英雄
1から4話、加筆、修正いたしました
「っ…」
「だいじょぶか?幽道」
「ええ。…いたたた」
「なっさけねえなぁ。ただの高校生に痛手負わされるて」
「恥だ。」
「うるさいですね…だったら貴方達も戦ってみてくださいよ」
「戦うないうたのお前やろがい」
暴走者を使い、明を足止めした三人は階段で屋上へと向かっていた
「ていうか貴方達の方は、綴君捕まえられたんですか?」
「ちゃんと捕まえたわ。…アイツコッチがワード使えねえからってエラい抵抗しやがって」
「否定する。正確には追い詰めた段階でお前と合流した。」
「部下だけに任せてきたんですか?」
「細かいなぁ…流石にあの状況から逃げりゃせんやろ」
「それより『英雄』はどうするん?ここで使い捨てか?」
「うーん。出来れば回収していきたいですけど、明ちゃんの強さ次第になりますね。間に合わなそうなら勿体ないけど捨てていきます」
「了解。」
「あー。でも勿体無いですねえ…流石に。やっぱ一度戻って…ってでも多分私ワード割られてますし…うーんんん。」
「お前のワード『葛藤』なんか??」
「駄目だ。貴様が分析されたらどうする。」
「まあそうですよね…明ちゃんが早めに負けてくれることを祈りますか…」
「にしても階段長いなここ」
「本来はエレベーター使うはずですしね」
「なんで使わないねん」
「英雄と明ちゃんの戦いで止まったらどうするんですか」
「そもそも。もうつく」
「やっとかい。あー水が飲みてえ」
「ちょっ危な。押し退けないでください」
男二人が扉を開けた瞬間だった
「なに!?」
「うおお!?」
「二人共!?」
謎のオーラをぶつけられた二人がその場に倒れる
慌てて階段を駆け上がった女、幽道が見たものは化け物だった
開かれた巨大な本から生えた巨人にネクタイのような物質が巻き付いている
そしてその周りには6人の男女が倒れていた
「明ちゃんが入ってこれたのはこういうことですか…」
女が呆れた様子で呟く
「やりやがったな…」
「っ……」
「無理しないでください。恐らく『恋愛』の能力でしょう?」
男二人はその場で再び倒れる
「全く。部下だけに任せるからこういうことになるんですよ」
「こうならないよう誘導してたはずなんですがね…。誰かが余計なことしましたか」
少し考えるような仕草をしてから、女は手に青色に光る誘導棒を生み出す
「責任重大ですね私」
そう言うと誘導棒を一振りし、暴走者に向かって走り出す
―――――――――――――――――――――――――――
4月14日
『英雄』
―――――――――――――――――――――――――――
『アァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
「っ…」
ノートとペンを構え、目の前の暴走者を見据える
地面に突き刺さった大きな剣に無数の剣が連なった体をした暴走者。ぱっと見でも今までの3体より強く、危険だとわかる見た目だった
しかし、それらとは違い何故か攻撃をしてこない。先程から不動を貫いているのだ
…見た目から連想するなら『切断』、『戦闘』、『刃物』。行動から予測するならそのまま『不動』なんかだろうか
一応、ノートにメモを取る
しかし、それが終わった瞬間突如暴走者が動き出す
「ッ」
慌てて先程のように思考加速で相手の攻撃を考察する
右に避けろ
直接脳に下された命令を先程のように遂行する。するとその瞬間、暴走者の体を構成する剣が凄まじい速度で放たれた
シュッと風を切る音を聞いて肝を冷やした
一撃でも貰ったら不味い…
即座に次の行動を見極める
「…?」
がしかし、暴走者はまたしても動きを止めた
何かしらの攻撃準備の可能性も考えたが、そういった様子もない
ならばいっそ暴走者はここに置いてエレベーターで上に向かうか
どちらにせよ、私一人では何もできないし。そう考えた私は暴走者に背を向けようとした
…振り返れない
何故か逃げられないのだ
そして再び化け物が動き出す
左に避けろ
先程と同じように、命令に従う。しかし、結果は甘くなかった
先程のように放たれた剣は、私が立っていた地面と私の右腕を掠めた
「痛…!!」
思わず腕を抑える
なるほど…いくら予測できたとしても、それに体が追いつけなければ攻撃は貰ってしまうわけか
斬られた腕からはドクドクと血が流れていく
そして暴走者は再び動きを止めていた
…こちらが何か行動をする事に攻撃をしている…?
