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33 娘が絡まなくても父は苦労する

 ユリル(馬鹿娘)の傍付き―――カグヤが帰ってきたという報告を受けたのは、私が政務で印を押していた時だった。

 あのユリルすら手を焼く問題児の帰還に、ただでさえ荒れている私の胃は若干悲鳴を上げたが、まあそこまでではなかった。

 なにせあの自由人は、ユリルに対して以外は基本的に目立った被害を起こさないし、たまに仕掛けるイタズラもユリルの起こす魔法実験の被害に比べれば可愛いものだ。

 なにより面倒くさがりであるゆえに私に直に報告に来たことがない。最後に顔を見たのもいつだったか覚えてないほどだ。

 だから私は、油断してしまった。


 ―――ヒュンッ!


 妙な音が聞こえ、同時に膨大な魔力反応を感じて、慌てて目線を机から扉に向けた私は、その光景にうんざりした。

 まただ、また扉が壊された。

 今回は扉の中心にバカでかい穴が空けられたようだ。大方、光系魔法のレーザーだろう。

 冷静に分析した後、うちからこみあげてくる激情に任せて私は大声を出した。


「今度は何だユリル!!いい加減普通に扉を開くということを覚え………ろ?」


 しかし入ってきたのは、犯人だと半ば確信していたユリルではなく。


「カ、カグヤか?」

「………………」


 なんとその傍付きの方だった。

 まさかこの扉をユリル意外に破壊される日が来るとは。


「どうした。お前が私のところに一人で来るなど珍し」

「おじさん。あれ、どういうこと?」


 仮にも国王であるはずの私の言葉を遮り、国王をおじさん呼びするという他国なら大不敬罪で即処刑ものの行いをしつつ、ずかずかと部屋に入り込んできた。

 しかも恐ろしい剣幕で。

 私は扉のことをこれ以上咎める気にもならず、ただたじたじの状態だった。


「な、なんのことだ?あれとはなんだ?」

「あのフィーネって子、誰?」

「ああ、フィーネ君に会ったのか。お前がいない間、ユリルにとある仕事を依頼してな、その時に」

「そんなことはどうでもいい」


 向こうから聞いて来たことに冷静に答えようとしたのに、理不尽にもまた遮られてしまった。


「ボクは、ユリル様の婚約者ってどういうことかって聞いてるんだ。本当なの?」

「まあ、今現在はユリルが一方的に言ってるだけだし、名目上はユリルの実験対象ということになっているが―――フィーネ君自身には断るつもりは無いようでもあった」


 再び痛んできた胃を何とかこらえながら答えてやると、カグヤは今度はふらりと数歩後ろに下がり、頭を抱えて蹲った。

 何が起きているのかさっぱり分からないが、なんだかショックを受けている様子だ。


「ど、どうしたんだカグヤ。大丈夫か?」

「―――せない」

「ん?」

「許せない」


 許せない?

 何がだ?


「ユリル様―――ちょっとボクが目を放しただけで、新しい女を連れ込むに飽き足らず、言うに事を欠いて結婚?どういうつもりなの?すぐそばに、こんな美少女がいるっていうのに」

「よく分からんが、お前のその自信過剰は直すべきだと思うぞ」


 伏せながらブツブツと爪を噛みながら何か言っていたカグヤは、急に頭を挙げ、私に詰め寄ってきた。


「うお!?」

「おじさん。これはおじさんの責任でもあるんだから、協力してくれるよね?」

「主語を言え!お前がさっきから何を言ってるのかさっぱり分からん!」

「あんたがもっとユリル様を見てれば、こんな面倒なことにならずに済んだんだから、これはおじさんにも責任の一端があるよね。ね?」

「話聞こえてるか!?」


 目が怖い。

 コイツが司る属性の一つである闇属性がそのまま瞳に現れたのではないかと思うほどの暗黒が、私の目を凝視していた。


「お前は何を言いたいんだ、ちゃんと説明しろ!協力云々はそれからだ!」

「ちっ」


 国王に舌打ちしやがったぞこのガキ。

 しかし話自体は通じたようで、カグヤは私から離れ、向かいにあるソファに不機嫌そうに座った。


「で、お前は何を言いたかったんだ。簡潔に説明しろ」

「ユリル様と結婚するのはボクのはずなのに、ユリル様に裏切られた、だから報復に協力して。以上、わあ簡潔」

「おお、簡潔な説明だな。………はあ?」


 一瞬、脳が理解を拒否した。

 コイツ今、とんでもない爆弾発言を口走らなかったか?


