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28 目標は決まった、善は急げ

 ユウマ・カンザキとワタシの関係を語るには、ちょいと長ったらしい昔話をしなきゃならない。

 一部を除いてクソどうでもいい話なので出来るだけ詳細省いて話そうか。

 事の発端は三年前、シラユキ教の総本山であるエプリ聖国が『勇者召喚の儀』を行ったところから始まる。

 異世界からこの世界に適性のある人間を召喚するこの術式は、聖国に設置されている魔法陣に神官や雇われ魔導師が魔力を送り続けることで、半世紀に一度だけ起動できるもの。

 原則一人しか召喚出来ないこの術式だけど、この時は二人の異世界人を召喚することに成功した。

 一人目の名前はユウマ・カンザキ。

 二人目の名前はシズカ・ジングウジ。

 聖国は魔人王に対抗する戦力として、そして周辺諸国(てか主にワタシ)への牽制に使えると飛び上がって喜んだ。

 だけどこの二人のうち、ユウマはどうやっても魔法も何も身に付かず、早々に聖国に切り捨てられ、最低限の持ち物だけ持たされて追い出された。


 んで、それを拾ったのがワタシ。

 そもそも異世界人に興味があったから、ユウマを連れて魔導王国に亡命させ、実験に付き合わせた。

 すると、とんでもない事実が発覚した。

 ユウマは魔法の才能とかがない代わりに、ある能力を一つ有していた。

 その能力は過去の異世界人の誰よりも恐ろしく、そして強力なもので、ユウマはその能力で異常な強さを手に入れ、最終的に後に出会ったもう一人の男と三人で手を組み、聖国が自信満々に送り出したもう一人の異世界人ちゃんより先に魔人王を倒した。

