3、いつもどおりの日々が続くと思ったのに
「ちょっと話があるんだけど」
休み時間いつもどおり漫画を読んでいた私の前から声が聞こえたけど、私にじゃないだろうとそのまま漫画を読んでいた。
「聞こえてないの?無視してるの?感じ悪いよ。篠原さん」
自分のことだとわかり、上を向く。
私はちょっとじゃない。
感じ悪いのはそっちだよと思いつつ、口には出さなかった。
あっ、嫌な予感。
この人今の秀ちゃんの彼女じゃん。
「・・・何でしょう?」
「貴方秀一の幼馴染みなのは仕方ないとしても、仲良すぎ、距離近すぎ」
「まあ、親同士も仲いいし、そう言われても無理なんですけど。言うなら秀ちゃんにお願いします。秀ちゃんから言われたら私も考えますので」
私はズルい。
私にこう言うのは秀ちゃんには言えないからだろうと察しているのに、こんな言葉を返すなんて。
秀ちゃんはぼっちの私をほっとけないこともよくわかっているのに。
実はこれが初めてじゃない。
過去の彼女とも私のことで揉めている。
なんで知っているかといえば、秀ちゃんが報告してくるから。
そのたびに別れている。
葵が大切なことを理解出来ない彼女が悪いと。
秀ちゃんはいい人だし悪気はないんだろうけど、彼女になる人はかわいそうだと思った。
初めは驚いたけど、何回もあるから最近は、またか。となっている。
慣れって恐ろしい。
だけど、秀ちゃんと私がよくても、世間的には彼女>幼馴染みなのだ。
「かわいそう。佐藤さん」との声が聞こえる。
佐藤さんっていうんだ。今の彼女は。
だけどその佐藤さんもこうして周りの同情されるような状況を作ることに私と同じぐらいの性格の悪さを感じた。
佐藤さんはその後何も言わず返った。
次の日に私が性格が悪い最悪な女だとの噂が広がったみたいだ。
思わずため息が出る。
私のぼっちの生活はまだまだ続きそうだ。
*****
家に帰ると、いつも迎えてくれる母の声がしない。
不思議に思いつつ居間に行くと、母が倒れていた。
ちょっとしたパニックになり、とりあえず秀ちゃんに電話した。
息はあるか確認したか?
もしものことがあるからあまり動かさない方がいい。
救急車を呼べ。
声を掛け続けろ。
秀ちゃんの的確な指示により落ちついた私は救急車が来るまで必死に声を掛け続けたのだった。
結果は疲労だった。
母は借金のため、2つもパートを掛け持っていた。
さらにたまに内職までしていた。
全然休みなく働いていた。
母に心配になって体調を聞いても大丈夫としか言わなかった。
だから、気づかなかった。
家の手伝いはしていたけど、全然足りなかったかも。
私もバイトするって言ったけど、父も母も学生時代は今しかないから大切にしてとバイトに反対で家の手伝いしかしてなかった。
自分の不甲斐なさに涙が出た。
しばらく入院するらしい。
目が覚めた母は父と私に心配かけてごめんねと謝った。
入院費用も心配していたけど、父は大丈夫だからと笑った。
病院を出て、父と家に帰るがずっと無言だった。
母が倒れたのは自分のせいだと落ちこんでいるみたいだ。
父は借金生活になってから、お酒も煙草もやめた。
禁煙って難しいとよく聞くけど、父の意思は固かったみたいだ。
この生活になってからみんな我慢して慎ましく暮らしているのに、なんで借金は無くならないんだろう。
借金がいくらあるか聞いたことはないけど、3000万ぐらいは払っているはずなのに。
ラジオをBGMに晩ごはんを食べる。
新聞もとっていない、テレビがないうちには唯一の情報源だ。
晩ごはんといってもキャベツの千切りにご飯だ。
キャベツの千切りがもやしになったり、芋だったりとかはあるけど、基本はこれだ。
たまに秀ちゃんの家から差し入れもあるけど。
本当に秀ちゃんと秀ちゃんの家族には一生頭が上がらない。
で、冒頭に戻る。
教室の窓から隣の金持ち学校の生徒が笑うのを見て、ため息をついた。
世の中不公平だ。
父も母も何も悪いことしてないのに。
なんでこうなったんだと。
生活環境に不満はあれど、父と母は好きなのに。
生まれ変わってもまた父と母の子どもでいたいと思っているぐらい大好きなのに。
最近そんなことを思う自分が嫌だった。