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Lost Inside―取り戻せない日々―  作者: 古見理英
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旧友

 可奈に続き、他の二人も私に質問する。私はただ、当たり障りのない返事を繰り返すことしかできない。


「ねえ、かっこいい人とかいるの?」

「どうかな。女の人ばっかりだからさ……」

「なんか理英は早く結婚しそうだよねー」

「そんなことないって……」

「理学療法師さんとかいいんじゃない?」

「いや、滅多に顔合わせなくて……」


 何て事のないありきたりな会話だ。ミサキが死ぬ前は、こんな何の生産性もない会話にだって積極的に参加していた。それでよかったし、ちゃんと楽しめていた。

 それなのに今は、ただただ退屈で面倒くさい。こんな会話に一体何の意味があるのか。何がそんなに面白のか。このハンバーグのどこか美味しいのか。どうしてこんな肉の寄せ集めに大切なお金を使わなきゃならないのか。

 何もかもが死ぬほどくだらなくて、クソのように思えた。こんな荒んだ思考が沸き出るなんて、明らかにいつもの自分とは違っていた。今すぐにでもカフェインを摂取して、心を落ち着かせたかった。


「それにしても、真央がこんなに早く結婚するなんて思わなかったよ」

「ほんとそれ。余計なお世話かもしれないけど大丈夫なの? まだ二十歳じゃん。私仕事の事しか考えてないよ」

「今時珍しいよねー」


 私の職場の話なんて無かったかのように、唐突に話は切り替わった。真央は口の周りについたソースを紙ナプキンで丁寧に拭いながら答えた。


「なんかさぁ、子育てしてる人って仕事でかなり不利だって言うじゃん? 今の時代女の人も普通に役職とかにつけるようにはなったけど、ぶっちゃけ人手不足だからでしょ? 子供産みますってなったら会社側はめんどくせーってなると思うの。だから、今のうちにさっさと産んじゃって、大学に通いながら育てちゃえば、後が楽かなって。海外とかではそうしてるらしいよ」


 真央は昔からそういうタイプだった。良くも悪くも日本人らしさがない。わざわざその他大勢と違う選択をしたがる。周りの目や自分が浮いた存在かどうかなんて気にも留めない、我が道を行くタイプ。私はそんな真央がとても好きで、同時にとても嫌いだった。


「まあ今の時代、専業主婦って選択も子育てしながらキャリアアップって選択も簡単じゃなさそうだしね……私はどうしようかなぁ。真央ほど仕事や結婚に対する意識は高くないし」

「うわー。みんなめっちゃ考えてるね! どうしよう。私全然考えてない! 来週の英語のテストとサークルの飲み会のことしか頭にない!」

「可奈は学生なんだから、それでいいでしょ。亜依だって大きい企業に勤めてるんだから、ライフイベントのサポートとかしっかりしてるんじゃない?」


 亜依と可奈が感心したように答え、真央がまたその答えに答える。

 一方私はというと、目の前にあるハンバーグをさっさと始末してしまおうと躍起になっていた。このメンバーなら普通に話ができると思っていたのに、何だかとてつもない居心地の悪さを感じる。一刻も早くこの「まとも」な空間から脱出したかった。皆が眩しくて仕方がない。この四人の中で、一番劣っているのは自分だという現実から逃れたかった。


「どうした理英? 大丈夫?」


 可奈から唐突にそう言われたのは、食後のコーヒーが運ばれてきた時だった。一瞬心の中を読まれたのかと思い、鳥肌が全身を駆け抜けた。



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