 ついでにその勇者ちゃんも、今後ユウマのように追い出されないとも限らないので、魔導王国から正式に前例出して抗議してこっちで半ば無理やり引き取った。

 これがまあ、事の顛末ってやつだ。




 ***




「えー、ではこれより、裁判を開廷します」

「お前の傷害と住居侵入、名誉棄損についてのか?」

「被告、あなたに発言権はないので黙って判決を待ってなさい」

「聞いたことねえよそんな被告に優しくない裁判」


 苛立ちを隠そうともせずに椅子に座ってトントンと机を叩き続ける被告(ユウマ)に、裁判長(ワタシ)は判決を突き付けた。


「判決、死刑。あと嫁をユリル・ガーデンレイクに譲渡すること」

「上等だこの汚職裁判長が、テメーを死刑にしてやるよ!」

「ユウマ、落ち着いて!ユリルも本当にやめて!話し合いましょう!きっと分かり合える!」


 ラスティが悪魔らしからぬ平和主義的なことを言ったけど、美女のお願いは断れないワタシは、再び席に着いた。


「で、マジで何しに来たんだお前。なんか新しい女ひっかけたんだろ?本性がバレる前にさっさと籍入れて尻に敷かれてそのまま潰されて死ねバカ女」

「そのひっかけた女の子についてだよ。って誰がひっかけただ王女権限で人権剥奪すんぞクソ野郎」

「なんであなたたち、会うたびに罵声を浴びせ合うの…………」

「まああんたの死については要相談として。フィーネについて話をしに来たんだよ、さっさと白状しろ人でなし」

「この世界に来て初めてだ、こんな身に覚えのない罪で責められるのは」

「えっと、ユリル。取り敢えず詳しく説明して頂戴な」


 ラスティがそう言うので、ワタシはさっき起こった事件について説明した。

 フィーネと男の位置が入れ替わった件についても含めて。


「はーん、魔法だけは世界最強なお前が言うなら魔法じゃなかったんだろうな。で?それがなんで俺に関係してると?」

「惚ける気かコイツ、そういう力を持ってるのはあんただけだろーが」


 九人外の一人、ユウマ・カンザキ。

 《超越者(オールラウンダー)》の異名を持つ、世界最強の異世界人。

 ワタシの知る限り、この男以外に魔法以外で物理法則を無視した現象を起こせる生物はいない。


 ユウマの唯一にして絶対の能力《無限覚醒》。

 究極の主人公補正、あるいは最強のご都合主義と呼んでもいいか。

 その力は簡単に言えば、命に関わるレベルのピンチになった瞬間に、そのピンチに対応した、特殊な異能力が芽生えるというものだ。

 例を挙げるなら、常人なら即死レベルの電撃を食らった時、食らう0.1秒前に「体内に電気を蓄電し、放出する」能力が芽生え、無効化したり。

 剣で斬られた時は「超再生」の能力が芽生えたり。

 更に恐ろしいのが、この能力は自動発動型のために、不意打ちも一切効かないという無双ぶりだ。

 なにせ不意打ちすれば、それに対応した新しい能力が芽生え、さらに強くなってしまうんだから。

 コイツの魔導王国亡命時代にその能力にいち早く気づいたワタシは、興味を持ってどんどん魔法をぶちかまし、結果的にそれを無限に学習して覚醒し、ユウマはちょっと引くくらいの勢いで強くなっていった。


 コイツを殺すには、ピンチが大きいほど能力の覚醒に時間がかかる(最大で一秒強)ことを利用し、究極魔法を一か八か一秒以内に数発連打するか、あらゆる特性を無効化する魔剣・神剣の類いを使うくらいしかない。

 それにしたって、過去に覚醒した防御・結界系の能力を併用されればガードされる可能性がある。

 物語の主人公が持ってたりしたら間違いなく萎える、「ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく」を地でいく力だ。


「要するにあれか?お前はその、フィーネだっけ。そいつが持ってるその能力が、俺の無限覚醒と同質のものだって言ってんのか」

「そういうこと」

「先に言っとくが、俺はマジで心当たりないぞ。俺は魔人王を殺した時に得た大金で、ラスティと静かに余生をすごせりゃそれでいいんだ。覚醒した能力で生活には苦労しないし、これ以上の力を望む気もない。そんな女を生み出す理由がないし、そもそもいくら俺でも、生命創造なんてふざけた能力は覚醒してない」

「真面目な話、それについてワタシはその真偽を判断する術がないんだよ。あんたがどれだけの数の能力を覚醒させたか、こっちは466までしか知らないし」

「今は602だな」

「ほら、それが嘘か本当かもわからない」

「魔法で調べりゃいいだろ、自分に対する魔法効果百分の一にする能力と精神攻撃完全耐性はオフにしてやるから」

「『魔法の結果を改竄する能力』が覚醒しているかもしれないじゃん」

「ねえよそんなもん」

「だーかーらー、ワタシにはそれが判断付かないんだっつの」


 埒が明かない。

 ワタシの魔法はこの世界のどんな生物にも通用するけど、相手がワタシと同じ九人外となれば例外だ。

 どんな能力を隠し持っているか分からないし、ワタシも自分の真の本命の魔法の幾つかは誰にも見せたことがない。

 それはユウマも同様のはずだ。

 つまり、こいつに嘘発見や読心の魔法を使っても、その結果が正しいとは限らない。


「おいお前、なんか魔法準備してないか?」

「いや、もうめんどいからぶっ飛ばして吐かせようかなって」

「知らねえっつってんだろ!そもそも、いくら魔力を用いない超現象を起こせるのが俺だけとはいえ、それはあくまで()()()()()()()()()だろ!?じゃあ他の九人外が持ってないとは言えないだろうが!」

「むっ…………」


 たしかに。

 ユウマとワタシと、あと既にこの世界にいない『魔人王』ネメアを除いた六体が、生命創造ないしは完全記憶消去を持っていないという保証はない。

 同時に、ユウマと同質の能力を与える力も。

 少し先走ったけど、ユウマとは限らないかもしれないのか。


「じゃあどうすりゃいいんだ、振出しに戻ったわ」

「知るか。いっそ全員に会いに行け」

「え?…………おお、その手があったか」

「は?」


 ワタシ以外の九人外の八体中、ワタシが過去に会ったことあるのはユウマを含めて五体。

 まずはその全員に会って尋問というのは、正直アリだ。


「よっしゃ、そうするか」

「いや待て、お前一応は王女だろ立場ってもんを」

「じゃあまた来るわユウマ、ナイスアイディアをありがとう」

「いやもう来るな」


 早速準備のため、自室に転移の準備をして、飛んだ。



「…………冗談だったのに」

本日、年内最後の更新になります。

次回更新は1月上旬予定です。

皆様メリークリスマス。あと良いお年を。

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