一度目の攻撃は私がメモをした直後、二度目の攻撃は逃げようとした直後…
早速そのことをメモ…って危ない
もしもその考察が正しいのなら、その行動で再び攻撃されてしまう
幸い、考えるだけならば行動に含まれないようなので、少し時間が掛かるが直接考えよう
まず見た目は剣。そして、能力は剣を飛ばすことと、振り返れなくする力
そして、こちらが行動を終えるごとに一発攻撃を仕掛けてきて再び停止する…まるでRPGゲームのように
…もしかすると本当にRPGゲームなのだろうか
今思えば地面に突き刺さった剣。という肉体も何処となくRPGに有りがちな伝説の武具を思わせる
そして振り返れない…逃げられなくなる力
例えばボス戦など重要な局面では撤退することが出来ないというのはゲームだと有りがちだ
そうなると候補としては『勇者』『遊戯』『魔王』『英雄』なんかが浮かぶ
見た目も加味すれば『勇者』か『英雄』の二択だろうか?
そこまで考えた瞬間。脳裏に情報が流れ込む
名前は有志 英人
無職 ではなくデクスの下っ端だ
昔からゲームが好きでいつかこんな英雄になりたいと思っていた
しかし、現実は最高で僕はワードに目覚めデクスの英雄になれた
デクスとはデクスだ
ワードは『英雄』
ずっと憧れたゲームの英雄だ!
…『勇者』と『英雄』。ほぼ同じ意味の言葉であるが故、二択でも正解扱いになったのだろうか?
いやそんなことはどうでもいい。彼のワードは『英雄』。理由も憧れと単純だ
そして、『英雄』になりたかった筈なのにこうして病院を襲い、人を傷つけている
否定する材料も十分だと大きく息を吸う
「貴方は英雄なんかじゃない!」
『ァァァァァァ?』
「こんな悪事をして、これの何処が英雄だ!!!」
『ァァァ!チガウ…ボクハ、ヤクニタツ…ヒトヲスクエル…エイユウ』
「…病院を壊すことが、人の命を危険に晒すことが…人を救うことなんですか?」
『ァァァァァァァァァ?…ァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』
姿が崩れ、中から男性が倒れてくる
ひとまず戦闘終了、男を縛ったらすぐに5階へ向かおう
いや、その前に二人にも連絡を入れるべきか
―――――――――――――――――――――――――――
「くっ…!!」
音もなく背後で発生した爆発を幽道は紙一重で避ける
幽道と対峙するのは先程と同じく本から生えた巨人。しかし、一つ相違点としてその体にはネクタイではなく導火線とイヤホンのコードが巻き付いている
「『孤独』と『爆破』の掛け合わせ…見事ですね…」
称賛しつつも攻撃の手は緩めず、手にした誘導棒を巨人に叩きつける
「それにしてもなんて強い意志…。この人達本当に余計なことをしたみたいですね」
音もなく起きる爆発を避け続け、隙を見ては武器を叩きつける
チラリと倒れている本来の『孤独』の能力者に目を向ける
息は荒く、目は虚ろであり今にも気を失ってしまいそうな見た目だ
それを見て、幽道の中にほんの少しの焦りが生まれる
というのも今回の事乃葉 綴誘拐を目的とした病院襲撃の要が彼である
明にも話した仲間や医者、患者がこの騒ぎの中誰一人として外に出てこない理由。それ自体は幽道のワードによる能力の一つ。しかし、それでは警察の介入を防ぐことが出来なかった
そこで彼女達は彼の持つ『孤独』の力を利用した
能力は孤独にする力。誰にも気づかれず話しかけらない絶対の『孤独』を作り出す能力
それを病院全体にかけることで病院内に誰も入ってこられない状況を作った
つまり、今彼女達に有利なこの状況は一重に『孤独』の力で成り立っている
彼が気絶し『孤独』の能力が解かれてしまえばその時点で警察が入ってくるのだ
そうなる前に事乃葉 綴を倒し、『恋愛』の力を解除させなければならない
そして、そのための切り札も既に用意してある…
「こちらです。『削除』様」
「こちらですじゃねえのよ」
突然、何も無いところから二人の男女が現れる
「ようやく来ましたか」
「…なるほど、お前の仕業か『誘導』」
「だから、しっかり名前で呼んでくださいと何度も…」
「読み同じだろうが」
「イントネーションが違うでしょう…っとそんなことしてる場合じゃありませんでした。あちらを」
「あん?…って暴走してるじゃねえか!!」
「すみません、少し目を離した隙にこんなことになってしまって」
「ボスに目離すなって言われたろ」
「仕方ないじゃないですか。何故かわかりませんが突然明ちゃんが来たんですよ」
「は!?尚更俺ここにいちゃ駄目だろ!?」
「私の力作が足止めしてるので大丈夫です。まあ万が一負けたら知りませんが」
「知りませんがって…」
「まあ、来る前にこの『試練』を終えればいいだけでしょう?」
「どうせ…こうなるように誘導したんだろ…。さっさと終わらすぞ」
