42 “人類最強”
「はあ……仕方ないわね。カグヤ、手貸して」
「うん、さっさと終わらせよ。見世物にされるのはともかく、ユリル様のいいようにされるのは屈辱以外の何物でもないし」
「一応確認だけどあなた、ユリル様のこと好きなんだよね?」
「大好きだよ?」
「歪みようがすごい……」
後ろでまだギャアギャア騒いでいるソレイユをユリルがいなし、その隙にシズカとカグヤは、ユリルの魔法で少し先に転移した。
二万以上の軍勢が、王都に向けて侵攻している。
それを止めるのは、たった二人の魔導師。
だが、魔導王国全土で配信されている映像を見ている国民たちは、全員一切心配などしていなかった。
「どうする?ボクが一気に刻もうか?」
「いや、もうちょいで来るはず」
「ん?」
敵の座標確認後、既にシズカは魔法を発動していた。
届くまで少し時間がかかるが、代わりにその破壊力は、魔導王国で発される全魔法中最大のエネルギー量では、ユリルを除けばダントツのトップ。
「【天体魔法:隕石招来】」
ユリルがいなければ間違いなく世界最強の魔導師であったであろう少女、シズカの本気の魔法が敵のど真ん中に降り注いだ。
一瞬で衝撃と共に魔物たちが蒸発していき、直撃を食らわなかった者たちも天高く吹き飛んでいった。
『おおっ、シズカってばさすがの殲滅能力!今ので二万三千四百二十一匹死んだよ!あと七千三十二匹!』
「はいはい……」
「割と本気だね、シズカ。隕石まで使うなんて思わなかったよ」
「正直、さっさと終わらせたいんだよね。カンナ様をお一人にさせてるし」
「本当に、シズカは七星の鑑みたいだねえ」
既に魔物は進軍を止め、目の前で起きたことを何とか理解しようとしている。
しかし、そんな隙をそう長い時間与えられるはずもなかった。
「【獄炎×天体魔法:シリウスバースト】」
「【閃光×暗黒魔法:魔王の光芒】」
容赦のない攻撃が、残党に降り注いだ。
二つの魔法を同時に発動出来れば大魔導に片足突っ込んでいると言われるこの世界で、更にその二つの魔法を複合するという神業。
それをこなせるからこその、七星大魔導第一位と第二位。
“人類最強”としてこの世に召喚された異世界人と“人外”極限魔導の弟子としての威厳。
少し離れたところで、来るはずもない残党を待っている他の七星は、その様子を見て。
「あたしたちも一応は大魔導としてそこそこ強い自負はあるけど―――やっぱりあの二人は別格よねえ」
「……マジでうちら要らなかったじゃん。つか、もうあの二人だけでいいんじゃないの?」
「くっそおお!オレも戦いたかった!」
「逆に凄いねソレイユ、あのバケモン共にまだ勝とうとか考えてるなんて」
「………」
呆れたように、シズカとカグヤという大魔導最強の姿を見ていた。
「【凍土×暴風魔法:ヘイルガトリング】」
「【暗黒×閃光魔法:セイクリッドデス】」
二人が魔法を使うたびに、面白いように敵が吹っ飛んでいく。
それを見た魔導王国の国民たちは歓声を上げ、国外の魔導師や各国重鎮は震えあがった。
ただでさえユリルという人外がいるのに、更にこのレベルの魔導師がいるという現実。
魔導師は、魔導王国国外では希少だ。
魔法の才能を持つ者は、世界人口の約20%。そこから自らの武器として仕える人数となるとさらに少ない。
現に、魔導王国以外の国では一級魔導師すら二十人いれば多い方、大魔導は一国に三人いれば、その国は軍事力が高い国とされる。
なにせ大魔導一人の戦力は、核爆弾とほぼイコールなのだから。
しかし魔導王国の大魔導の数は、その十倍の三十人。
更に七星大魔導の実力は大魔導の中でも突出しており、特にカグヤは同格であるはずの大魔導を三人、シズカに関しては十人はまとめて相手できる。
九人外という、神と見紛うほどの能力を有する怪物がいなければ、世界で最も恐れられていたのはこの二人だっただろう。
「あと百」
シズカが呟き、カグヤの右手から黒い光線が走った。
