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27 心当たりは手当たり次第に

 ガーデンレイク魔導王国から遥か東に向かった先に、その森は存在する。

 かつては魔人王の統治の元、魔人族が管理していたその森は、名すら与えられずに―――ただ『魔境』と周辺諸国からは呼ばれ、忌避されていた。

 理由はは色々とあるが、その中でも最たるものは、生息するモンスターのレベルの高さにある。

 モンスターは外側から内側に行けば行くほど強くなり、最外円ですら相当に強い。

 特に中心部ともなれば、大魔導クラスが苦戦するほどの強さを持つ存在すらいるため、ここを開拓するとなれば七星大魔導全員を動員してギリギリ、というほどの難易度を誇る。

 まさに余程の手練れでないと入ることは許されない、要塞よりも堅牢な森だった。


 しかし。

 そんな恐ろしい魔境の中心に―――一軒の家が建っていることは、この世界でもほとんど知られていない。

 さらにそこに、二人の住人がいることも。


「はい、あーん♡」

「あーん」


 そして、その二人がその場所に似つかわしくない、甘々ラブラブな関係を築いている男女であるということもだ。


「美味しかったよラスティ、いつもありがとう」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しい。あなたの好みも分かってきたし、そろそろ胃袋を掴む日も近いかな?」

「ははは、とっくに掴まれてるよ」

「もう、ユウマったら!」


 ユウマと呼ばれた男と、ラスティと呼ばれた女は、互いに幸せそうに笑い合っていた。

 幸せに見えるカップルだが―――一点、普通とは違う点があった。


「ラスティ、羽根に何か付いてるよ」

「え?あ、本当だ」


 それは、ラスティの外見だ。

 ユウマは黒髪黒目、平々凡々という言葉がふさわしい人間。

 だがラスティは、人間ではなかった。

 美しい赤みの茶髪、透き通るような肌。

 そして、二つの八重歯、頭に小さな日本の角、蝙蝠のような羽根。

 逆に淫靡さすら感じるその見た目は、まさに悪魔のそれだった。

 ラスティの正体、それは。

 魔界に存在する四柱の最上級悪魔の一柱、「傾世」の悪魔ラスティ。

 そのあまりの美貌と淫蕩の能力、そして強さから、世界を混乱に陥れるとされる最大級の危険存在だ。


「ラスティはおっちょこちょいだね。そういうところも好きだけど」

「んぐっ…………も、もう、そういうことサラッと言わないでよ!」


 だが、今はその色欲と強欲の権化とまで呼ばれたその牙はすっかりと鳴りを潜め、かつて自分が受けた寵愛を全て真似るが如く、一人の男を溺愛していた。


「そ、それよりっ!ユウマ、さっき外を覗いてたみたいだけど、何かあったの?」

「ああ…………。お前の仲間がまたあの女にこき使われてたみたいだ。昨日、最上級悪魔召喚の術式を感知して、ちょっと見てたら案の定アイツだったよ。まあこの世界で最上級悪魔と契約してるのは俺とあの馬鹿しかいないし、当たり前なんだけどな」

「なんだ、ウェリスか。まあいいんじゃない、あの暴虐野郎にはいい薬でしょう」

「あと、なんかそのウェリスが女装男子になってる」

「…………もしかして、あの子が超女好きなのを逆手にとってってこと?」

「そうみたいだな。まあことごとく失敗してるみたいだけど」

「でしょうね。でもおかしいわね、あの子がわざわざウェリスを召喚するなんて。しかも話を聞く限り、まだ召喚を解いていないんでしょう?サキュバスとかエキドナとかハーピーとかばっか召喚してるあの節操無しの百合っ娘が、ウェリスを長時間召喚したままにする意味って何かしら?」

「それなんだけど、どうもアイツの好みド直球の女の子がいて、その子の護衛に召喚したらしい。手持ち最強の召喚体のウェリスを使うなんて、よっぽど気に入ってるんだろうな」

「そうなんだ。なんだかんだあの子は誰か一人選ばずに遊び人として生きていくか、傍付きのあの子とくっつくと思ってたのに」

「俺もそう思ってたんだけど。ま、あんな奴のことはどうでもいい。俺はここでのんびり、ラスティと静かに過ごせればいいんだから」

「もうっ、ユウマってば」


 ユウマとラスティの目が合わさり、互いに熱い視線を向け合った。

 二人は立ち上がり、一歩ずつ前に出て行く。

 やがて体を密着させた二人は、そのまま唇を―――。


「おるあああああっ!!」

「ぶべえっ!?」


 合わせようとした瞬間、何者かが突如家の中に現れ、ユウマを蹴り飛ばした。

 ユウマは勢いづいて家の壁に激突し、そのまま突き破って外に吹っ飛び、魔境の出口ギリギリのところで押しとどまる。


「ユ、ユウマああああ!?」

「久しぶり、ラスティ。いつ見ても変わらず美しいね、うちのウェリスと交換される気ない?」

「あんた、私の愛し人を蹴り飛ばしといていきなりそんなこと言うとか頭は大丈夫!?」

「ワタシの頭は常に清く正しく、女の子と魔法のために回ってるんだよ、あんな男はどうでもいい。といいたいとこなんだけど、今日に関してはどうでもよくなくてさ、用があって来たんだよね」

「じゃあ蹴り飛ばす必要はないじゃない!」

「いや、ラスティみたいな美人があれに取られてる状況になんかムカついて」

「おいこの野郎!!大体予想はつくが誰だ、人の家に勝手に転移してきやがった馬鹿は―――やっぱお前かよユリル!!」

「ちっ、生きてたか。あのまま死んでりゃラスティもワタシのものに出来たのに」

「てめえマジぶっ殺すぞ!二度とその面見せるなって言っただろうが!」

「野郎との約束と常識はね、破るためにあるんだよ」

「カッコイイっぽいこと言いやがってこの外道女が、賠償は魔導王国に請求させてもらうからな!」

「ああん?賠償請求はこっちのセリフだ!お前だろフィーネの記憶に何かしたのは!!ワタシの可愛い可愛い可愛いフィーネを傷つけやがって、さあ吐け、何をした!さっさと吐かないと殺すぞ、吐いても殺すけど!」

「人の家を破壊し、嫁を寝取ろうとして、今度は濡れ衣かこの厄災女が!上等だよこの野郎、表出ろ!お前を殺せば魔導学の進歩は停止すれど、多少は平和な世界になる!この世界に召喚された勇者として、責務を全うしてやる!」

「お?お?やんのか?極限魔導の本気を見たいって言うんだなよーしわかった、あんたのその特性を発揮する時間すら与えずにこの世から消し炭にすれば、フィーネの記憶も戻るかねえ!?」

「ちょっと待って!二人が戦うのは本当にまずいから!この世界が消し飛ぶからあ!!」


 突如乱入してきたユリルに激昂するユウマ。

 ユリルと同じ、魔人王殺しの英雄の一人にして。

 異世界から召喚された勇者であり、ユリル・ガーデンレイクと同格の存在。


 九人外の一人、ユウマ・カンザキは。

 ユリルと互いに胸倉を掴み合い、立ち上がった。

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