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38/43

38 確信

「そうか、この姿を知っているの竜は多くなかったね。驚かせてしまったかな」

「大丈夫だよ、元のあなたのパンチの効いた外見に比べりゃ」

「それもそうか。じゃあユリル、少し僕らは離れたところで話をするとしよう」


 グランの人化の正体は【変身魔法】。

 魔人王殺しの以前、初めて会った時、グランにちょっとコツを教えたらすぐに習得した。

 さすがは九人外。まあ当時はワタシ、ユウマ、ドロウスが名前に加えられてなかったから六人外だったけど、感心したもんだ。


「カグヤはフィーネと一緒に色々と見て回らせてもらいな。ここの竜はほとんど温厚だし大丈夫」

「うん」

「えー」

「えーじゃないわ」

『ウェリス、万が一の場合は体張って二人とも守ってよ』

『へいへい』


 フィーネの陰に潜んでるウェリスにも指示を出しつつ、ワタシはグランの方を振り向いた。


「どこか良いところある?絶対に誰にも聞かれないような場所」

「この奥にかなり大きなダンジョンがあるよ。その最深部なら大丈夫じゃないかな」

「なるほど、じゃあそこ行こう」


 ワタシはグランを連れて、探知に引っかかったダンジョンの最深部に即座に転移した。

 超大きな石像みたいなモンスターがいたけど、速攻で破壊して黙らせた。


「よし、じゃあちょっと話そうか」

「ああ。おそらく、あのフィーネという子に関してだろう?」

「やっぱ気づいてた?」

「彼女の特異性は僕の能力をもってすれば分かる。彼女の魂―――あんな形のものは見たことがない」

「さすが冥界竜王、慧眼だね」


 ワタシはグランに事情を説明する。


「なるほど。完全に記憶を消されたか、一から創り出された生物か、か。それにその犯人は九人外、あるいはそれに匹敵する力の持ち主であり―――僕も容疑者の一人ということか」

「まあ、平たく言えばそういうことね」

「疑われている僕にそうやってストレートに聞いてくるのは君らしいね。だが確かに、僕の魂魄操作なら疑われても当然だろう」


 グランの『魂魄操作』は、簡単に言うならあらゆる生物から魂を抜き取り、操れるという力だ。

 そのまま魂を天に召すことも、あるいは魂を融合することなんかも可能。

 グランが他の竜王の力を使えているのも、その力によって自分の魂と殺した竜王の魂を融合させているから。


「だけど、信じてもらえるかは分からないが、僕の魂魄操作でも一から魂を生み出すことは出来ない。あくまで僕は『操作』だからね、量を増やしたりすることは出来ないのさ」


 魔法で感知した感じ、嘘はついてない。

 ただ、グランが他の竜王の力で魔法を誤魔化しているという考えも出来る。

 友達を疑いたくはないけど、これに関しては「はいそうですか」と鵜呑みにするわけにもいかないのだ。


「ただ、一つだけ断言できることがあるよ」

「それは一体?」

「あのフィーネという少女の、魂についてだ」


 思わずワタシはグランに食い入るように寄ってしまった。


「なに?何か分かったの?」

「さっき言ったけど、彼女の魂はひどく変わっていた。あんな魂は、五千年生きていて見たことがない。その特異性は、今まで出会った九人外の誰よりもおかしかった」

「ユウマよりも?」

「ああ。彼に似てはいたが、彼よりもはるかに妙だ。なんというか、酷く歪だった」

「歪んでたってこと?」

「ああ。だから―――いや、回りくどい言い方はよそうか」


 グランは厳しい顔をして、ワタシが予想した言葉を言い放った。


「結論を言おう。彼女の魂は―――何者かによって作り出されたものだ」

「……たしかなの?」

「断言できる。彼女の魂はおそらく、ユウマの魂の形をベースに何者かが改良を加えたものだ。彼女がユウマの無限覚醒能力に近い力を発動したというのも、それで辻褄が合う。竜王の魂をすべて引き入れている僕自身の魂よりも歪な形をしているというのは、人工物としか考えれられない」


