39 集結・七星大魔導
暴走?
なんてタイムリーな。
やけに慌ただしいけど何が暴走したというのか。
少し成り行きを見守ろうかと考えていると、ワタシの方を見る二つの目線に気づいた。
「……フィーネ、カグヤ、何見てんの?」
「えっと、暴走って言うから」
「うちで暴走って言ったら九割はユリル様だもん。今度は何したの?」
なんて不名誉な!
「なにもしてないよ!今回は暴走するような魔法実験は全部オフってから来たし!……カグヤその目やめてくんない、主人を信じられないわけ!?」
「この点においてユリル様を信じるわけないじゃん、子供が焦りながらする弁解よりも信憑性がない」
「言い訳じゃないっつの!あっ、フィーネその顔やめて、信じて絶対ワタシじゃない!」
なんだか呆れたような顔をし始めたフィーネに、ワタシは涙目になりながら必死に縋りついた。
「いいよ!それなら聞いてみればいい!【空間魔法:転移】!」
「おっと」
ワタシはユリルの塔の中層に転移した。
驚いたような魔導学者たちの顔を無視して、ワタシはここの責任者に近づく。
すると彼は一瞬驚いたような顔をして、すぐに顔に喜色を浮かべた。
「ああっ、ユリル様!お帰りになられて何よりです、もしあなたが遅くなったらどうしようかと!」
「暴走がどうとか聞こえたけど、何があったの」
内心ちょっとドキドキしながら聞いてみると。
「魔物の暴走です!王都の西北西方面から、大量の魔物がこちらに近づいてきております!おそらく、元の生息地に圧倒的強者は現れ、居場所を追われた者たちかと!」
……。
セーフ!!!
ワタシじゃなかった!
あっぶね、これでワタシだったらフィーネに、またあの顔されるところだった!
「ほら見ろ!ワタシじゃないじゃん!」
「そうだったんだ、疑ってごめんね」
「いいんだよフィーネ」
「ユリル様、ボクは信じてたよ!」
「お前は後で絶対パンチだから!」
寝ぼけたことを抜かし始めたカグヤに、ついに暴力をふるうことを決心し、ワタシは思考を切り替えた。
「魔物の数は」
「観測段階で二万五千を超えていました。今では三万に上っている可能性もございます」
「強さは」
「雑魚からそこそこのものまでかなりそろっております。追い出した魔物は相当の強者ですね」
「予想到達時間」
「あと一時間半ほどかと。国民の避難は、さすがに空間魔導師を総動員しても間に合わない計算です」
「オッケー。避難させる必要はない、なんとかする」
「「「おお!」」」
「ワタシは父上の所に行ってくる。カグヤ、七星大魔導を全員招集、十分後に第二会議室で作戦を説明する」
「りょうかーい」
「フィーネはここにいて。一時間でなんとかしてくるから」
「分かった。気を付けてね」
「大丈夫だよ、ワタシは世界最強だからね」
そう言い残して、ワタシは父上の元に転移した。
既に開かれている扉が、ワタシを招いているのを知らせてくれる。
「父上!」
「やっと戻って来たか!どこに行っていた!」
「ちょっとグランのところまで」
「むっ、げっ、ぐおっ………!」
父上は倒れそうになったけど、何とか気絶を踏みとどまって、胃を抑えた。
「そ、その話は後でゆっくり聞こう。状況は聞いたな?」
「はい、ワタシは原因となっている強力な魔物の対処に」
「こちらに近づいてきている数万の魔物の方は?」
「七星を総動員します。幸いまだ距離があるので、アスピーを除く全員を転移で送り込んで敵をズタボロにし、万が一うち漏らした場合を考えてアスピーだけ王都に残していけば完璧です」
「お前なら向かってきている魔物を一撃で全滅させる事も容易ではないのか」
「出来なくはないですけど、たまにはワタシだけじゃなく七星の強さを国内外に知らしめるべきでしょう」
「なるほど。わかった。頼むぞ」
「了解です」
ワタシは父上にそれだけ伝えて、会議室に転移。
これからここには、七星大魔導の諸君が集まってくる。
あの美女たちを、このワタシが出迎えなくてどうする。
座っていると、扉が開け放たれて一人の女性が入ってきた。
赤くて長い少しぼさっとした髪、真っ赤な瞳、赤い軍服、とにかく真っ赤に染めあがった、ワタシより少し年上に見える。
「来たぞ、ユリル様!オレに何か頼みごとがあるんだって?」
「うん、さすがに早いねソレイユ。今日も美人でオレっ娘で最高」
「はっはっは、相変わらずあなたの言うことは良く分からないな!」
いの一番に会議室に入ってきたのは。
七星大魔導第六位、『灼星』ソレイユ・ミルティクレイ。
【豪炎】【付呪】の属性使いの熱血美女で、今年で二十歳。
一番最近七星入りした大魔導。
続いて、静かに扉が開かれ、金髪美人が入ってきた。
