08 美少女、美女、初恋
地下牢に続く階段をスキップしながら駆け下り、宙返りしながらワープし、ワタシは想いを馳せた。
キャバクラのためとはいえ、父に随分と面倒な仕事を押しつけられたと思っていたけど、前言撤回、こりゃ近年稀に見る素晴らしいお仕事だ!
サバーカとかもうクソどうでもいい。
人体実験すらもはや若干どうでもいい!
ワタシの人生における優先順位は、「女の子>魔法≧自分>>家族(男)>超えられない壁>その他」だ。
これを話すと大概蔑んだ目で見られるんだけど、冷静に考えると世界人口の半分を自分よりも優先しているんだから、聖人と言っても過言ではないんじゃないかと思う。
これを熱弁すると、更にごみを見るような目で見てきたあの連中は一体何なんだろう。
「うひひひ、十七人もいるんだから、一人二人くらいは救出したワタシに恋心とか抱いちゃってもおかしくないよね?いいよワタシは受け入れるさ、その恋を!どうぞワタシの胸に飛びついてきたまえ女の子たちよおおおお!!」
煩悩と欲望、もとい意思と使命感に身を任せ、ワタシは階段を降り切った。
地下牢には召喚魔法で呼び出されたらしき魔物が門番として数体いたけど、百分の一秒ですべて薙ぎ倒し、ついでに申し訳程度に仕掛けられていた罠魔法も破壊した。
そして、十七の生体反応を確認し、最初に全員の認識操作を一気に解いた。
ワタシは弟と違ってМではないので、認識操作によってワタシを蔑んでくる女の子にはちょっとしか興奮しない。
まあまあ高度な術式を用いていたようだけど、ワタシにかかれば一瞬なので何の意味もなさなかった。
よくよく考えればこの時点であの………もう名前忘れたけど、あの元・七星の男の作戦は崩壊してた気がするけど、まあ興味ないから別にいい。
あれ、認識操作を解除する術式ってそういやワタシ、世に出したっけ。なんか作って満足しちゃって出してない気がする。
って、今はそんなことどうでもいいわ。
「【漆黒魔法:暗き世への誘い】!大丈夫かお嬢さん方、助けに来たよさあほら出ておいで早う!」
もはや鍵を一つずつ開ける時間すら惜しかったので、暗闇の別世界に引きずり込む魔法で牢屋の扉を全部消し去り、叫んだ。
いくつかの気配が少しずつ、恐る恐るという感じで徐々に近づいてきて、やがて数人の顔がワタシの目に飛び込んできた。
ワタシは危うく吹っ飛ぶところだった。
「あ、あの、これはどういう………?」
「もしかして、あなたが助けてくださったのですか?」
な、な!
なんという美少女力!?
美少女戦闘力、十万、二十万………馬鹿な、まだ上がるのかっ!?
「え、あの、大丈夫ですか?」
「涎、垂れてますけど」
「はっ!………じゅるっ。ゴホン。大丈夫ですよ美しいお嬢さんたち。もう大丈夫です、ワタシが助けに来ましたから。あなた方を監禁などという世界一の重罪を犯した男共は既に仕留めましたので、ワタシはあなた方のハートも仕留めたいじゃねーや、安心してリラックスしてください」
「は、はあ………」
危うく本音がでかかったが、とりあえずこの美少女たちを落ち着けることには成功した。
なんだか今度は困惑したような顔になってる気がするけど、これはこれで可愛いから別にいい。
「じゃあ一気に城まで行っちゃうか。【空間魔法:テレポ―」
「あ、待ってください!」
「んあ?」
魔法を途中でキープしつつ、慌てたように呼び止めてきた美少女の言葉に耳を傾ける。
「どうしたんだい、日焼けのラインがエr………麗しいお嬢さん」
「あの、この奥にもう一人いるんです。最後に入ってきた子で、そのすぐ後に意識が朦朧としちゃったから覚えてます。その子も助けてあげてくれませんか?」
意識障害の原因は、あの上の野郎共のワタシにこの子たちをけしかけるつもりでかけた精神魔法の影響だろう。
最後の一人をここに収監して、一気に全員に魔法をかけたわけか。
探知を放ってみるとなるほど、最奥の方に反応がある。
あっぶね、ワタシとしたことが見逃す所だった。
「じゃあ助けてくるから、ちょいと待っててね」
ワタシは一応美少女たちに結界魔法を張り、奥に進んだ。
奥の扉は、他の美少女たちを閉じ込めていた扉よりも厚く、さらに魔法で堅牢度を強化されていた。
それこそ、並みの魔導師じゃ一ヶ月くらいかけないと破壊できないくらいには凄いものを。
「なんだこんなもん」
その程度だったのでお構いなしに魔法ごと扉を蹴破り、中に入った。
その牢は今までの牢よりも広く、そして物が充実していた。
食事も良いものが用意されていて、明らかにこの場所が別格扱いされているのが分かる。
そしてワタシのお目当ての少女は、驚いたように吹っ飛んだ扉を見ていた。
「大丈夫ですか可哀想に!もう大丈夫ですよワタシが助けに来た、か、ら………」
その少女が、ワタシの声に反応して顔を上げた、その瞬間。
ワタシは人生で初めて、思考がすべて吹っ飛んだ。
こんな別室用意されてるんだからよっぽどの美人なんだろうなとか。
なんとか丸め込んでうちの城で雇えないかなとか。
そんな邪な思いは、ワタシの中でまるで浄化の光に当てられたかのように消え去り、ついでに魔法理論の研究資料脳内データもいくつか吹っ飛んだ。
「…………?あなたは?」
その美しい声を聴いた瞬間、脳を支配されてしまうような錯覚を覚えた。
ワタシのすべてが、本能的に彼女に吸い込まれていくような、かつてない感覚。
思春期に入ったあたりからずっとワタシの中で渦巻いていた欲望、というか性欲が急速に異常を訴え始め、それが劣化なのか活性化なのかが自分の中で判断付かなくなった。
「もしかして、わたしを助けにきてくれたの?」
どんな時でも並列に動き続けていたワタシの思考が、すべて彼女に向けられていく。
何が言いたいのかというと、どどのつまり。
「大丈夫?呆けてるけど、わたしの声聞こえて―――」
「結婚してください」
「えっ」
ワタシの好みドストライクだった。