光は僅かに残っていた敵を薙ぎ祓い、塵へと変えていく。
「終わった?」
「取りこぼしも無し。任務完了」
『はい、終了~!!流石は七星一位と二位、見事見事!順調に人間離れして行ってて、ワタシも鼻が高いよ』
「褒められてないね」
僅かに五分。
たったそれだけで、三万近かった敵は壊滅した。
七星大魔導の強さを目の当たりにした国民たちは、自らの魔法の研鑽により力を注いでいき、魔導王国を疎んでいる国々ではその対策が練られ始める。
特に、魔導王国を目の敵にしているエプリ聖国ではその動きが強かった。
かつて【神聖魔法】と呼ばれていた自国の専売特許を【回復魔法】と括られて奪われ、しかも自分たちが召喚した勇者様すら吸収される始末。
再三シズカに戻ってくるよう懇願したが、時すでに遅し。
聖国を一切信用しておらず、更には心酔する相手すら見つけてしまったシズカが、魔導王国から離れる理由はなかった。
その状況を報告され、動揺を見せなかったのは――たった一国。
世界一位の大国、ユリルと同格九人外の一柱。
剣霊ドロウスを有する、オメガ精霊帝国だけだった。
「いやー、七星諸君、お疲れお疲れ!急な仕事で悪かったね」
「「「「「「本当だよ(ですよ)」」」」」」
「わー、誰一人として謙虚な姿勢を見せない。いいね、やっぱり魔導師ならそれくらい不遜じゃなきゃ」
「そもそも、全国放送するなんて聞いてなかったんですけど?私服で行っちゃったのにどうしてくれるんです、せめてなにか報酬とか」
「今回の報酬は、君たちが望むであろう物をワタシの方で用意したんだけど。ほら、メロには要らなくなっちゃった宝石箱」
「やぁ~ん、ユリル様愛してます♡」
「メロ、チョロすぎだぞ!オレたちをかりだした挙句に活躍すらさせなかったんだぞ、そんなもので買収されてるようじゃ」
「ソレイユにはこれ」
「……?なんだこれ」
「空間魔法を閉じ込めたキューブだよ、それをどっかで放り投げればワタシが作ったトレーニング用の異空間にいつでもどこでも無料で入れる」
「またいつでも呼んでくれユリル様、オレなどでよければ馳せ参じるからな!」
「あたし、報酬とか要らないんで帰っていいっすか。今ならマリィ様を愛でても定時で帰れるので」
「あ、要らない?マリィと二人用のペアチケット旅行券有給休暇付きを用意したんだけど」
「いやーやっぱり時代はユリル様ですよね。マジ尊敬っす。一生憧れてます」
立て続けに三人の七星を堕とすユリルだった。
残った四人はどうにかして文句を言えるようにと身構える。
「アスピー、これグランの爪ね」
「おおおおおっ!やはりユリル様は素晴らしい!このアスピー、あなたの直属の部下として生涯身を捧げる所存ですぞ!」
速攻で一人堕ちた。
「………」
「で、そこで『どいつもこいつもチョロすぎる』みたいな冷めた目してるクリュス。ここに召喚魔導師用に王家が管理してる、魔獣の赤ちゃんとのふれあい許可証が」
「………!?」
クリュスは無言でユリルを抱きしめ、許可証に何度もキスをして去って行った。
「……どいつもこいつも欲に忠実だね」
「人間だれしも欲ってのはあるもんよ。ワタシは人よりそのツボを心得てるだけ、おかしな反応じゃない」
「ふぅん。でもまさかと思うけど、ボクとシズカにあんなチンケな報酬出すわけじゃないよね?一応国を救った英雄に該当してるよ?」
「別に私はそんな……」
「おっと、ここにカンナ様の幼少期のアルバムが」
「ユリル様、おっぱい触ります?」
「シズカ落ち着いて、報酬だから。そんなこと言ったらユリル様の思うつぼだよ」
「カグヤには―――」
「ボクが一番欲してるのはユリル様の無様な姿だよ?でもそれはボクが自分で作るから与えられる必要は」
「『いたずら薬キット』を用意したんだけど」
「………え、マジ?」
全然関係ないですけど、最近リコ○コに前代未聞レベルでどハマりしてます。




