40 瞬殺
「さあ、会議を始めようか」
ワタシは力強くそう言い、七人の顔を見渡した。
このワタシの話だ、きっと全員が身の引き締まる思いで聞いていることだろう。
「……いや、会議を始めようって。どうせあなたが大本の原因を潰して、我々がこっちに向かってきてる雑魚を狩るってだけでしょう?」
「実際それが一番簡単だもんな。もっと言えばオレたちが出なくたって、ユリル様が全部やりゃいいじゃねーか」
「そこに関してはあたしたちの力を見せつけるって考えがあるのは分かるけど、この会議は絶対必要ないですよね、念話でいいじゃないですか。なんで呼ばれたんです?あたしたち」
「あれだよ、どーせユリル様はボクたちを七人並べてハーレム気分味わいたかっただけだって」
「じゃあ断ってよ、傍付きはあんたでしょうカグヤ。私は面倒だから来たくなかったのに、骨折り損じゃん……」
「ヒヒヒ、わたしは別にユリル様の防御を試せただけで収穫ですので文句はありませんがね。しかしもう目標は達成したのでさっさと帰って研究に没頭したいところですな」
「………」
おっとお?
おかしいな、誰一人として身が引き締まっていない気がする。
無口のクリュスすら、ワタシを非難するような目を向けているような。
そしてどうしよう、カグヤの発言が九割ほど図星だったために何も言えない。
「あ、黙った。カグヤの考えがビンゴっぽいね」
「カグヤぁ、いちいちいちいち呼ばれるこっちの身にもなってよ。これから雑魚狩りってだけでも憂鬱なのに、なんで前もって集められなきゃいけないのよ、めんどくさいことこの上ない……」
「ボクに文句言わないでよ、ボクはユリル様の命令に従っただけだもん」
「おいおい、ユリル様の命令なんて聞きやしない自由人のお前がどういう風の吹き回しだよ」
「こうなることが分かってたから、七星みんなから愚痴られて微妙な顔になる無様なユリル様が見たかっただけ」
「あなたのその性格の悪さも相変わらずだね」
「よーし一旦みんなストップ、これ以上散々言うと、ワタシの魔法で『ユリルさまだいちゅき♡』って言わせる刑に処するぞ。あとカグヤは後で話がある」
全員が押し黙った。
「では、改めて会議を始めようか」
ワタシが無理やり作った重苦しい雰囲気に、今度は誰も言わなかった。
いや、シズカがワタシを見て「碇ゲ〇ドウ……?」とよく分からないことは言ってた。
「今回の作戦を説明する。まずアスピー、あなたは待機。王都全域の護衛にあたってもらう」
「かしこまりました!」
「ちなみにサボって研究に没頭した場合、グランの爪の話はなかったことになる」
「……ちっ」
露骨に嫌な顔したアスピーだけど、これは仕方ない。
「他の六人は、王都に向かってきている魔物の対処に当たってもらう。数は推定で三万。シズカとカグヤが先行し、うち漏らした敵を他の四人で対処してほしい。ワタシは大本の原因を潰しに行く」
「ですからさっき私がそれ言いましたよね」
「シズカ、そんなにワタシに『ちゅき』って言いたいの?カンナ姉様の前で」
「やめてくださいカンナ様に勘違いされるのは我慢なりませんなんですか何をご所望ですか土下座ですか私如きの軽い頭でカンナ様への誤解を回避できるのであれば」
「じょ、冗談だって。だから起き上がって、女の子に土下座させる趣味はないから」
「相変わらずカンナ様のこと大好きだねシズカ」
カンナ姉様はその程度でシズカを誤解するような人ではないし、それをシズカも分かってるだろうけど、それはそれとして本気で嫌なんだろうな、このカンナ姉様至上主義ちゃんは。
それはともかく、国内で絶大な人気を誇るこの子に土下座させたって話が出まわったら、いくらワタシでも大炎上間違いなしなので勘弁してほしい。
「あー、うん。とりあえずそういうことで。ワタシが転移させるからみんなよろしく。どうせ妙な命令されるより各自で動いた方がやりやすいでしょ?」
「そうだな」
「ですね」
ワタシがいうのもなんだけど、七星はどうしてこう、チームワークってもんがないんだろうか。
ともに力を合わせて戦ったことなんて数えるほどしかないし、ワタシの命令すら無視するやつもいる始末(主にカグヤ)。
互いに仲が悪いわけじゃないし、むしろ良い関係の子たちだと思うんだけど、いざ戦いになると、こう……強いんだけど嚙み合わない。
マジで力合わせたのって、シズカが入って間もない頃にワタシと1対7で戦った時くらいじゃない?