『削除』と呼ばれた男がそう言うと、手にマウスを生み出す
「『学習』以外は後付けなので消しちゃっても問題無いと思います。多分あの巻き付いてるやつです」
「了解」
「それでは!」
幽道が手にした誘導棒を振るう。すると、綴の視線は幽道に向かった
『ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
その瞬間に起こった爆発を事前にわかっていまかのように回避し、更に距離を取る
それを逃さまいとまた綴も幽道の元へ動く。背後に回ろうとする男は一切気に留めずに
「この技、久しぶりにやったので手が疲れますね」
「うっかり止められたら爆死するから絶対やめろ」
綴が幽道に攻撃を続けている間に、背後に回った男は綴の体にマウスを叩きつける
すると、モニターのような画像が空中に投影された
「どうです!?」
「なんだこりゃ。訳分からん」
第一声は諦めだった
「まず能力の削除は無理だ。PCで例えるならすげえフィルター掛けられたフォルダの中に保存されてる」
「そうですか…」
「なんでこうする」
カチッと男がマウスをクリックした瞬間、暴走者としての綴の体が消失する
「Delete完了」
一言言うと男もまたその場から消えてしまった
「な…んで?」
そして、綴も困惑の表情を浮かべながらその場に崩れ落ちた
「ふぅ…危ないところでしたね」
綴の気絶により、能力は解除され倒れていた男女もすぐに立ち上がり始める
「あー。なんでよりにもよってアイツに頼むんや」
同じく能力の解けたらしい、関西弁風の男が幽道に歩み寄る
「一番近いのが彼だったんだから仕方ないじゃないですか」
「まーたグチグチ言われるで?コレ」
「そもそも元はと言えば貴方達のせいでしょう」
男の言葉に返答しながら倒れた綴を担ぎ上げる
そして、そのタイミングで屋上への扉がガチャリと開く
―――――――――――――――――――――――――――
「お兄ちゃん!!」
「…危なかったですね」
5階に兄の姿が無かったことを確認した時は手遅れだったのかと思ったがどうやらギリギリ間に合ったようだ
しかし…
敵は先程の3人を含めて男女9人、最低でも内一人はワード覚醒者…最悪の場合全員が覚醒者の可能性もあることを考えると、非常に不味い状況である
「『英雄』さんはやられてしまいましたか」
「お兄ちゃんを返してください…!」
「それは出来ない相談ですね」
「だったら…」
『解説』のワードを発動させる
「どないするん?幽道」
「戦闘。開始するか?」
「いえ、ここはお任せを」
余裕綽々といった表情で幽道と呼ばれた女はこちらへ近づいてくる
「鹿江 習、相条 実」
「!?」
先輩達の名前…なんでこいつが!
「先程貴方の考えを拝見させて頂いた時、見せてもらいました。ワードは『愛情』と『復讐』ですか」
「他には友人の小山 奏さん。担任教師の仙田 作治さん」
「お母さんの事乃葉 雪さんにお父さんの事乃葉 学さん」
「昔の友人の千幸ちゃんに、小学校の田山ちゃん」
「貴方は友人がとても多いようですね」
冷や汗が止まらず、足が震える
「もし、貴方が私達に危害を加えあまつさえ勝利するとなったらとても心苦しいですが、この方々は大変危険な目に合うでしょうね」
「は…」
「貴方をおびき出すための餌にされたり、貴方の情報を引き出すために拷問されたり…」
「ここで提案です。私達をここで見逃しませんか?」
「何を…」
「もし、貴方が私達を見逃すのならこの方々には決して手を出さないと約束しましょう」
「ま、あんさんも関係なくなるしな」
隣の男もそう付け足す
「ですが、もし戦うというのなら…やるしかないですね」
「さあ。3秒数えるまでにワードをしまってください?」
完全敗北というに相応しい結果だった
あの後、ヘリコプターが飛んできて奴等が兄を攫って飛び去るのを目の前で見送った
戦うことも出来ずに
『英雄』は病院襲撃事件及び患者誘拐事件の犯人として捕まり、それを足掛かりに警察も捜査を続けているようだが、ワードがある以上恐らく無駄だろう
また、今回、事件発生から数時間も警察が動かなかったという件で上部の人間が何にも責任を取らされたとニュースで報道された
悔しかった。奴等の勝利だ。関係のない人間が全ての責任を負わされこの事件は終わったのだ
…だが、負けっぱなしで終わるつもりも無い
私は事件当時、唯一事件に気がついていた者そして、目撃者として警察で質問を受けていた
その際、犯人が私達家族から周囲の人物まで把握しており、脅しをかけてきたことを話した。それにより、身の回りの人には一時的に警察の保護が入り安全が約束された
つまり、奴等の…デクスから課せられた縛りは解かれたのだ
ならばやるべきことは一つ。デクスを見つけ出し兄を奪還する