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37 冥界竜王

感想欄でご指摘頂きましたが、フィーネの見た目の変更がありました。

『白色の髪と銀色の目』⇒『黒髪と翠の目』です。

カグヤと見た目が被る気がしたので変更入れました。

 その場に座しているだけで、大抵の生物なら呼吸すらままならなくなる威圧感。

 第三者が見れば、百人中百人が邪悪な竜だと思うその容貌は、まさしくワタシの友人。


「随分手厚い歓迎だね?ワタシとしてはもっと質素でも良かったのに」

「何を言う。僕にとって恩人と言っても過言ではない君を冷遇したとなっては、眷属はおろか妻と子にも顔向けできない。これくらいはね」


 しかし見た目からは似合わず、紡がれる言葉はとても穏やかで、声色も聞いていて心地いい。

 周りを竜で囲ったのも決してワタシへの威圧ではなく、竜なりの純粋な歓迎だ。

「あなたはこれだけの竜を集められるんですよー」的アピールって言えばわかりやすい?


「だけどユリル、一人ではなかったのだね。いや決して責めるわけではないんだ、ただ君がユウマ以外とここに来たのを見たことがないから」

「ああ、それが今回あなたにしなきゃいけない話ってのに関係あるんだけどさ。右でワタシの服を握ってる超絶可愛い美少女が、ワタシの結婚相手(予定)のフィーネ。左で青い顔して震えてるのがワタシの幼馴染で、傍付きのカグヤね」

「そうかそうか。ユリルの結婚相手と傍付き。カグヤについては名を聞いたことがあるよ」

「ひぅっ」

「おっと、怖がらせてしまったなら申し訳ない、どうも僕は人の子にとっては凶悪な姿をしているようでね。僕を見てまったく震えない人間はユリルくらいのものだ。だが僕は君らに危害を加える気はない、安心してくれ」

「へっ、あ……はい」


 そのグランの真摯な様子が予想外だったのか、カグヤはキョトンとした顔をして、フィーネも少しワタシの服を掴む手を緩めた。


「僕はグランハーデス。これでも竜族を束ねる長のようなものをやっている。よろしく」

「は、初めまして。フィーネ、です」

「ど、どうも、カグヤ・ファウストです。えっと、ユリル様がお世話になってます?」

「はっはっは、むしろ逆さ。僕がユリルに世話になってばかりだよ」


 グランが笑い、その様子を見たカグヤがワタシの方にアイコンタクトを取ってきた。

 まるで「どゆこと?」とでも言いたげに。

 伝え聞くグランの姿と、実際に見た様子のギャップが凄まじくて混乱してるんだろう。




『冥界竜王』グランハーデスについての歴史。

 約五百年周期で人類に厄災を齎し、九度世界を滅ぼしかけた人外級強者。

 ただ、世界が危機に陥ると、それを面白く思わない他の強者―――後の九人外、『真獣』タイランティスや『創造主』ミレーユ、『羅刹悪鬼』イリアに止められることで、結果的に世界は滅びずに済んでいる。


 ―――というのが、グランハーデスに対する世界の間違った歴史だ。


 本来のグランハーデスは、強さこそ九人外に数えられて当然のレベルであるものの、『冥界竜王』とか言う物騒な二つ名にも関わらず、争いを嫌い調和を好む、好戦的な種族のはずの竜の中では珍しいくらいの穏健派だ。

 ワタシが片手間に調べた限りでも、随分と作られた歴史やグランに罪がなすりつけられたものもあり、その無茶苦茶ぶりたるや、ワタシが同じ立場だったらその改竄自体を理由に世界を滅ぼしていたかもしれないほど。

 むしろそれだけの仕打ちを受け、自称正義の味方に幾度となく襲われたにもかかわらず人を見限らないあたり、グランハーデスの柄の良さが窺える。


「グランハーデスは四千年前、自分以外の竜王を皆殺しにしてその力を奪い、現在の世界最強の能力を得て人類を滅ぼそうとした―――って伝説では語り継がれてるよね」

「うん、読んだ本で見た。『冥界竜王を止めようとした他の竜王を吸収した邪悪なる竜』って」

「はっはっは、やはり僕は人の世ではそんな風に言われているのか。ユリルに昔聞いた通りだ」

「……そう言うってことは、何か違うの?」

「違うね。グランハーデスが竜王を皆殺しにしたことと、その能力を吸収したのは合ってる。でもその経緯が伝説とは逆なんだよね。他の竜王が人類を滅ぼそうと画策したグランを止めようとしたんじゃなくて、グランが他の竜王を止めたの」

