26 早くも発見
遅くなりました………
「メロ、お疲れー」
「お疲れ様です」
「どうもー」
ワタシの結界があったとはいえ、シャッターをぶち破ってから十五秒で、一級魔導師クラスを含めた全員を捕縛。
うん、強くなってる。三か月前に見た時のメロなら十七秒はかかっていたと思う。
「ユリル様、どうでした?」
「83点。鏡の角度に無駄が若干ある。あの部屋の大きさならあと鏡を二枚減らしても【無限乱反射】は使えるね。光魔法の熱密度は言うことないからそこだけかな」
「なるほど」
「でも前より確実に良くなってる。メロなら本気を出せばもうちょい上行けるから、がんば」
さすがは七星大魔導、魔法の完成度、速度、精度は他の魔導師と一線を画す。
ダメ出ししたものの、あの魔法を避けられるのはこの世界に五十人いないだろう。
これでも発展途上なんだから、将来が楽しみ楽しみ。
「ところで、あそこに放っておいたらいずれ目を覚まして逃げますよ」
「あー、一応ワタシが捕縛しとくか。最近改良した時間属性の拘束魔法があるんだけど、試してみていいかな」
「多分、一気に老化した挙句に塵とかになりそうなんで辞めといたほうが良いと思うんですけど」
「そう?んじゃ、普通に既存ので縛るか」
「ユリル、大丈夫?」
「ん、なにが?」
「ここまで空間魔法の転移と、大きな結界を張って、魔力は?」
なんだいフィーネ、無表情の奥に心配が見える。果てしなく可愛いじゃないか。
だけど、その心配は無用だ。
「あー、大丈夫だよフィーネちゃん。この人、魔力無尽蔵だから」
「そうなの?」
「例えばそうだな、普通のその辺を歩いてる六級とか五級の魔導師の魔力が10として、あたしたち大魔導は平均で5000から10000くらい。魔力を増やす方法は色々あるんだけど、大魔導クラスでもこれくらいが限度ね」
「じゃあユリルは?」
「…………100万ちょい?」
「もうちょい行くかな、500万届かないくらい」
「えっ」
「フィーネちゃん、ユリル様の将来の伴侶だって話だから忠告しておいてあげるけど―――この方を人間として見てると色々とずれるよ、気を付けて」
実に不名誉だけど、事実であるがゆえに何も言えん。
「ちょっと、フィーネを怖がらせないでよ?基本的にワタシは無害な美王女なんだから」
「無害ってなんかの冗談ですか?」
「女の子には無害だよ。男は知らん」
そもそも、ワタシが限界まで結界で抑えた魔法実験の、抑えきれなかった余波程度でダウンする軟弱な男共も悪いんじゃないだろうか。
女の子は毎回個別に結界で守ってるけど。
「フィーネちゃん、本当にあの人でいいの?後悔するよ?魔法と女子への性欲だけを煮詰めて作ったような、一種の呪いか何かみたいなものだよ?君なら早まらずとも良い人が見つかるって」
「ねえちょっとメロ、あんたが男だったらそろそろぶっ飛ばしてるからね?自分が美女であることに感謝しな?」
チクショウ、ワタシが女の子に手出しできないのをいいことに言いたい放題言いやがって。
寝室に無理やり連れ込んでヒィヒィ言わせてやろうか、いや何がとは言わないけども。
なんとかメロにちょっとした仕返しが出来ないかと考えていると。
「…………メロさん、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。わたしはユリルの友達だから。一緒にいる」
「そう?」
「どんな人でも、わたしを助けてくれて、記憶を戻すって言ってくれたのはユリルだから。わたしは信じる」
……………………。
おお、あっぶね、あまりの尊みで死ぬところだった。
なんて可愛いことを言うんだこの子は、ワタシを尊死させる気なのだろうか。
「ふーん。まあ、二人がそれで良いならあたしは納得しますけど。ユリル様、この子ちゃんと捕まえておいた方がいいですよ?こんないい子滅多にいませんから、引く手数多だと思いますし」
「分かってるよ。言われずとも離す気は―――」
「おらああああああ!!」
ワタシがそう言いかけた瞬間。
一人の男が、フィーネに向かってナイフを持って突っ込んできた。
例の強盗の一人だ。
なるほど、ワタシとメロに向かっちゃ、到達する前にボロボロにされるのがオチだ。
こんだけの距離、メロなら二十回、ワタシなら千回は到達する前に殺せる。
だから事前情報が無く、かつワタシやメロと関係ありそうなフィーネを狙ったと。
苦し紛れの攻撃にしては悪くない策。
だけどこの男の誤算は。
「……………お前ごときが、ワタシのフィーネに凶器を向けるだあ?」
フィーネが、ワタシのお気に入りであるという点だろう。
こんな身の程知らずの男が、ワタシの可愛い可愛いフィーネを狙う?
なるほどいい度胸だ、お望み通り千回殺して地獄にすらいけないようにしてやる。
「あっ………」
「死ねえええ!!」
ワタシが魔法を放とうした。
その、瞬きの瞬間。
「えええ………は?」
「え?」
目の前で起こった事象に、ワタシすら一瞬ついていけなかった。
フィーネと男の位置が入れ替わった。
逡巡一瞬。
慌てて魔法を中止し、男にショック魔法を放って気絶させ、さらに拘束魔法で残りの強盗全員を縛った。
「フィーネ、大丈夫!?」
「う、うん。助けてくれてありがとう」
「え?…………ああ、うん。無事でよかった」
傷はない。
随分離れてたし当然か。
「ごめんねフィーネちゃん、あたしの攻撃が甘かったから!」
「ううん、メロさんのせいじゃない。大丈夫」
「メロ、さっきの点数、68点に下げるね」
「うっ…………すみません」
フィーネの安否を確認し、強盗全員を一か所に集め、今度こそ絶対に逃げ出せないようにした。
「でも、さすがユリル様ですね。あの一瞬で男とフィーネちゃんを入れ替えて安全を確保して、一瞬で気絶させるなんて」
「まあね」
ワタシはメロの賞賛に適当に返事をしたけど、内心はそれどころじゃない。
どういうことかと猛烈に混乱してる。
さっきの入れ替わり―――あれは、ワタシの魔法じゃない。
いやそもそも、魔法ですらない。この世界のどんな微妙な魔力変化も絶対感知できるワタシが、微塵も魔力の発動を確認できなかった。
間違いなく、魔法以外の事象。
しかも、元々フィーネの陰に潜ませていた、護衛のウェリスが、あの一瞬だけ強盗の男の影に移動していた。
つまり、フィーネとあの男の位置座標のみが強制的に書き換えられてとしか考えられない。
魔法じゃない、謎の力によって。
この力を持つ人間を―――ワタシは一人しか知らない。
「ふ、ふふふ…………」
「え、怖っ。ユリル様?」
頭の混乱が払拭され、次にワタシに到来した感情は、怒りだった。
ああ、そうか。
アイツか。
「まさかこんなにすぐにわかるとは。明日辺りぶっ潰しに行くか」
「何物騒なこと言ってるんです?」
「気にしないで、こっちの話」
フィーネの記憶に関係しているのは―――あの男だ。




