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04 魔導師と神官は複雑な関係

「うおっぷ」


 の、飲みすぎた。

 父上にあんだけ自信満々に言っといて、自制出来なかったわー。


 でもこれは仕方がないと思う。

 三日もの永い間会うことが出来なかったあの美女及び美少女の大群。

 ワタシが入った瞬間にキャーキャー言ってくっつけてくる、あの大小さまざまなれど、どれも美しい双球。つーかおっぱい。

 あの、こちらにストレスを与えまいという素晴らしいトーク術と、ちょくちょく組み替えてくるおみ足。というより太もも。


 そりゃー、酒も進むわ。

 そりゃー、馬鹿みたいに高いのジャンジャン注文するわ。

 そりゃー、シャンパンタワーだって始めるわ。

 だってみんな喜ぶんだもの。


 彼女達の瞳に乾杯しまくって、箍なんざ一瞬でぶっ壊して、お腹がたっぷたぷになるまで飲んださ。

 理性?何それ、美少女と飲む酒より美味しいの?


「おぶっ!あ、ヤバいかも………」


 むしろこんなに羽目を外したにもかかわらず、任務を忘れていなかったワタシの使命感と責任感を褒めてもらいたい。

 まあとはいえ、こんな状態じゃあ流石に、仕事中に敵に見つかってしまう可能性が0.1%くらい存在する。

 それはまずい。

 仕方がないので、頭に手を当てて。


「ヒック………【全治魔法:アンチドランク】」


 一気に気分の悪さと若干の高揚感、すべての酔いが一気に消えた。

 この魔法、あんまり好きじゃないんだよなあ。

 気分の良し悪しはあるものの、酔っているという感覚が一気に冷めるのは、なんというかこう、虚しさを覚える。

 仕方がない、諸々終わったら部屋で飲み直そう。


「あーあ、勿体ない………。それもこれも全部仕事が悪い。要するに怪しまれるようなことした教会が悪い。何も無くてもなんかでっち上げてここ潰してやろうか」


 決意を新たに、ワタシは路地から出て、堂々と教会の入り口に向かった。


 シラユキ教の教会はかなり大きく、魔法無しで走ったら入り口から最奥まで大体十秒くらいかかる。

 高さも四階建ての建物程度はあって、上はステンドグラス。

 マジで敷地面積の無駄なのでさっさと撤去するか、別の地に移しちゃいたいんだけど、ワタシが何度かシラユキ教と戦り合ってるって理由でこれ以上向こうと揉めたくない父がずっと残しているというわけだ。


 まったく、聖職者ってのは何故ああも心が狭いのか。

 ただ『回復の術は神の力であり、魔導師の「術式」ではなく神官の深い「信仰心」が源となる』とかすっとぼけたこと言ってたのを全否定して、回復魔法とその上位である回帰魔法、最上位の全治魔法の術式を編み出し、信仰心が強い人間が今まで使えたのは術式に重要な要素の一つである「妄想力」が強すぎたせいで無意識になんとなく術式を使えていただけだという論文を世に出して、魔導師でも回復魔法を使えるようにしただけだというのに、やれ神への冒涜だの神敵だの大袈裟な。

 最終的に、毎日のように届くワタシへの術式の撤回命令と侮辱文にブチ切れた父上の「これ以上うちの娘に暴言吐くならテメーらこそ魔導王国の敵として潰してやるから覚悟しろよおうハゲコラ」的な鶴の一声で、向こうも大人しくなった。

 まあそのおかげで、元から反りが合わなかった教会との関係は致命的なまでに大悪化したけども。

 父上は「なんでコイツのためにあんなに我を忘れてしまったんだ」と未だに後悔してるらしいけど、本当になんであそこまでやったのか。


 まあというわけで、ワタシはシラユキ教の熱心な信者や教会そのもの、ひいては総本山であるエプリ聖国に死ぬほど敵視されてるので、基本的に教会には近づかない方がいいはずなんだけど、今もこうして堂々と中に入ろうとしている。


