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32 戦星のカグヤ

 七星大魔導序列第二位―――『戦星』の異名を持ち、七星の中でも別格の強さを持つ上位二人のうち一人。

 カグヤ・ファウストは、三十年前にこの世界に召喚された異世界人と、魔導王国最古の貴族の長女の間に生まれた。

 ワタシと同い年で、父親同士の中が良好なこともあり、昔からずっと一緒だった―――いわゆる幼馴染。

 ユウマを規格外としても、十二分にチートと言って差し支えない父方の異世界人の戦闘力及び頑強な体と、母方のファウスト家の先天的な質の高い魔力と常人離れした美貌、双方の良点を受け継いだまさにハイブリッド。

 しかし幼い頃から怖いもの知らずで、マイペースで、人が嫌がる顔が大好きなドSで、その暴虐ぶりたるや一時はワタシ以上に頭を抱えられたほどだった。

 ずっとカグヤに巻き込まれ続けたワタシは、思春期こそその大陸最高位クラスの美形にドキッとしたもんだけど、今じゃその気持ちも完全に薄れ。

 気づけばカグヤは、ワタシが家族以外の女の子に対して一ミリも性的興奮を覚えない、唯一の女と化していた。


「頭のおかしいサディストてのは心外だなあユリル様。それだとボクが他人をボコボコにするのが大好きみたいに聞こえるじゃん」

「合ってんじゃん」

「誤解だよ!ボクはあくまで人の嫌がる顔が好きなだけだし、それにしたって自制してるよ!ボクが何のリミッターもかけずに心底楽しんで遊ぶのはユリル様でだけだから心配しないで!」

「何の心配もしとらんわ、お前そろそろ不敬罪でしょっぴかせるぞ!」

「残念でしたー、七星大魔導のボクは不敬罪で捕らえることはできませんー。ねえ悔しい?悔しいよね?でもボクを強くしたのはユリル様だから、これって自分で蒔いた種だよね?ねえ今どんな気持ち?教えてよねえねえ」

「ああああああうっぜええええ!!!」


 ワタシが女の子を殴りたいと思うのも、尊重したいと思わないのもコイツだけだ。

 それでもこの不届き者を傷つけたことは一度もない辺り、心のどこかでまだこいつを女にカウントしてるのかもしれん。

 適当なワタシ好みの性格の子とコイツの人格を入れ替えてやろうかと思ったのも一度や二度ではない。

 そう思ってしまうほど、顔は好みなのだ。

 そう、顔だけは。

 くどいように言うが、顔だけは女の子が比較的多いこの国でも五本の指に入るほどの美形なんだこいつは。


「ははは、やっぱユリル様()遊ぶのは楽しいなあ!これからもボクの最高のオモチャであり続けてねユリル様?」

「あんた以外の女子に言われりゃ『喜んで』と即答する所だけど、カグヤに言われても一ミリも嬉しくないしなんならぶん殴りたくなるからやめてくんない」

「殴るって………この美形を?」

「もうこいつホントヤダ………」

「殴れないよね?殴れないよね?だってボクの顔はとことんユリル様好みだもんね?ねえねえ、最高の顔面がユリル様にとって最悪の人格にくっついてるってどんな気持ちなの?ねえ、後学のために教えて欲しいなあ。ねえユリル様、ほらほらどうしたの、答えてよー」


 鳩尾に一発魔法をぶち込むことを真剣に考えた。


 ん?

 最高の、顔面?


「………ふ、ふふふ」

「ん?どうしたのユリル様、ボクがウザすぎて壊れた?」

「ウザいという自覚があったんならやるなボケナス。いや、そんなことは今はどうでもいい。あんた今、『最高の顔面』と言ったね?」

「言ったよ。だってユリル様がこぼしたんじゃない、『この性格さえなければ結婚したい顔ランキングナンバーワンなのに』って」

「はーっはっはっは!!」


 キョトンとした顔のカグヤに、ワタシは勝ち誇ったように笑ってやった。

 なんだか、初めてこいつに勝ったような気分を覚える。

 別に何かに勝ったわけでもないような気もするが、そんなものはどうでもいい。


「残念だったねカグヤ。そのランキングはあんた不在の間に更新されたよ」

「え?二位がってこと?ボク以上の美貌の持ち主なんてこの世にいるわけないし」

「お前のその過剰極まりない自信はどっから出てくるんだろうね、一回脳を解剖してみたいよ。―――ふふふふ、残念だったねえカグヤ。七星の第一位からも陥落し、挙句にはワタシの顔面ランキングすら二位に落ちるなんてね!」