けど、首から下げているものっすごい金ぴかなネックレスの方に大抵の人は目が行くだろう。
「ユリル様、今回のこれ、ボーナスはいりますよね?」
「ワタシが父上脅してでも入れてあげるよ」
「さすがユリル様、最高の金づ……王女です!」
七星大魔導第五位、『明星』メロ・シャトーレイン。
【轟雷】【光】【鏡】属性を操る貴金属マニア。
十九歳で、つい先日ワタシたちと行動を共にして、強盗を捕まえて報酬でウハウハしていた。
次は、そもそも扉は開かれなかった。
ワタシが父上の扉を破壊するのと同じように、扉に人型の穴が空けられ、彼女が入った瞬間に即座に再生された。
「……めんっどくさい。私パスじゃだめですか」
「させてあげたいけど、七星のお仕事だからね。頑張って」
「はあ……私はただ、マリィ様を愛でながら自堕落に生きたいだけなのに」
超絶面倒そうに入ってきたのは。
七星大魔導第七位『再星』インヴィー・メルトグラス。
顔は童顔で愛らしく、身長もワタシより小さいけど、茶髪はソレイユ以上にボサボサで、所々跳ねている。これでも今年で二十二歳だったかな。
序列最下位ではあるものの、それは自分の序列に一切興味がなく、不戦勝で他の子たちが上がってしまうだけで、実際はシズカ、カグヤに次ぐ第三位級の強さを持つ大魔導。【暴風】【再生】【反撃】【破壊】の四つの属性を操る。
さて、続いては音もなく扉を開け、ワタシに向かって超音速の弾丸を放ってきた女。
勿論余裕で弾いたけど、撃った本人はたいして気にしていないようで、面白そうに笑ってこちらを観察している。
「ヒッヒッヒ……やっぱり当たりませんねえ。一体どんな魔法を展開したのか!嗚呼興味深い、調べたい、解剖したい!」
「相変わらずで安心したよ。あっ、グランハーデスの爪貰ったんだけど、少し分けてあげようか?」
「!?め、冥界竜王のっ、爪!!ぜひ、ぜひ、ぜひこのわたしめに!!」
七星大魔導第四位『凶星』アスピー・ヴェスターパール。
性質は七星の中で最もワタシに近いマッドで、【岩石】【洪水】【探知】属性で、遥か遠くから敵を狙撃する。命中率は99.7%(ただしワタシには当たったことがない)。
ユリルの塔の副責任者でもある、七星最年長の二十七歳。
次は、普通に扉を開けて入ってきた、超弩級の美少女。
何も言わずに部屋に入ってきて、何も言わずに椅子に座った。
「おいおい、挨拶も無しか!相変わらずだな!」
「………」
「やっほ、今日も顔の造形がとてもいいね」
「………」
「そう?ありがとう」
「………」
「いやいや、そんなことないって。そんなこと言ったら美人が台無しだよ?」
「なんでユリル様は、クリュスのことが分かるんだ!?」
ソレイユに絡まれて少し顔をウザそうにしかめた、超無口な子。
七星大魔導第三位『冷星』クリュス・ハイドレイン。
水色の髪をショートにして、その透明感のある瞳は吸い込まれそうな美しさがある。ワタシと同じ十七歳。
喋ったところをほとんど見たことがないけど、地味にワタシとは七星の中でカグヤの次に仲が良くて、よく遊びに来る。
クリュスは少し特殊な魔導師で、平均で三~五程度の属性適正がある魔導師が多い中、この子は氷系の属性にしか適性がなかった。
ただ、その才能は非常に高く、氷属性を究め続けた結果、ワタシと同じ領域―――氷属性の頂点、【永久凍土魔法】にまで到達した天才だ。
今度は扉がバアンとあけ放たれ。
「ユリル様、全員呼んだよ~!仕事したからユリル様をいじめていいよね?」
「なんでそうなる、さっさと席につけ」
「籍につけ……?もう、本当にユリル様ったらボクのこと大好きだね!」
「なんでそうなる!」
すっとぼけたこと言いだしたのは勿論。
七星大魔導第二位『戦星』カグヤ・ファウスト。
【閃光】【暗黒】属性を操る、七星の中でも埒外の強さの一人。
他の説明は省略。
最後に。
普通に入ってきたのは、黒髪ポニーテールの美少女。
相変わらずおっぱいでかっ。
彼女が部屋に入ってきた瞬間、場の空気が少し緊張する。
完璧に隠しているワタシと違い、その膨大な魔力が少し外に漏れているからだ。
「遅れてしまいましたか?すみません、ユリル様」
「大丈夫だよ。相変わらず可愛くて巨乳だねえ」
「セクハラで訴えますよ」
異世界からの来訪者。
七星大魔導第一位『天星』シズカ・ジングウジ。
おそらく、九人外を除く全生物中最強の少女。
かつて魔人王を殺す戦力として選ばれた「勇者」にして、この場にいる七星を全員、無傷で降した最強の大魔導。
四大属性魔法を限界一歩手前まで習得した、【獄炎】【大海】【暴風】【天体】【凍土】【落雷】の六つの属性魔法、そして【回復】すら操る。
「良く集まってくれたね、七星の諸君。さあ、会議を始めようか」