「え、あ、ん?ちょっと待ってくれ?」

「なに?」

「いつからお前とユリルは、その―――結婚するなどという話になったんだ?」

「ユリル様とそういう話になったことは無いよ。ボクが勝手に言っただけ」

「???」

「あ、ちょっと違うかな。ユリル様が何と言おうと外堀埋めて無理やりにでもさせるつもりだったから、勝手に言うつもりだった、っていうのが正しいのかも」


 なんだろう、今恐ろしく物騒な台詞が聞こえた。


「………お前、ユリルのことが好きだったのか?」

「それに関しては子供の時からいつも言ってたじゃん」

「うむ、『ボクの思い通りに罠に引っかかってくれるユリル様だーいすき』とか、そういう若干捻じ曲がった発言だったがな?」


 元々、カグヤの父上と私が良き友人であること、ユリルがカグヤとたまたま同い年で会ったこと、何よりあの頃はユリルがまだ()()()だったこともあり、かなりの頻度でユリルとカグヤを遊ばせていたのは確かだ。

 ユリルが自らに宿ったあまりに膨大すぎる魔力を制御できるようになったことに関しても、カグヤの明るく無邪気でサディストな性格にかなり助けられたのも事実。

 だからこそユリルは自らの魔法を唯一カグヤに教えたのだろうし、傍付きに選んだのだろう。

 だが、同時にカグヤはユリルにとって気が置けない存在になりすぎたせいか、はたまたコイツのいじめっ子気質が炸裂しすぎたせいか、あの女好きが「アイツにだけは興奮しない」と断言する唯一の存在となってしまった。

 しかしよりによって。

 その唯一の存在が。


「ユリル様のこと好き。結婚したい。ボク以外と結婚なんて許さない。ボクだけ残して幸せになんてさせないし、ボクが不幸ならユリル様も不幸じゃないと我慢できない。でもユリル様の節操無しは有名だし、あの人は一線引いた関係を保つタイプだったから女遊びも黙認してたのに、ちょっと仕事で目を放したら………!」

「待て待て待て待て、おちつけ!」


 比喩じゃなく、体から闇が漏れ出したカグヤを必死に止める。

 私よりも遥かに強い―――ユリルほどでないにしろ、大魔導の枠組みからすら抜け出しつつあるこいつが暴れだせば、この城など簡単に吹き飛ぶ。

 死ぬ気でなだめ、胃にまた数ヵ所穴が空いた音がした辺りでようやく落ち着かせることに成功した。


「………ふぅ」

「で、報復とはどうする気なんだお前は。まさかフィーネ君を始末とか言わないだろうな?」

「さすがに言わないよ、人殺しなんてつまらないじゃん。それにあの子になにかしたらそれこそユリル様に軽蔑される。ボクはあの人の嫌がる顔が好きなだけで、嫌われるのは嫌だ」

「いまさら言うのもあれだが、性格最悪だなお前」


 アイツも大変だな………。


「じゃあどうすると?」

「それをおじさんに考えてほしいって言ってるの」

「なるほどなあ。知るか」

「あの手この手使って八人も女騙くらかして結婚した節操無しでしょ?こんな時こそ、その無駄に回ってる恋愛脳を生かす時じゃん」

「ユリルすら吐かないような暴言を平然と吐くとはどういう了見だこのクソガキが!!昔からの知り合いとて言っていいことと悪いことがあるぞ!」


 私の最大の失敗は、コイツを七星に採用したことなのではないかと思えてしまうほどの大暴言を堂々とほざきやがった。


「じゃあもういいや、自分で考えるから。あ、今話したことユリル様に話さないでね」

「腹立つから話してやろうか」

「話したら殺すから。これマジね」


 終いには国王を脅迫しやがったぞ、七星とはいえ一魔導師が。


「あ!話してたら良いこと思いついちゃった!早速試してこようかなっと」

「おいカグヤ、ユリルならともかく、フィーネ君にバカな真似はするなよ?やりようによっては私は勿論、ユリルの逆鱗に触れるぞ」

「分かってるよ、ボクがユリル様を本当に敵に回すほど馬鹿だと思う?それにボクが苛めて興奮するのはユリル様だけなんだからあの子には危害を加えるつもりは無いよ」

「まあ、それならいい」


 穴の空いた扉から出て行くカグヤを見送り、私は再び座った。


「………次にユリルに会ったら、少しだけ優しくしてやるか」

作者の百合作品、前作でも前々作でも、感想で「愛が重い」だの言われるんですよね。終いにはそれが作者の伝統芸とか言われる始末で。

はて、そんなに重くしてるつもりはないんですけどねえ?

重いですか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 基準を現実に合わせたら重いと思います。 ただ、やれ誰が好きだ彼が好きだって描写のある創作の中ではそこまででもないと思います。 重いというか…ヤンデレ傾向が強い? 元聖女しかり、魔王の嫁や染色…
[一言] Q,重いですか? A,はい。
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