「てことは、人類を滅ぼそうとしたのは他の竜王たちの方ってこと?」

「そゆこと。その辺の詳しい経緯は知らないけど、グランは止めても無駄だと判断したらしくて」

「やむを得ず一体ずつ殺してその力を奪取したのさ。僕のオリジナルの能力『魂魄操作』によってね」

「無茶な真似するよ。()()()()()()()()()()って―――出来てもやらないよ普通。ワタシすら。………多分」

「言い切ってくんないユリル様」


 グランハーデスは九人外で唯一、生まれた時からの圧倒的強者ってわけじゃない下克上型。

 一介の竜王に過ぎなかったグランハーデスが唯一生まれ持った能力が魂魄操作―――魂を操る能力。

 この力が冥界竜王という二つ名の由来であり、格上の竜王すら殺せた力。

 これがどれほど凄い能力かというと、魂の観測というのは歴史上でグランハーデス以外は実現できていないのだ。

 この極限魔導(ワタシ)すら、魂というものの存在証明は成していない。

 出来ないことがほとんどないワタシが、新たな生命を生み出すことは出来ない理由の一つがこれだ。


「君のような我の強い人にこの能力があれば、僕のような凡竜より余程竜王の力を使いこなせただろうにね。運命というのはまかり通らないものだ」

「ねえ、それ褒めてる?馬鹿にしてる?」

「さあ、どちらだろうねえ」

「あーあー、長寿なヤツってこういうところあるよね!」

「そう怒らないでくれ、友人として少しからかっただけじゃないか。それに君だってそこそこな年数を生きているだろう?」

「まだ十七年しか生きてないけど」

「あれ?まだそんなものかい?君と出会ってからは濃い日常で、五十年は経っているものかと思っていたよ」


 時間感覚がイカれてるのは長寿種族にありがちだけど、五千年も生きてる最古クラスの竜なら猶更。

 今更驚かない。


「さて、雑談はこれくらいにして本題に入ろう。とりあえずユリル、例の件のお礼だ」

「うん、ありがたく貰っとくよ。グランの爪は錬金の最上位素材だしねー」


 よっしゃ、これでストップしてたいくつかの研究プランを進められる。


「ユリル、例の件って?」

「グランの奥さんが妊娠中に病気しちゃってね、すっごい戸惑ったグランから念話かかってきたから治してあげたの。ちょっと前に無事に生まれて、母子ともに健康らしいよ」

「恥ずかしい話だ。あとでその息子も見てくれ、僕の六十四男さ」

「六………?」

「うわあ、流石は竜」

「まあ、僕の話は後でいいのさ。それでユリル、僕に話があるとか?」

「ああ、うん。それについては―――」


 ワタシはチラリと後ろを見て、カグヤにアイコンタクトをとった。

 カグヤは察してくれて、一つ頷く。


「二人で話したいかな、結構重要で聞かれたくない話だし」

「わかった。なら少し待ってくれ」


 グランはそう言うと、体の魔力を集中させ始めた。

 すると、みるみるグランの体が小さくなっていく。


「え?え?」

「なにごと!?」


 驚く二人だけど、この魔法をグランにアドバイスしたのはワタシなので驚かない。

 ちいさくなったグランは、そのシルエットも変わり始めた。

 鱗は黒い肌となり、凶暴な顔は整った顔立ちの人間の少年のようになり、ツノは控えめの長さになって、代わりに地面まで届こうかというくらいの黒い髪が現れ、翼はワタシの指くらいまで小さくなる。

 すかさず横にいた竜が、グランに布を渡し、グランはそれを服のように纏った。


「ふう、待たせたね。この体も久しぶりだ」

「おー、相変わらず顔面強いね。まあ男だからワタシは守備範囲外だけど」

「そうなのかい?それは残念だ」


 全然残念じゃなさそうににこりと笑う、すっかり美少年と化したグランハーデス。

 フィーネとカグヤ、そして奥の方にいた数頭の若い竜が、それを呆気にとられたかのように見ていた。

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