7、理由は意外と単純で
さすがに財前くんも最近の私の態度が違うことがわかったんだろう。
「俺、何かした?」と言われてしまった。
正直に言っていいか迷ったけど、このままモヤモヤした状態では財前くんに申し訳ない。
違うかもしれないし、気になるし、結局話すことにした。
「あのね、この前ゲームしてた時執事さんが呼びに来て、財前くんがいなくなった時に携帯が鳴ってね。たまたま画面が一瞬見えてね、見間違いかなと思うんだけど、その・・・」
「ああ、なるほどね。それ、見間違いじゃないよ」
「・・・」
財前くんにズバッと言われ、やっぱり見間違いじゃなかったんだとわかると、逆にこれ以上どうして良いかわからなくなる。
「篠原さんは俺と初めてあったのは借金返した日だと思ってるよね。だけど、俺は篠原さんのこと前から知ってたんだ。半年前のテニスの交流試合で、篠原さんに一目惚れしたんだ」
「・・・あんなに観客いたのに?」
「最初はかわいいくて、一生懸命応援する姿がなんだか眩しくて。最初は気づかなかったんだけど、試合終わってからも気になって仕方がなかった。それから、ごめん。気になって篠原さんのこと調べて、借金あることとか知ってた」
「そうなんだ、あの日出会ったのは偶然じゃないってこと?」
「いや、それは偶然。借金はなんとかしてあげたいなって思っていたけど、いきなりお金あげたらあやしい人になるだろう。だから特に何もしなかった。だけどあの日篠原さんの家の前通っていたら揉めている感じだったから、いてもたってもいられなかった」
「そっか、ありがとう。って、助けられた事実は変わらないのに、色々勝手にぐるぐる考えてごめんね」
「いや、理由がわからなくて盗撮とかこわかったよね。ごめん。そして、引かないでほしいんだけど実は写真はまだ何枚か持ってる」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
続く沈黙。
私もなんといっていいかわからなかった。
「・・・そうなんだ。・・・あの、私はこれからどうすればいいのかな?つきあう?」
笑顔で言葉を発したつもりでも、顔は思いっきり引きつっていたかもしれない。
でも、私には選択権はないのも同じだ。
1億円以上も払って貰っているのだ。
「俺が気持ち悪いなら、もう俺とは会わなくていいよ。お金のことも気にしなくていいよ。ほら、アイドルに貢いだと思って忘れるから」
財前くんて、いい人だよな。
お金を盾に言うこときかすのも可能だと思うのに、そんなことはしない。
気持ち悪いなんて思っていない。
でも、自分のことに一目惚れする人がこの世にいたことに驚いているし、戸惑っているのも事実だ。
「好きな人に好かれると嬉しいけど、好きでもないのに好かれる苦痛は他の人よりわかっているつもりだから俺」
イケメンの上にお金持ち。
それだけでもかなりモテていただろう。
その分、苦労もしたのかもしれない。
人の好きな気持ちを苦痛とまで言うぐらいには。
財前くんに気持ち悪くないよって、そんなこと思ってないのをどう伝えたらいいんだろう。
私は、財前くんの手を握った。
「気持ち悪くなんてないよ。気持ち悪い人にこんなことできないのわかるでしょう。驚いただけ。恋愛はしたことないから、そっち方面弱くて考えられなかったけど、これから考えるからとりあえず現状維持でいいかな?」
これだと、期待を持たせたような言い方になるかもしれないいけど、私にはこれが精一杯だった。
「俺、篠原さんのこと好きでいていいの?気持ちもう隠さなくていい?」
「うん」
「好きな人に認められるってこんなに嬉しいんだ」
鮮やかに笑う財前くんに目を奪われる。
おいおい。現状維持ってさっき言ったのに、私どうした?
しっかりしなきゃ。
と思いながら、私って案外チョロいのかもしれないと反省したのだった。