「!?」


 おや、おもったよりショックを受けたようだ。

 驚愕に満ちた顔をしている。


「そ、そんな………!?ユリル様、ついに女好きを拗らせてイマジナリーフレンドをランキングに?ボクがもうちょっと大人しくしていれば!」

「ちゃうわ!!横にいるだろ!ほら、この子!!」

「え?」

「あ………やっと話に参加出来そう」


 暫くの間随分とほっぽってしまったフィーネが、戸惑ったような顔をしつつも一歩前に出てきた。

 カグヤはようやく気付いたとばかりにフィーネをジロジロと見て、そのムカつくほど美しい目をぱちくりとさせた。


「何この、ユリル様の理想を全てに詰めて作ったような美少女」

「紹介します。ワタシの婚約者(仮)のフィーネちゃんです」

「はじめまして、フィーネです。よろしくお願いいたします」

「あ、どうも。よろしく」


 さしものカグヤも、フィーネが作り出すちょい特殊な空気には抵抗できなかったのか、つられて挨拶をする。

 しかしその戸惑いは一瞬、カグヤは目をいきなり見開いて。


「―――ユリル様の、婚約者。………婚約者あ!!??」


 おお、カグヤがこんなに驚いた顔は地味に初めて見たかもしれない。

 ちょっとした感動を覚えていると、カグヤの表情に一瞬妙なものが走った気がした。

 本当に一瞬だったのでよく分からないけど、なんとなく―――負の感情だったような?


「ユリル様が、結婚―――!?そんな、何時まで経ってもその女癖の悪さで相手が寄り付かず、結局キャバクラとかで悲しみを紛らわして家で泣く、それをボクが笑いをこらえながら見るっていうのがボクの夢だったのに!」

「よしわかった、そんなにその捻じ曲がった脳みそを叩き直されたいか」


 そういうことかよこの女。

 ちょっとでも違和感なんて覚えた私がバカだった。


「ま、いいや。ならプランFに切り替えるだけだし」

「なによプランFって。なんのプラン?」

「ユリル様をより楽しく、より効率的にいじめるプランだけど?」

「ワタシ!王女!お前!配下!いくら不敬罪がないからって立場をちょっとは弁えろこの変態が!」

「珍しく正論を言うけど、変態云々をユリル様に言われたくないね」

「珍しく正論を言うな!」

「フィーネって言ったっけ?初めまして、ボクはカグヤ。闇属性と光属性を扱える七星の一人さ。もしユリル様に妙なことをされたらボクに言ってね、大義名分を得て堂々とユリル様を遊び道具にするから」

「は、はあ」

「変なことを吹き込むなああああ!!」


 ダメだ、制御できない。

 九人外の一角、世界最強候補であるワタシが持て余すほどの存在って、こいつ無敵か。

 数日会わなかっただけで、コイツの自由人ぶりにも拍車がかかって来てる気がしてくる。


「じゃ、ボクはそろそろ行くね。国王陛下(おじさん)に一応報告に行かなきゃだし」

「さっさと行け!………いや待て、その前にワタシに報告!」

「気分じゃないからヤダ」


 いっぺんの曇りもない笑顔で断ってきたこの娘に腹パンも一つでもお見舞いしてやろうかと思ったけど、直後に姿が消えてしまった。

 神出鬼没という言葉がまさに似合うアイツだ、大方言ってた通り父上の所に向かったんだろう。


「ユリル、大丈夫?」

「なんとか………」


 女に手を挙げない主義のワタシが、十二回ほど殴りたい衝動に駆られた程度には嫌な時間だった。

 なんとかあいつをもっと、フィーネのようにおしとやかな性格に出来ないものか。

 精神魔法を使えば簡単だけど、それはさすがに虚しい。


 しかし畜生、アイツのせいでチューもへったくれもない空気になってしまったじゃないか。

 言いたいことだけ言って消えやがって!

 ―――あれ?


「フィーネ、アイツ最後、父上の所に報告に行くって言ってた?」

「言ってたよ」


 おかしいな。

 報告なんて面倒な真似、すべてワタシか近くを通った気の毒な人に押し付けて遊び惚ける自由人のカグヤが、口でとはいえ父上に報告に?

 珍しい―――というか初めてでは?


「ねえユリル」

「まさか、何か企んでるのか?いや、アイツはあれでも頭は回る、本気でワタシやシズカを敵に回すようなことは―――」

「ユリル?」

「え、あ、はい?どうしたの?」

「続き、する?」

「―――いや、また今度もーちょいムードが出た時に」

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