 グランが嘘をついている可能性はあるけど、それを疑ったらここで止まる。

 ここはとりあえず、グランが嘘をついていないことを前提で話を進めよう。


「誰がそんなことをしたか、心当たりは?」

「すまないが、ない。だが僕の仮説が本当としたら、僕以外に魂の観測が可能な誰かがいるということになる」

「それが出来るとしたら、他の九人外以外に考えられないね。……やっぱユウマか?今の所ダントツで怪しいのはあいつだけど」

「そうだね。だが確証はないし、彼の仕業に見せつけたい他の誰かの可能性もある」

「……やっぱ、全員に会っていくしかないか」


 無限覚醒能力で魂を観測するグランの能力が芽生えてる可能性を考えると、ユウマの可能性が最も高い。

 だけど、現状に満足しているユウマがそんなことをするメリットがない気もする。

 やっぱり容疑者を全員洗い出していかないと、フィーネを創り出した何者かの正体には行きつかなそうだ。


「でも、グランとユウマを除くとワタシが関わりあるのはドロウスだけ―――あいつに会いに行くの嫌だなあ」

「ははは。なら、僕の知り合いの方に先に行ったらどうだい?」

「お!紹介してくれるの?」

「ほかならぬ君のためだしね。ただ、僕がすぐにコンタクトを取れるのは一人だけだ。正確には君、ユウマを除けば顔見知りは三だけど、うち二はすぐに会えなくてね」

「それでもありがたいよ。ちなみに誰?」


 ワタシがそう聞くと、グランは少しいたずらっぽい顔を浮かべて。


「『羅刹悪鬼』イリア。四百年前、暴走した僕をたった一人で倒した鬼人だ」

「……そうきたか」


 イリア、か。

 数万年前、僅か二十体で全世界を支配していたと言われる最強生物・鬼人の先祖返りにして、世界最強の身体能力とあらゆる属性に対する絶対耐性の抱き合わせ。

 あまりにも強すぎるその力は、本人ですら制御が効きにくく、彼女は世界の果てにある小さな孤島でひっそりと暮らしていると聞く。

 あと、超美少女らしい。

 もう一回言おう。

 あと、超美少女らしい。


「よっしゃ採用!じゃあ次の目標はイリアだね」

「ただすまない、彼女の魔法耐性は僕の念話すらはじくんだ。だから彼女とコンタクトを取るには、直々に誰かを向かわせなければならない。僕が行くのが一番早いんだが、僕は動くだけで世界を混乱させてしまうから」

「側近の誰かを向かわせるしかないってわけね。どのくらいかかる?」

「ざっと四日というところかな」

「まあ、それくらいなら国でゆっくり待ってるよ。頼んでいい?」

「承知した」

「ちなみに聞いとくんだけど、イリアって美少女って情報と世間で知られてる話以外ほとんど知らないんだけど、どういう人なの?」

「僕は人間の美醜はよく分からないが、美少女というのを知っているのは君らしいね。まあそうだな、とても良い子だよ。僕を倒した後も随分と気遣ってくれたし、おそらく全九人外の中で最もマトモな性格をしている。最強でなければ、ただの人間の少女と変わらないほどにね」


 俄然楽しみになってきた。

 強すぎるということ以外は無個性で、可愛くて、性格も良い鬼っ娘か。

 最強かよ。

 あっ、最強(九人外)か。










「ではユリル、またいつでも連絡してくれ」

「うん、爪サンキュー」

「えっと、ありがとうございました」

「どうもです」

「ああ、フィーネ君もカグヤ君もいつでも遊びにおいで」


 いくつかの打ち合わせをした後、ワタシたちはグランたちの元を去って王国城に戻ってきた。


「ユリル様の戯言かと思ってたけど、本当に良い人――じゃなくて竜だったね」

「もうちょっと言い方ない?」

「うん、凄く親切だった。なんで歴史書で凄く悪い竜みたいに語られてるんだろ」

「あー、あの本なんだけどね、あながちウソってわけでもないんだよ。七割くらいは本当のこと」

「え?それ、あのグランさんが世界を壊そうとしたってところも?」

「うん。っていうのもね、グランの魂に関係してるんだけど」

「グランハーデスの魂って、他の竜王のが混じってるんだっけ」

「そうそう。普段はグランの強靭な魂で抑え込んで、むしろその能力を十全にグランは引き出せるんだけど―――五百年周期で他の九体の竜王の力が増して、その間の約半日だけグランは自らの魂を制御できなくなる。つまり肉体の主導権がグランから九の竜王に移っちゃうわけ。まあグランは必死に抑え込もうとするから本来の力の八割しか出せないんだけど、それでも世界にとっては大脅威でね」


 その被害を最小限に抑えるため、グランは他の強者と契約し、自分が暴れそうになった時は止めてもらうようにしている。

 それがミレーユ・ユグドラシルやタイランティスのような、永い時を生きてる人外たちだけど、それでも完全に止めきれないことがあり、それが結果としてグランの悪名を作り上げた。


「ま、前回の暴走は四百年前だから、次はあと百年後。心配しなくても大丈夫だと思うよ」


 その頃ワタシはどうなっているだろう。

 時間魔法で体の時を止めて、引き続き研究に没頭しているか。

 あるいは天寿をまっとうしようとするか。

 長い時を生きると人生観も変わってくるというけど果たして。

 ワタシはそんな哲学的なことを考えながら、城の中に足を踏み入れ―――。



「暴走だああああああああああああ!!!」

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