し  作者: 窪田楓
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始まり

~この宇宙に伝わる伝承~

『強い意志と記憶は時間と空間を越え、死(破壊)と生(創造)すらも覆す』


1.

 ふとした音で目が覚める。船体の大きな揺れと鳴り響くブザーも加わり何が起こったのかを悟る。


「おいガイ、見てみろよ」


 同室のシンラの声につられ窓の外に目をやると、ちょうど宇宙船は着陸態勢に入ったようだった。

この闇の惑星「ブルド」を目指しガイたちはギャラガ帝国から派遣された兵士、いわば戦闘員である。

 戦闘員といっても実際に前線に立つのは帝国騎士団を含む一部の精鋭たちなので、まだ15歳のガイらに緊張感はなかったが、それでも帝国の一員としてやるべきことは果たすつもりだった。


「やっとだね」


 ガイが答える。

 ブルドに潜む「覇王」の討伐、それこそがギャラガ帝国がガイたちを派遣した理由であった。謎の力で勢力を拡大し、いずれは宇宙の脅威ともなりうる存在。放っておくにはあまりにも危険すぎる。

 ギャラガ帝国を出発してから数ヶ月、長い旅だったが2人はそれだけ着実にあらゆる準備をしてきた。


「ああ、俺たちが宇宙を救うんだよ!」


 シンラが大きな腕でガイの背中を叩いた。相変わらずのパワーだ。シンラは体格とパワーだけなら仲間内でもナンバーワンの男だった。一方シンラと比べるとガイは体格はやや劣るが、それでも10代の男性にしては申し分ない肉体と体術、剣術のスキル、たぐいまれなる知能と運動センスを秘めており、間違いなく同年代の中でも頭一つ抜けた戦闘員だった。


「そう、僕たちがね」


 ガイはシンラの方をちらりと見てそう答えた。

船体がきしみ始め、さらに大きな揺れが再び襲った。

この時のためだ。この時のために僕は全てを捧げてきた。この時のためにこの強い意志を持ち続けてきた。あの日空に誓ったことをガイは思い出していた。彼はまだこの宇宙のどこかを漂っているのだろうか。

 ガイはギュッと強く拳を握りしめた。少し伸びた爪が手のひらに少し沈む。だんだんと揺れが激しくなり、ゴゴゴという音と共に船がブルドに降下する。

ついに始まるんだ。僕らの戦いが。


2.

 船が降下準備に入ったようだ。それと共に騎士団長が立ち上がった。


「諸君、準備はいいか」


 覆面をした団長がその場にいるメンバーに問いかけた。機械音で加工されたような、少しくもりがかった声が部屋中に響き渡る。あまり声を聞く機会がないので、やはりその奇怪な声は何度耳にしても聞き慣れない。団長の声に呼応するように騎士団内を静かな熱気が包み込む。

 現在は西暦2078年。ギャラガ帝国は地球との親交が深く、西暦という概念も地球からの影響を受けている(ちなみに地球とギャラガ帝国の西暦はほとんど一緒である)。

 この惑星ブルドに帝国が攻め込むのは初めてのことではない。昔から何度も訪れているが、その度に覇王により返り討ちにあっているらしい。というのも、キオ自身はブルドに来るのは初めてだった。

 キオは17歳という若さでありながら、女性初の騎士団メンバーに選抜された才能の持ち主だった。


「ふぅ……」


 キオは深く深呼吸する。


「なぁに、緊張してんの?」


 隣に座っているジャオが声を掛けてきた。


「別にそんなんじゃないさ。ただ……」キオは少し間をおいた。「ただ少し懐かしい感じがしたんだ」


 キオには幼い頃の記憶が無かった。たしかな記憶があるのは10歳頃からでそれ以前のものはほとんどない。ギャラガ帝国内で倒れているのをとある家庭に拾ってもらったのだった。

 そこの父親というのがギャラガ帝国の戦闘部隊の出身であった(現在は引退している)ため、キオはその頃からよく遊び代わりに様々な戦闘技術を教わっていた。

 月日は流れ、成長したキオが騎士団に入ると家族はとても喜んでくれた。だから少しでも彼らのために、帝国のために恩を返したい。そんな想いから今回のブルド派遣に参加したのだった。


「それってデジャヴってやつ?」

「ちょっと違う」


 キオは再びゆっくりと深呼吸をした。

 拾ってもらったときは記憶が無いことに絶望し、生きることに無気力だった。

 だけど今は違う。

 彼女をここまで育ててくれた家族のことを想いながら、キオは窓の外を見る。他にもたくさんの帝国の宇宙船が目に入る。若く階級の低い戦闘員などはそこにいるのだろう。

 その後、激しい揺れと共にキオら騎士団員が搭乗している巨大な宇宙船はブルドに着陸した。


「諸君、では行くぞ」


 団長が騎士団メンバーを見渡す。

 ついに始まるのか。

 キオはゆっくりと立ち上がった。

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