「【念動魔法:アンロック】」


 並の魔導師なら苦戦するような魔法妨害の工作が施されてたけど、ワタシには通用しない。

 いくつもある鍵穴をすべて魔法で開けて中に入る。

 念のため不可知化をかけてから侵入したけど、杞憂だったようで誰もいなかった。

 中を物色してみたけど、なにもない。

 あるのは聖職で使う道具くらいだ。

 怪しいものどころか、ここに運び込まれたはずの大量の食品やらなんやらすら見当たらない。


(隠すならもうちょい上手く隠せっつの。こんなん秘密部屋があるって言ってるようなもんだわ。【探知魔法:空間把握】)


 この辺一帯のすべての空間を知覚する。

 ………ああ、アスピーが分からなかった理由はこれか、やっぱり一部に探知の類いに引っかからないようにする結界が施されている。


「小賢しっ」


 まったくもって浅はか。

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 ワタシが作った術がワタシに通用するか。


 結界なんて簡単に突破して、その場所を割り出す。


「女神像の背中って。なんつー罰当たりな」


 面倒なので女神像をぶっ壊して、その中が空洞になってるのを突き止めた。

 ここから先、遥か地下に別の空間があるのを確認し、いくつかあったロックを破壊して、ワタシは地下道の中に足を踏み入れる。


「【再生魔法:アナスタシス】」


 壊しちゃったお詫びに最上位の再生魔法で新品の時まで女神像を戻して、ワタシは探知をしながら歩き始めた。

 途中にあった侵入者用の警報と迎撃の魔法もすべて先に術式に干渉して使い物にならなくして、下り坂になっている道を進む。

 しかし、大分地下まで続いてるな。


「【空間魔法:テレポーテーション】【未知魔法:アグノスティシズム】」


 面倒なのでショートカット。

 この先に人がいるみたいだし、ここからはさすがに不可知化が必須なので同時に発動。

 不可知化は結構神経使うから、出来れば長時間はこのままでいたくない。

 さっさと終わらせよ。


【探知魔法:ライフロケーション】で調べた感じ、この地下にいる人間の総数は149人。

 今すぐ捕らえたいところだけど、さすがに何の罪もなかったりしたら、いくらワタシでも人体実験の被験者にするのは憚られる。


 149人の、好きにしていい、成人前後の、健康な、人間………。


 おっと涎が。

 あ、勘違いしないでほしい。エロい目的では断じてない。

 ただ、あの連中が全員国家反逆級の目論見を企てていたりしてくれれば、久しぶりに人体実験が出来るというだけ。

 最近はワタシの名が通り過ぎたせいで、魔導王国で重罪を犯そうとする輩がめっきりと減ってしまった。

 まったくどこの誰だ、ワタシに捕まったら死ぬより恐ろしい拷問に合うなんて根も葉もないデマを吹聴したバカは。

 たしかに死ぬより酷い目に合った連中は若干名いたけども、あれは拷問じゃなくて、王国の利益となるとても素晴らしい実験だっつの。


 この国の最も重い刑罰は『死刑』じゃなくて『人権剥奪刑』。

 ワタシが被験体に出来るのは人権を既に奪われてただのモルモットと化した、ワタシすら引くくらいのヤバイ犯罪犯した連中だけだから、人間を使った実験なんて素晴らしい機会はめったに来ない。

 しかしこの先にいる連中が全員それくらいの犯罪者なら、いくらかはワタシ、というよりかは『ユリルの塔』に流れてくるはず。

 つかどんな手使っても流させる。

 うちの愛すべきマッド共の手にかかれば、きっと彼らを有効に活用できる。

 まあ被験者の方は死刑囚を羨ましいと思えるような実験の日々かもしれないけど、それは阿呆やらかしたソイツの責任なのでワタシは知らん。


 あーあ、なんかこう、すっげえ巨大テロリスト団体だったりしないかなあ。

 全員半殺しにして連行してさ?

 他人の体の術式に干渉して無理やり魔導師としての才覚を引き延ばす実験ってのを丁度思いついたところだったもんだから、体が疼いて仕方がない。

 ついでに可愛い女の子がいたら堂々とセクハラが出来るな、うん。

 なんだ、最初は気が乗らなかったけど、良いことづくめじゃないの教会襲撃。

 あれ?襲撃じゃないっけ?調査?


 ま、同じようなもんだわ。

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