あの時はすごかったなあ、この子たちが手を取り合えばこんなにも強大な力が出せるのかと驚いたもんだ。
まああの時は、一発だけかすり傷を負っただけでワタシが勝ったけどね?
「じゃ、全員頑張れー」
ワタシはパンッと手を叩いて、即座に全員所定の場所に転移させた。
ただ正直、シズカとカグヤさえいれば今回は事足りると思う。
万が一にもこの王都に被害を届かせないように全員配置したけど、シズカとカグヤは二人で他の五人まとめて倒せる強さがある。
特にシズカは、国内外で『人類最強』と呼ばれるほどの卓越した大魔導だ。
まあその人類には九人外は含まれてないんだけど、要するにそれは世界で十番目―――魔人王はもうこの世界にいないから、実質九番目に強いということだ。
その強さは、ワタシのところのウェリスやユウマのとこのラスティのような、最上位悪魔すら屠ることが出来ると予想されるほど。
カグヤも、あんなでもワタシの弟子。
シズカには及ばないにしろ、元七星第一位、単身で軍隊を相手取れる天才。
それに加えて、永久凍土魔法によってほんの僅かな時間ならワタシに近い能力を出せるクリュスをはじめ、現状の七星大魔導は歴代最強の布陣となっている。
心配する方が失礼ってもんだ。
「じゃ、ワタシはワタシの仕事を果たしますか」
【探知魔法:キングダムロケーション】で王国内の全生物を知覚。
一際大きい反応を、王都から少し離れたところにある巨大な森に発見する。
「体長10,7メートル、体重9.2トン、強さは七星の下位クラス。ソレイユやメロと互角くらいかな。それにこの姿、拙いながら知性を感じる。言語も理解してるのかな?てことは『真獣』の元眷属ってとこか。タイランティスめ、いずれ会うこともあるだろうし、文句言ってやろ」
思ったよりは強いかな。
でもワタシの相手にはなり得ない。
あそこにいくまでもない。
というわけで、この場で魔力を集中させた。
「【宇宙魔法:スターダストレイド】」
通常の魔導師は、自らの体、あるいは杖などに代表される触媒に魔力を集中させて魔法を発動する。
第一級や大魔導にもなると、自分から離れたところ、例えば敵の背後に魔法を発動させる事も出来る。
ただこれは、自分の魔力を体外に送れる距離の問題で、体から切り離した魔力は距離が離れれば離れるほど操作が難しくなり、失敗すると魔力が霧散して不必要な消耗をする。
大魔導の登竜門の一つとされる魔法の遠隔発動。七星の中ではカグヤが有効範囲二〇〇メートル、シズカなら一キロ離れたところで発動可能。
対してワタシの有効範囲は、半径約七〇〇キロ。
ここからでも、対象の至近距離から発動できる。
敵はワタシの魔法を初撃こそ避けたものの、数百発の星屑による襲撃をかわしきれるはずもなく、一瞬で体中に風穴が空いて絶命した。
ついでにそいつを崇めてた魔物もすべて駆逐。
「ほい終わり。んじゃ、後は任せたよー、七星の諸君」




