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4、突然のことに理解が追いつかない

母が入院してから2週間。

1週間と言われた入院予定は他の病気が見つかり延びていた。


父と2人の生活もなれたけど、母のことは心配だ。


父がぽつりと言った。

今月分の借金が払えないと。

原因はもちろん母の入院だそうだ。


待ってもらえるように頼んだけど、軽く笑われてなんとかしろと言われたらしい。


「父さんが死ねばいいのかな」

ぽつんとつぶやく父を見て、父がかなり追い詰めていることがわかった。


いつも笑っていた父。

何も言わなかったからって、平気な訳がない。


現に借金生活になってから、普通体型だったのに今ではすっかり細くなった。無駄な肉がない。


「やだな〜。冗談でもそんなこと言っちゃ駄目よ」


努めて明るく、空気が暗くならないように言った。


「そうだな」

と父は笑ったけど、やっぱり私がなんとかしないとなって思わずにはいられなかった。


*******


学校から帰り玄関に入ろうとすると、


「お嬢さん、この家の子?」

強面のおじさんに話しかけられた。

よく見るとおじさんの後ろにも似たかんじの人がいた。


人は見た目じゃ判断しちゃいけないとは思っていたのに、つい身構えて足もとに力が入った。


「何か用ですか?」


「実はお父さん借金があって、今月分まだ払ってなくてさ。何か聞いてない?」


「・・・」

下手なことは言えない。

なんと答えれば正解なんだろう。


父が頼んでも断られた話を聞いたばかりだ。

私が待って貰うよう頼んでも断られて終わりだろう。


土下座すればいいのかな?


でも私に出来るなんてそれぐらいしか思いつかない。

やるしかない。


私は膝を地面につけ、頭を下げた。


「母が入院していて、今はお金がないんです。退院したらきっと払うので、もう少し待ってください。お願いします」


反応が感じないので、私は再び


「お願いします」

と言ったけど、沈黙は続く。


「その年で俺たちに怯まず、頭を下げたことは評価するけど、無理なものは無理なんだ。それよりお嬢さんかわいいから、すぐ稼げるんじゃない?ちょっと年上の人に身体使って。なんなら紹介しようか?裏ビデオとか、女子高生好きなおじさんとか。色々すればあっという間に返せるよ」


私も馬鹿じゃない。

おじさんが言っていることはわかる。


即答は出来なかった。


「お嬢さん、考える暇なんてあるの?お父さんが払えないなら、キミがやるしかないんだよ」


腕を引かれ、無理矢理連れ去られそうになる。


抵抗はしなかった。

もう無理だと諦めたから。


父と母は悲しむ顔は一瞬うかんだけど、仕方ない。

それ以外に方法がないなら。


大丈夫。心が死ななければなんとかなる。

なんとかなるよ。


自分に言い聞かせた。


「何してるの?汚い手で触るな」

上から全く誰かわからない声がして、おじさんの手が離れた。


「はっ?なんだお前?」

「そうだ、そうだ。仕事の邪魔するんじゃねぇよ」


「仕事?連れ去ろうとしてたのが?」


「こいつの親が借金返さないのが悪いんだ。悪いのは俺たちじゃない」


「じゃあ、その借金は俺が払う。いくら?」


「お前になんて払えるわけが・・・!!」

「待て。この制服、聖王学園のだぞ。もしかして払えるんじゃないか?」

「いや、でも・・・」

「こっちは金さえ払って貰えばどうだっていいんだ」


ふたりのおじさんの会話は隠そうともしないのか、まる聞こえだ。


「毎月100万ずつの返済だ。残金は1億2千万だ」


そんなにあったんだ。返済に貯金崩しても借金が無くならないわけだ。


「わかった。じゃあ1億2千万払う。もちろん審査してもらってね。うちの弁護士通して。これ名刺」


目の前で名刺のやり取りが行われた。


何が起こっているんだろう。

てか、いきなり現れたこのひとは誰?


確かに聖王学園の制服を着ている。

だけど、私には聖王の知り合いなんていない。


横顔しか見えないけど、かなり顔が整っているのがわかる。

鼻が高くて、横から見てもこんなに綺麗なのだ。


おじさん達が帰った後、振り返る聖王男子。

改めて顔を見ても、やっぱり知らないし、顔面偏差値が高すぎなことはわかる。

目が大きく瞳は澄んでいて、髪はサラサラツヤツヤ。

ザ・王子様ってかんじだ。

この人の周りの空気はなんか違うと感じてしまう。


「・・・あの、色々理解が追いつかないのですが、名前を伺ってよろしいでしょうか?」


「俺の名前は財前ざいぜん和満かずま


・・・金持ちそうな名前だな。

まあ、聖王高校に行ってるぐらいだ。実際金持ちなんだろうけど。


「なんで財前さん?がうちの借金を???」


「気まぐれだ。気にするな」


「無理です。気にします。気まぐれで出せる金額じゃないと普通に思うんですが」


「じゃあ慈善事業だ。俺の家は金持ちだから、キミの家の借金を払っても生活に困ることはない」


「いやいや、知らない人から慈善事業だ気まぐれだと言われても納得出来ないし、ありがたくないし、素直に喜べません」


「・・・なぜ?」


「いや、全く喜べないかと言われたら嘘だけど、金額が大きいし、理由がわからないし。お金って、稼ぐの大変だし。私じゃ1億2千万円なんて簡単に返せないけど。モヤモヤするっていうか・・・」


そう、さっきからモヤモヤしてる。

本当に1億2千万なんて払ってもらっても、財前くんにはなんにもメリットはない。

需要と供給で仕事や経済ってまわるものだと思うけど、そのバランスがおかしい。


「何か返したいけど私じゃ思いつかないし」


財前くんは少し考えて、口を開いた。


「じゃあ、俺の家庭教師になって」


「・・・へっ?」

意外な提案に変な声が出た。







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